特集 ニッチリッチ

KADO(兵庫県たつの市)
徹底的な調査と柔軟さで先端複合材料の総合企業に脱皮

倉谷社長

顧客の課題ととことん向き合えば、無双の知識とノウハウが身に付く。
そうした姿勢で、繊維と樹脂を組み合わせた先端複合材料を極めた企業がKADOだ。
製造受託に始まり、開発受託、そして生産設備の開発受託へと、業態を拡大させている。

 兵庫県たつの市の深い山の中に、ひっそりと研究所兼社屋を構えるKADO。先端複合材料そのものの開発から製品製造に必要となる自動成形ロボットの開発までを請け負う先端複合材料分野の総合企業だ。従業員18人(2019年5月現在)という小さな会社でありながら近年、オートメーション事業で2億円以上を売り上げている。取引先も大手自動車メーカーから宇宙航空研究開発機構(JAXA)まで幅広い。「国内に例がないカーボン複合材の自動成形装置メーカー」「複合材を高品質で量産品化できる企業」として注目を集めるKADOのビジネススキームを、創業者である倉谷泰成社長に取材した。

JAXAに納品した長さ6mの主翼構造を前に立つ倉谷社長
JAXAに納品した長さ6mの主翼構造を前に立つ倉谷社長。独自のVaRTM成形をはじめ、JAXAの下での航空機部材の開発はKADOの高い技術力が認知されるきっかけとなった
(撮影:橋本かをり)

未開発のCFRPに注力

 KADOが得意とするのは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)をはじめとする先端複合材料の開発だ。委託製造から、ロボットを用いた量産ラインのシステム構築までトータルで開発できるところが最大の強み。大手メーカーや研究機関から受注を受けての研究開発が事業の主軸となっている。顧客の要望に合わせた、高品質な自動成形加工装置一式をシステムとして開発・提供できるのは、KADOならでは。それは、ハンドレイアップ(樹脂を塗って積層する成形)、RTM(型の間に樹脂を注入する成形)、プレスといった手作業での成形工法を持ちつつ、ロボットを使用したデジタル成形まで社内で行っているからである。顧客は自動車メーカーから一般工業部品メーカー、アパレル、食品加工まで様々だ。近年では量産性とリサイクル性に優れた熱可塑性のCFRPの加工・成形に注力しており、繊維メーカーや大学などと連携して量産技術開発を進めている。日本では熱可塑性のCFRPや複合材の自動成形技術の開発はあまり進んでおらず、同社はまさに「ニッチ」領域を築きつつある。

カーボン繊維とエポキシ樹脂のCFRPサンプル
カーボン繊維とエポキシ樹脂のCFRPサンプル。独自のVaRTM成形による美しい仕上がり
(提供:KADO)

ヨットに端を発する本気の開発

 意外なことに、2000年の創業時は研究開発がメインではなく、新型ヨットの製造から修理、パワーボートやパーツの製作などを手掛けていた。実は倉谷社長は生粋のヨット好き。11歳で兄の通っていたヨットスクールに参加してヨットに魅了され、16歳で近所のマリーナでクルーとして働き始めた。その後レーシングヨットの本場ニュージーランドに渡り、大型ヨットやパワーボートの製作を学んだ。この、ヨットに明け暮れた日々が現在の開発への姿勢の根源だという。「海の上でヨットが故障すれば命に関わる。クルー時代は大きなワッシャーがなければ五円玉で代用したし、既存工具でベストなものがなければ自分で手元にあるものを工夫して現場で作ることを学んだ。まさに命がけのアイデア出しをしてきた経験が生きている」と倉谷社長は振り返る。当時日本では生産されていなかった先端素材を使用した大型艇の製造をニュージーランドで数多くこなす中で、FRP(繊維強化プラスチック)成形技術も吸収した。帰国後、海のF1といわれる世界最高峰ヨットレースである「アメリカズカップ」の2000年大会で、ニッポンチャレンジ所属のオールカーボンFRP製全長25m艇の建造・メンテナンスに携わった。大会終了後、2000年に、自ら親方として新型ヨットを作りたいと、26歳にして起業に踏み切った。

JAXAも認めた高い技術力

 ヨットの量産から研究開発の道に転換するきっかけとなったのは、起業から2年後の2002年、ある大手自動車メーカーの研究所からの依頼案件だった。「あるFRP部材の研究開発をしてほしい。成果物は未完成でいい。その代わり、何をするとどのように改善されたか、その過程をまとめたレポートも納めてほしい」という、当時としては稀有な依頼内容だった。この仕事の中で研究開発のノウハウを学び、手応えも感じた倉谷社長。航空機での低コスト複合材料の開発に取り組んでいたJAXAに、創業当時から研究開発に取り組んできた独自のVaRTM成形法を売り込む。VaRTM成形は、成形型の上にカーボンなどの強化繊維を積層したものを真空状態にし、注入した樹脂を熱で固める方法だ。オートクレーブなどの高温・高圧の設備が不要で、低コスト化に有効な技術として船や自動車用の大型部材製作に利用されてきた。KADOは当時、高品質なVaRTM成形法を開発していた。これは、樹脂の注入方法を工夫したり繊維基材を3次元に賦形したりすることで部品を一体化し、樹脂を繊維に均等に浸透させるものだ。JAXAは、会社の規模を理由に契約に難色を示したが、試作品の持ち込みなど熱心な姿勢と確かな技術力が認められ、契約にこぎ着けた。試験用の主翼製造を皮切りに、先端航空機の様々な部材の研究開発を以後10年にわたり手掛けることになる。

オートメーション化で切り開くニッチ

 FRP製品の研究開発と成形製造を手掛ける中で目を向けたのが、FRP成形のオートメーション化だった。国内の複合材料業界では、ロボットを用いたオートメーション化はまだまだ進んでいない。FRPの成形製造は手作業が主流だった。「カーボン複合材を自動で成形できれば量産化と品質の安定化が図れる」。そう直感した倉谷社長は業界に先駆け、ロボットや周辺装置を導入した成形や生産工程のオートメーション化に乗り出した。このオートメーション化の推進で大きな契機となったのが、2014年にドイツの大手ロボットメーカーKUKAとシステムパートナーシップ契約を結んだことだ。KUKAとの提携で世界最先端の高精度ロボットの活用が可能となった。ここから顧客の要望に合わせた自動成形加工システムの開発・提供が加速。「量産を見越した成形技術の開発依頼は増えている。何千万円もする自動成形装置を納品したケースもある」と倉谷社長は振り返る。

2008年、播磨科学公園都市に建設した新社屋と工場
2018年、播磨科学公園都市に建設した新社屋(右)と工場(左)
(提供:KADO)

単価は大手でもトータルでは安い

 研究開発請負ビジネスは、開発の内容や試作回数などにより、かかるコストが変動する。また、開発委託案件数も一定ではない。年によって、年商や利益は大きく変動する。研究開発は試作品を1回作って成功ということはまずない。例えばロボットハンドなら最終条件を出すために5回程度の試作をみておく必要がある。1回で条件が出ればもちろん儲かるが、5回の試作でだめなら、できるまで挑戦するため、コストがかさむ。

 「受託している案件をこなす以外に、最新の技術などのリサーチなどもしなくてはならないので、極端な話、社員の半分を社内研究開発・調査業務に充てても会社が回るくらいにしなければならない。だからうちは、時間単価は約1万円、はっきり言って大手並みの単価だ。でも逆に、これまで開発してきた技術があり、研究の道のりを自社で短縮できるので、最短距離で目的のものを提供できる。そのため、トータル的に非常に安いとみることもできる。そこにビジネスが成立している」と倉谷社長は語る。実際に、JAXAから数千万円で受けた仕事をある重工機メーカーの人間に見せたところ、単位は「億」ですか、と聞かれたこともあるという。

倉谷社長が手に持つのは、試作段階の杖
倉谷社長が手に持つのは、試作段階の杖。熱可塑性のCFRPで作ったおわん型のパーツが接地面に付いており、安定しやすいデザイン。成形加工の工夫で量産化を試みている
(撮影:橋本かをり)

「こだわらないにこだわる」

 KADOは、過去の実績や常識にとらわれず、顧客のやりたいこと、実現したいことに対して常にゼロベースで考えることをモットーとしている。倉谷社長はこれを、「こだわらないことにこだわる」と表現する。この仕事への考え方・姿勢を社員に浸透させるため、教育にも熱を注ぐ。「仕事を始めるとき、ハンバーガー店でメニュー選ぶほど、仕事のやり方を真剣に選んでいるか? 今までそうしてきたから、そう言われたから、といった常識に縛られていないか? すべての物事には理由があり、その理由を全部説明できなければ開発はできない。だから僕はよく『言い訳は大事』と社員に言っている」と倉谷社長。さらに社員には、与えられた課題に対して徹底的に研究し、世界で一番になるように指導しているという。この貪欲な開発精神がKADOの技術力を支えている。KADOの強みは、常に海外に視野を広げて活動をしている点にもある。日本では開発が進んでいない先端複合材料やオートメーション技術を学びに、倉谷社長自ら年に6、7回は海外の国際会議や展示会を視察しているという。開発への姿勢も海外に学ぶところは大きい。「欧米諸国は新しいことに挑戦したことをまず評価するが、日本ではそうした文化がない。開発がうまくいかなかった場合、この条件で無理だった、できない条件を確認できたから次に進んでみよう、そう言ってくれる人がいない。これは課題だ」(倉谷社長)

杖に込める顧客第一の精神

 社名「カド」には、古来「物事の始まり」や「原点」という意味が込められている。そんなモノづくり精神をよく表しているのが、自社開発の杖ブランドだ。KADOは近年、社内ブランド「CUDDLE KADO」を立ち上げ、CFRPを使ったオリジナル杖を開発している。強靭でありながら、重さは一般的なスチール製杖の約3分の1。長時間使っても疲れにくい形状だ。製品開発に当たり、熱可塑性のCFRPを好みの3次元形状に数分で加工する技術を開発。量産が可能となり、価格を安く抑えたことで販売目前までこぎ着けた。「開発のきっかけは父の言葉だった。筋ジストロフィーを患い、立って生活することができなかった父は、僕が会社を始めるときに、『わしらに役立つようなもの、何か作れんか』と言った。それが心に強く残っている」(倉谷社長)。創業した2000年当時は、軽くて丈夫なカーボン繊維で杖を作ろうとすると、加工が難しく、職人による手作業が不可欠だった。「安く量産できる技術を開発しなければ、本当に必要な人に喜んでもらえない。だから、ものすごく低コストで作れるロボットが必要だ」(倉谷社長)。オートメーション化に力を注ぐ原点には、父の言葉があった。KADOが目指すのは、顧客が作れない、あるいは顧客よりもうまく作れるものに対して価値を感じてもらうビジネスだ。今後も顧客がどうしてほしいかをキャッチすることを第一に、柔軟な事業展開をしていくという。

(橋本かをり=グローカルメディア)

成形オートメーション化システムを供給
複合材料を極めてきたKADOの歴史

2000年 「カドマリン」設立 本社・工場完成 セーリングディンギー製造(国体用艇種)/レーシングヨット修理/パワーボート・パーツ製作 新FRP成形技術を研究開発

2002年 自動車関連FRP部品を研究開発

2005年 JAXA「低コスト複合材料構造製造技術の研究」にて実証用主翼製造を研究

2006年 「カドコーポレーション」に社名変更

2007年 JAXA「低コスト複合材料構造製造技術の研究」にて実物大6m主翼構造試験に協力

2008年 熱可塑複合材 成形加工技術開発に着手 オートメーション・コンポジット技術の開発に着手

2009年 航空機構造的用を目指したVaRTM製造技術開発において日本複合材料学会「2008年度技術賞」をJAXAと共同受賞

2011年 JAXA「ハイブリッド成形 成形性評価用供試験体 胴体模擬構造」を製作

2013年 JAXA「ハイブリッド成形性評価用供試験体 スピードブレーキ研究開発」に参画 NEDOプロジェクト「新構造材料技術研究組合」に参画し熱可塑性CFRPの開発に取り組む

2014年 ドイツのロボットメーカーKUKAとパートナーシップ契約

2018年 播磨科学公園都市に新社屋・工場を建設

2019年 「KADO」に社名変更 自社製品ブランド「CUDDLE KADO」事業を本格的に開始

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