特集 ゼロイチに挑む

ボトムアップで硬直組織を変える
NTT西、若手開発マンの挑戦

大企業の強みは、与えられた仕事を着実にこなす組織体制にある。
ところが、この出来上がった仕組みは堅牢すぎて、市場環境の変化にめっぽう弱い。
そんな組織を変えるべく、2人の若手社員が立ち上がった。

 既存事業で大きな成長が望めず、もがき苦しむ大企業は少なくない。西日本地域の通信会社、NTT西日本もそうした典型的な企業の1つだ。

 NTT西日本の主業は電話回線や光ファイバーという固定通信回線の提供と、通信回線上で提供される企業向けICT(情報通信技術)サービスである。通信回線も、ICTサービスも、生活や企業活動にとってなくてはならないインフラではあるが、売り上げ増が難しい。通信機器やサーバー装置の性能向上はすさまじく、通信単価や処理単価は下がる一方だからだ。契約更改のたびに、サービス料金は下落し、売上は減少していく。少子高齢化に伴う人口減少、モバイルへのシフトも、同社の経営に打撃を与える。実際、NTT西日本が発足した1999年以降、売上高が伸びたことは一度もない。

 この状況にあって、売上高を増やしていくには、通信回線やICTサービス以外の別の稼ぎ頭を見つける以外にない。とはいえ、歴史のある大企業を変えるのは至難の業である。長年にわたって出来上がってきた業務フローがあり、組織がある。マニュアルが定められ、決められたノルマに沿って仕事を進めていく体制では、新しいビジネスはつくり出せない。

 そんなNTT西日本が今、変わろうとしている。西日本地域の津々浦々にいるNTT西日本の社員が、地域の課題を解決するために、新しい事業を創り出す──。そんな息吹が芽生え始めているのだ。これを仕掛けたのは、たった2人の開発マン。新規ビジネスを作り出すビジネスデザイン部に所属する尾﨑啓志氏(X-CREATE室チーフプロデューサー)と、及部一堯氏(同室プロデュサー)だ。

NTT西日本の尾﨑啓志氏と、及部一堯氏
NTT西日本の尾﨑啓志氏左)と、及部一堯氏(右)

眠れる社員よ、立ち上がれ

 2017年4月、外部との連携によるビジネス創出を担当する部署、オープンイノベーション室への兼務を命じられた尾﨑氏は、西日本の様々な地域で活躍するNTT西日本の社員をオープンイノベーションの輪に巻き込むことを考えた。自らも、オープンイノベーションを推進するが、その地域に住んでいる社員も地元のニーズを掘り起こし、地元の自治体や企業とともに、新しい事業を生み出せるようになることが、同社の未来につながると確信したからだ。

 尾﨑氏は言う。「これまでNTT西日本と顧客は、サービスを提供する側とそれを利用する側という甲と乙の関係だった。この関係を続けている限り、契約更改のたびに入札がかかり、(IT機器の性能向上と低価格化によって)サービス提供価格が下がっていくというスパイラルから逃れられない。これでは売り上げが上がるはずもない。地域にいる社員が、顧客とともに『ウィンウィン』の関係で、その先にいる人たちに向けたサービスを生み出せれば、この負のスパイラルから抜け出せる」

 同年10月にオープンイノベーション推進室に合流した及部氏も、若手社員に新しいことい取り組んでほしいと考えていた。同氏は、これまでも社業で採用活動にかかわったり、社内の有志による活動をしたりして、若手社員と交流する機会を多く持っていた。そんな中で、「新しいことにチャレンジしたいけど、本来業務があってなかなかチャレンジできない」という声を多く聞いていたという。

 こうした課題意識を持つ2人が考えたのが、自分たちが新規事業開発で培ってきた考え方やノウハウを、各地域で新規事業に取り組みたい社員に対して注入していくという枠組みである。つまり、2人が水先案内人となるのである。新しい事業を創出し、社会や地域の課題を解決していける人がNTT西日本の次代のヒーローであるという思いから、「HEROES PROJECT(ヒーローズ・プロジェクト)」と命名した。

地域の責任者を口説き落とす

 まず両氏が手掛けたのが関西、北陸、中国といったブロックの頂点にいる、役員級のエリア長の協力を取り付けることだ。その地域の最高責任者であるエリア長がこのプロジェクトの取り組みを後押ししてくれれば、地域の社員は、業務として大手を振って動けるようになる。

 2人は、このままだとNTT西日本に未来はないこと、地域で新しい仕事をつくりあげていくことがその解決策となることを熱く語り、エリア長に協力を求めた。2人の熱意に押され、多くのエリア長が賛同してくれたが、当然ながら、本業への影響を懸念する人もいた。新たな業務が発生することで業務効率が落ちるのではないかというのだ。そうしたエリア長には、「地域の課題を解決するという意識を持ち、自分で新規事業を企画し推進するようになれば、積極性を持つ人材が育ち、営業成績も上がる」と力説し、納得してもらったりした。

 エリア長の協力が得られれば後は早い。エリア長から、各地域の社員に対して呼びかけてもらい、2018年6月~10月にキックオフ会を行った。各地のキックオフ会には、それぞれ20人~30人が参加した。この会では新規事業開発の流れや、企画書に盛り込むべき内容を伝え、各自が取り組むように促した。

 その後、キックオフ会に集まった社員を中心に各エリアで勉強会を開催した。ここではアイデア発想のためのワークショップを開催したり、情報収集、情報発信の方法やその重要性を説いたりして回った。また、必要に応じて、アイデアの広げ方や、企画の深掘りのアドバイスをする会も設けた。さらに、つまずいたり、悩んだ時にはいつでも自分たちに気軽に相談するように言い添えた。

勉強会の様子
勉強会の様子

ベテラン社員も参加

 こうした取り組みを通して、2人にとって意外だったのは、若い社員ののみならず、ベテランや中堅の社員が多く参加したことだ。事業開発は、本社(大阪)にあるビジネスデザイン部で行われているため、何か新しいビジネスを社内で進めようとしても、地域ではつくれない。一方で、子育てなど家族の事情などで、本社勤務を選ばない社員もいる。今回、エリア長も承認したオフィシャルな取り組みとして参加できることから、何かやりたい、やらなければならないという熱い思いを持っていた、ベテラン・中堅社員たちも集まってきたのだ。

 キックオフ会開催からおおよそ半年後の2018年12月~3月には、区切りとして、各地で判定会議を実施した。各自が検討した事業企画をエリア長やビジネスデザイン部長の前でプレゼンしてもらい、その企画を継続するかどうかを決定していった。

 判断のポイントは、起案者に熱意があるか、ビジネスプランに実現性はあるか、市場性があるか、競合他社に対して優位性があるかなど、一般的なものだ。ただし、社内のビジネスコンテストでよくある「10億円以上の売り上げが見込めるものしか認めない」といった制限はあえて設けなかった。

そして、全社プロジェクトに

 開始から1年半たった2019年6月。HEROES PROJECTはさらに飛躍する。草の根で進めていた同プロジェクトの取り組みが社長の小林充佳氏の耳に入り、NTT西日本全体の取り組みとして進めることが決定したのだ。

 そうなると動きは速い。同年9月にピッチ大会を開催することが決定。全社公募の結果、総勢149人、44のチームがピッチ大会に参加することとなった。もちろん、前年からHEROES PROJECTが支援しているチームの応募もあった。ピッチ会では、各チーム3分間のプレゼンを行い、8チームを選抜した。

 この8チームは、同年10月に開催された全社イベントのKAIZEN推進大会での最終プレゼンに進んだ。ここではグループ会社社長や新規事業開発コンサルタントなどが審査員を務め、1チームに優秀賞が与えられた。

 優秀賞のチームに対しては、現在3人に増えたHEROES PROJECTメンバーが事業化を支援することになっている。優秀賞に選ばれなかった、残りの43チームについても、希望者に対しては、次年度の大会に向けてHEROES PROJECTが継続的に支援する予定である。

最終プレゼンの様子
最終プレゼンの様子

次への一歩は、成功事例の創出

 開始からわずか2年で、全社の取り組みにまで発展したHEROES PROJECTだが、まだまだ改善点は多いという。

 まずはピッチ大会。6月に応募を開始し、9月に大会と、間にほとんど期間がなかったことから、詳細な検討がされていない単なるアイデアだけのもの、あるいは地域の社員が地域のボランティアなどで続けてきたものを企画にしたものがほとんどだった。「次回は、応募期間に余裕を持たせて、ニーズの調査や市場分析などまで実施した企画を持ち込めるようにしたい」(尾﨑氏)。

 さらに、HEROES PROJECTの本来の目的である、地域の社員が、顧客である自治体や、地元企業とともに、その先にいるユーザーに向けたビジネスをつくるところまで至っていないことも課題だ。現在は、地域の社員自らが地域ニーズを掘り起こし、事業プランを構想・提案している段階でしかない。自治体とのかかわりでも、協力が必要なときに、お願いに行く程度の連携でしかない。地域の大学、ベンチャー企業、さらには大企業などとも一緒に、新しい事業をつくりだすことにも取り組んでいきたいという。

外に目を向けよ

 これらを実現するために、尾﨑氏は、NTT西日本の社員のマインド、そして働き方も変えていく必要性を痛感している。「これまで、NTT西の社員は、与えられた仕事と、そのノルマを達成する働き方をしてきた。そのため、本業をほったらかして外に行くことをよしとしない文化がある。会社の机の上だけで考え込む社員も多い」

 こうしたことから、NTT西日本の社員は総じて世の中の動きに対して感度が低いという。「さまざまな情報を得て、時代の流れや変化を追っていないと、世の中に受け入れられるような事業はつくれないが、そうした態度で情報収集ができていない」(尾﨑氏)。これを裏付けるように、検索すれば他社がやっていることがすぐに分かるようなサービスを、新しいアイデアだと提案してくる起案者も多いという。

 この状況を断ち切るために、尾﨑氏は「まずは(HEROES PROJECTを通じて)1件でも、成功事例をつくり出すことが大事だ」と考えている。この成功者が他の社員に影響を与え、さらに成功者を生み、会社の外に出て、外部と交流しないと仕事が回らないという文化が醸成されていく。

 「社員の皆が、社外とかかわり、ノルマありきではなく、主体的に取り組む姿勢が少しでも醸成され、10%でも外に目を向けるようになれば右肩下がりの業績は、簡単に右肩上がりになる。本気でそう信じている」

「10%でも社員の目が外に向けば会社が成長軌道に乗る」と語る尾﨑氏
「10%でも社員の目が外に向けば会社が成長軌道に乗る」と語る尾﨑氏

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 ルーチンワークがあり、ノルマがあり、それをこなしていれば、業績が拡大する高度成長期は遠い昔に終わった。ところが変化を恐れる日本企業の経営層は、会社の形を変えることをためらう。トップダウンがダメなら、ボトムアップで。彼ら2人の活動は、それが不可能ではないことを教えてくれる。

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