特集 ニッチリッチ

川﨑合成樹脂(新潟県三条市)
感動価値の提供を常に追求 すべてはそのための努力

川﨑社長

市場でトップメーカーになれるのか、身の丈に合っているのか、顧客に感動を与えられるか──。
川﨑合成樹脂は、こんな物差しで商品を世に送り出し、新市場を創造し続けている。
試作や異業種との交流を通して新しいニッチ製品の種を集めることで、将来への備えも万全だ。

 手軽に野菜の薄切りができるスライサー、切った野菜や肉を鍋に移しやすい軽くて曲がるまな板、素材の味を生かしたまま粉砕するセラミックス刃のミル──。そんな商品を次々と世に送り出し、ニッチ市場を創造し続けているのが、新潟県三条市に本社を構える川﨑合成樹脂だ。従業員数は77人。年商15億円、経常利益10%というから、樹脂成形企業としては優等生である。

墨壺で樹脂成形加工に進出

 同社は1936年に木工所として創業した。戦後復興の最中、地域のため、世の中のためと、何でも作ったという。そんな中、重くて割れやすい陶器製の墨壺(すみつぼ)を樹脂製にして売り出したところ、売れに売れた。当時、財閥ぐらいでないと飛行機になど到底乗れない時代に、なんと飛行機をチャーターし、お客さんを乗せて北海道までよく飛んでいったという。この成功を受け、2代目の社長時代に三条市で初めて本格的に樹脂成形加工業を開始し、調理器具業界に進出していった。当時はドライバーの柄や包丁の柄、スプーンなどを手掛けていたという。

 3代目の社長の時代に生まれたニッチな大ヒット商品がスライサーだ。樹脂製の大根おろしの真ん中に、野菜を薄く切るための刃が付いている調理器具である。台所に置いてある家も多いだろう。

 「競合他社がひしめき、今では100円ショップなどでも売られるようになったが、当時はスライサーといえば、わが社の製品でほぼシェア100%だった」(現社長の川﨑雄輔氏)。今でも、韓国では同型のスライサーを「KAWASAKIスライサー」と呼ぶそうだ。

川﨑合成樹脂のスライサー
川﨑合成樹脂のスライサー

軽くて曲がるまな板で大成功

 同社の歴史から、川﨑合成樹脂にはニッチ商品を生み出す伝統があることが分かる。そして現社長で、4代目である雄輔氏にも、その気質が色濃く遺伝している。同氏が主導し創り上げた新たなニッチ市場が、軽い樹脂製のまな板である。

 今から20年ほど前のまな板は、木製か、樹脂製であっても分厚くて重いものしかなかった。料理を趣味とする川﨑社長は、「もっと軽くて扱いやすいまな板が欲しい」と考えた。そうした自らのニーズと、自社の技術で作ったのが、このまな板だ。

 このまな板、軽いだけではない。薄く成形してあるので、湾曲させることも可能。狙いは野菜をこぼさずに鍋や皿に移せるようにすることだ。さらに、印刷で目盛りも入れ、料理本にある「1cm角に切る」といった記述にも対応できるようにした。

 これを実現する技術も実はすごい。まず、形状。薄板状に樹脂をA4判サイズ大に成形し、まっすぐ平坦に作ることは本当に難しい。それも直径1㎜の1点ゲートのみで樹脂を流し込んで作るという。今でこそ、類似の薄平板形状を見かけるようになったが、20年ほど前は、誰も真似できないものだった。

 川﨑社長自らが、研究を重ね、樹脂成形と金型技術を究めることで実現させた。実は、川﨑社長はプラスチック成形技能士一級の資格を持つ、第一線の技術者でもあるのだ。

 目盛りの印刷技術もすごい。まな板で使っているポリプロピレンという樹脂は、そのままではインクが定着しない素材である。何度も失敗しながら、紙の印刷業者のような異業種とも積極的に交わって情報を集めた結果、ついに、表面を改質し、印刷する方法を見つけた。そして、世界で初めて、目盛りを印刷したまな板を市場に送り込み、大成功したのである。

 軽くて曲がるまな板は、キッチン用品メーカーからの受託生産も受けており、現在ほぼ独占状態にあるという。

樹脂製の軽くて曲がるまな板
樹脂製の軽くて曲がるまな板

セラミックス刃のミルでも当てる

 川﨑社長の、最近のニッチヒット商品はミルである。特長は、刃がセラミックスであること。金属の刃と比較して、さびないので丸洗いができる、刃が摩耗しにくく長持ちする、静電気によって挽いた食材の微粉が刃の表面に付くという問題が少ないのでにおい移りがしない、という特長を持つ。

 セラミックスの成形は、樹脂の成形とは異なる。ただ、川﨑社長には、同じに見えた。両者とも、粘性のある物質を、型に入れ成形するものだからだ。そのため、躊躇なくセラミックス成形加工も始めた。

 ちなみに、違いが出るのは成形後の工程である。熱可塑性樹脂の場合は冷やしただけで成形品が出来上がるが、セラミックスは乾燥させ、焼結させる。同社では一貫生産を行うために焼結用の装置も導入し、自前ですべての工程を手掛けている。

セラミックス刃を乾燥させているところ
セラミックス刃を乾燥させているところ
(提供:川﨑合成樹脂)

 川﨑社長の真骨頂は、このセラミックスミルの最初の活用ターゲットを、トウガラシ、コショウ、結晶塩などの調味料用としたこと。現在は、このセラミックス刃が評価され、王道のコーヒー豆をはじめ、さまざまな食材のミルを販売メーカーに供給するまでとなった。セラミックス刃のミルの市場占有率は、品質の良さが口コミで広がりじわじわと高まっている。

セラミックス刃のミル。写真はコーヒーミル
セラミックス刃のミル。写真はコーヒーミル
(提供:川﨑合成樹脂)

成功の陰に努力あり

 このように、自分が欲しいもの、実現したいものだけを追求して、たまたま成功したかにみえるが、実は、成功の裏には川﨑社長ならではの、綿密な計算と努力がある。

 まず、川﨑社長が大切にしているのが、感動価値の提供である。「顧客がどのような製品を欲しているか」を常に考え、顧客に喜んでもらうため、プラスアルファの価値を付け加える。

 例えば、軽くて曲がるまな板であれば、ユーザーの取り回しのいいまな板が欲しいというニーズに、曲がって移しやすい、目盛りが付いているという付加価値を付けた。また、ミルでは、調味料本来の味を生かすために食卓で調味料をすりたいというニーズに加え、洗える、におい移りがしにくいという付加価値を付けた。

 やるとなったら徹底的に事業計画を練る。1回ではなく、何度も何度も事業プランを作り直すのだという。この際、「どれだけこだわれるか? 顧客に分かってもらえるか? 自分たちの身の丈に合っていて、その市場でナンバーワンになれるか、もし1位になれなくても少なくとも5本の指に入ることができるか?」を考える。ただし、その市場の売り上げの多寡は考えない。

 加えて、常に開発を怠らない。思いついたら、夜中や早朝に自ら成形機を動かして試作品を作り、実現性や市場性を検討する。その結果、市場の受け入れ態勢がなく少し早すぎたり、感情への訴求力が弱かったり、製造上の課題が残っていたりするものについては、その時点での製品化は諦める。ただし、捨てるのではなく、“棚上げ”しておき、条件が整えば、いつでも取り出せるようにしている。

 開発活動は、営業活動や人脈形成にも役立つという。営業活動では、OEM先の企業からの要求に対して、付加提案をするのに役立つ。先方が欲するものに加えて、棚上げしてあったプラスアルファの機能も提案するのだ。また、様々ななチャレンジをし、調査する過程で異業種の人脈が増え、知識が増える。これが新しい開発品のネタを生み出すという好循環を得られる。

川﨑合成樹脂の工場で稼働する、樹脂の射出成形機
(提供:川﨑合成樹脂)

次なる目標は製造の省人化

 川﨑合成樹脂は今後どのような会社を目指すのか。川﨑社長によれば、「これまで同様、開発を継続し、大きな成長は追わず、身の丈に合った商品を提供していく」という。現在は、新しいまな板を開発中で、近々にも上市する予定だそうだ。どんなこだわりのまな板なのか、とても楽しみである。

厚さ4mm、B5判サイズの軽量まな板
厚さ4mm、B5判サイズの軽量まな板。省人化にチャレンジしている
(提供:川﨑合成樹脂)

 一方、製品ではなく、会社の姿を変えるような開発にも取り組んでいるという。「省人化」が大きなキーワードだ。人を減らすのではなく、製造に無駄な手間をかけないというのがコンセプトだ。製造の手間をなくすことで、企画・創造に集中できるようにする。「樹脂加工では新興国との人件費の競争があるが、その部分で高い安いで比較されない企業にするのが目標」(川﨑社長)だ。

(関根誠=システム・インテグレーション)

木工から樹脂加工へ、ニーズを捉えて変化する
川﨑合成樹脂の歴史

1936年 三条市一木に木工所として創業

1951年 川﨑木工所に改組

1955年ごろ 熱硬化性樹脂製品の製造開始(墨壺、ドライバーの柄、包丁の柄、スプーンなど)

1960年ごろ 熱可塑性樹脂製品の製造を開始(スライサーや衣類掛けなど)

1972年 三条市下谷内に本社移転

1979年 工場部門を三条市鶴田に移転

1999年ごろ 曲がるまな板の販売開始

2004年 本社・工場を現在地 三条市下保内に移転

2005年 ISO9001認証取得

2011年 本社敷地内に第二工場・第二物流倉庫新設

2013年ごろ 軽量まな板の販売開始

2012年 セラミックス製品の企画・生産・販売のための新事業部立ち上げ

2017年 本社敷地内に第三物流倉庫新設

2017年 「地域未来牽引企業」認定

本社前に立つ川﨑社長
本社前に立つ川﨑社長。感動価値を提供するため日々の開発を欠かさない

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