特集 ゼロイチに挑む

支援団体が伝授する
オープンイノベーションの“取説”

オープンイノベーションで会社を変えようとする大手企業が増えている。
ただし、ベンチャー企業との付き合い方を知らず、失敗するケースが後を絶たない。
10年の経験を持つ支援団体が、技術系ベンチャー企業との付き合い方を解説する。

 TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)は、つくばエクスプレス沿線に集積する日本を代表する大学・研究機関の技術を中核としたベンチャー企業の事業を加速成長させることを目的に、2009年に発足した。狙いは大学や研究機関に眠る技術資産を商用化し、社会に還元することにある。超小型人工衛星のアクセルスペース、電動バイクのテラモーターズなど支援成功事例も積み上がってきている。現在は、つくばエクスプレス沿線にこだわらず、日本全国の大学、研究機関、地方行政、大手企業からの依頼を受け、イノベーション創出プログラムの提供も行っている。

TXアントレプレナーパートナーズのエコシステム
TXアントレプレナーパートナーズのエコシステム
(提供:TEP)

 TEPは、エンジェルとなる個人・企業会員の会費のほか、大学や研究機関、地方行政、大手企業からの事業委託費で運営している。技術系ベンチャーは、技術はピカイチでも、その価値を世の中に示すための概念実証「PoC(Proof of Concept)」を実施する資金がない。プログラマーの腕ひとつで開発できるIT系とは異なり、ハードがかかわるような技術系ベンチャーはPoC開発に1000万円以上の費用がかかるケースも少なくない。また、大学や研究機関発のベンチャーは、肌感で市場を知らないことも多いため、ターゲットが絞れていなかったり、ニッチな市場に固執していたりする。

 そこで、TEPはメンタリングを通してビジネスプラン作成やブラッシュアップを支援したり、「これは」という技術を持つベンチャー企業に対して、エンジェル投資家の資金を活用してPoC作りを支援したりする。PoCが完成し、良い結果が出れば、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資につなげ、次のステージに進むことを後押しする。支援先企業の資金調達額の合計は累計100億円を超えている。

 TEPではエンジェルの出資先ベンチャー企業に、エンジェル自身が深くコミットし、実ビジネスでの出資交渉や契約交渉を実施する支援も行っている。技術系ベンチャーの母体となっている大学や研究機関には、こうした交渉をできるスキルや体制がなかったり、立場としてビジネスの交渉が難しい場合が多かったりするためだ。

 本稿ではこうした支援を10年間実施してきた経験から、大手企業がベンチャー企業と付き合うためのポイントをお伝えしたい。

メンタリングの様子
メンタリングの様子
(提供:TEP)

その1
立場の違いを理解する

 ベンチャー企業との付き合いに慣れていない大手企業でありがちなミスが、自分の常識でベンチャー企業に接するというものだ。

 大手企業には収益を生み出す既存事業があり、新規事業はプラスアルファの事業でしかない。しかし、ベンチャー企業は新規事業がコアの事業である。大手企業は資金力と十分な人的リソースを持つ環境で、新規事業に対して時間をかけて、確信をもって事業を立ち上げようとしている一方、ベンチャー企業は全く新しい発想と強いチャレンジ精神で短い時間で事業を立ち上げようとしている。

 既存事業がある大手企業は、1つのPoCが上手くいかないとしても会社が傾くようなことはない。一方、ベンチャー企業は、PoCの成否に社運が賭かっている。PoCの実施が遅延したり、失敗したりすれば、事業が立ち行かなくなることもある。スタートアップは常に資金繰りの課題を抱えており、倒産のリスクを抱えて事業をしていることを大手企業は認識しておく必要がある。

 こうした立場や背景の違いを理解せず、大手企業はベンチャー企業に大手企業並みのクオリティーを要求することも多い。ベンチャー企業には大手企業のような品質管理部門、設計部門、製造部門といった専門部門や専門家はおらず、数名の社員が様々な業務を兼務している。時間やコストも大手企業のようにかけられない。そのため、大手企業と比較すると、製品の完成度や、導入後のアフターケアで大きく見劣りする。大手企業は製品の完成度の向上や導入に関して、共同で作り上げて行く覚悟が必要である。

 一方でベンチャー企業には、これまでのビジネスモデルを抱えたままの大手企業では到達できない、革新的なビジネスモデルを推進する力がある。大手企業は、社外でそういったベンチャー企業と組むことで社内の壁を突破できるという大きなメリットがある。

 両社の良いところを組み合わせれば大きな成功が見込めると言う発想からオープンイノベーションが叫ばれているが、こうした立場の違いと、そこに起因する考え方の違いを理解しないと、協業はうまくいかない。一緒に事業を進める事は並大抵の努力では成功しない。まずは、互いの文化の違いを理解し、自分の常識を棚に上げて相手の価値観の中から関係を見出す努力が必要だ。

 これは商習慣が異なる海外の取引先との協業を進めるための手法(クロスカルチャーへの取り組み)と同じである。

その2
自社のメインストリーム外に目を向ける

 大手企業にヒアリングすると、ベンチャー企業に現在のメインストリームの業務での協業を求めているケースが多く見受けられる。つまり、大手企業には自社の強い技術分野と似通った分野のベンチャー企業を探す傾向が強いが、その分野に詳しすぎるがゆえに粗が見えて協業に結びつかなかったり、社内の保有技術とバッティングをして調整が難しくなったりする場合が多い。

 オープンイノベーションの目的は、外部との化学反応による新しい事業創出である。そうであるなら、自社の事業とは関連がないように見える技術、あるいは関連が薄いと思われる技術にも目を向け、これらと自社の技術を掛け合わせることを模索すべきだ。

 ただし、これを実現するためには大手企業側の目利き力、特により高い視点から俯瞰的に技術を見る力が必要であり、それを体得するための努力を怠ってはならない。

その3
相手の技術を深く知る

 メインストリーム外の技術に目を向けようと言ったが、単に目を向けるだけではダメで、大手企業側で勉強が必要だ。大手企業が技術系ベンチャー企業からメインストリーム外の技術を採用するのはいいが、その技術を深く理解しようとせず、過大な期待をしていることが少なくない。特に、大手企業が自社の得意分野ではない技術領域の場合、現時点の技術ではどんなに優秀なベンチャー企業でも到達不能なレベルのソリューションを求めている場合がある。協業していくベンチャー企業の技術を深く理解するように努め、現時点ではどこまでできるのか、把握しておく必要がある。

その4
開発のポートフォリオを組む

 大手企業は、取引相手に対して1年後に製品化といった具合に、短期的な成果を求めることが多い。一方、ベンチャー企業によっては、これからの開発が必要なアイデアレベルのところ、製品出荷間近のところなど、実用化段階でばらつきが多い。この時間軸のギャップが残ったままで共同開発が進むと、プロジェクトは破綻する。

 海外と比べて、日本にはベンチャー企業の数は少なく、1年以内に製品化できる企業となると数が限られる。短期間の協業で成果を狙うということであれば、そのステージにいるベンチャー企業に効率的に協業を働きかけるアプローチが必要である。一方で革新的な成果を求めたいのであれば、PoCを作る段階から協業し、最終製品のイメージを共同で固めていく作業が必要である。

 ベンチャー企業の技術という外部の血を入れてオープンイノベーションを加速するという戦略を描いているのであれば、開発のポートフォリオを組むという考え方を採用することをお勧めする。つまり、1~2年で成果が出そうな協業と、3~5年で成果が出そうな協業を両輪で走らせるというものである。その割合は、企業のオープンイノベーション戦略に依ることとなるだろう。もちろん、3~5年をかけて成果が期待できる協業を行うベンチャー企業を見つけ出すには、大手企業側にかなりの目利き力が求められる。

アジアの起業家が集まるビジネスコンテストにも協力
アジアの起業家が集まるビジネスコンテストにも協力
(提供:TEP)

その5
一部署でオープンイノベーションを完結させない

 大手企業がベンチャー企業との協業を進める際、新事業開発部のような部署が担当となることが多い。ただこれではうまくいかない。新規事業開発部のような部署は、現場を持っていないため、PoCのための設計や実験を実施できない。そのため現場を持っている部署との連携が求められるが、社内の他部署からは相手にされず、結局、下請け感覚でベンチャー企業にすべてを押し付けるということになりがちだ。丸投げされたベンチャー企業側は、体力がないので、負荷に耐えられず事業を断念しかねない。

 こうした問題を起こさないためには、製品企画、開発、研究所、営業、経理部門などからなるタスクフォースチームでオープンイノベーションを進める必要がある。さらに、経営戦略を軸に据えて予算や人的リソース配分などを行う必要があるので、執行役員や取締役の直接的な関与も必須である。つまり、経営のコミットが必要なのだ。

 海外の例だが、オランダのフィリップスの取り組みが参考になる。同社は社内でのオープンイノベーションを進めるため、1998年にオランダのアイントホーフェンに「High Tech Campus(ハイテクキャンパス)」を設立し、オランダ国内に分散していた研究開発拠点を集めた。オープンな雰囲気と高度な知識の集中によって、異なる技術分野の研究者の交流が深まった結果、異分野の知識共有、融合が行われ、新しい発想の創出や組織の能力向上が達成された。

 2003年にはこのキャンパスを他の技術系企業に開放した。その結果、フィリップスのオープンイノベーションに加わりたいベンチャー企業を含む大小さまざまな企業が大規模に集積した。

 2012年には、ベンチャーキャピタル兼プライベートエクイティファンドであるRamphastos Investmentsが、このキャンパスを買収し、運営を始めた。現在、世界的な企業200社以上がオフィスを持ち、1万2000人の研究者が研究に従事している。しかも、オランダの特許出願の約40%は、ハイテクキャンパスから生まれている。

 もちろん、ここまでの思い切った施策は難しいだろうが、この事例は経営がオープンイノベーションにコミットして成功させることの重要性を教えてくれる。

ベンチャー協業で成功するための5箇条

(國土晋吾 TXアントレプレナーパートナーズ代表理事)
(菅原晶 TXアントレプレナーパートナーズ理事/三井不動産ベンチャー共創事業部部長)

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