開発の鉄人現場をゆく
in リアル開発会議 2019 Summer

(開発の鉄人こと)多喜 義彦=システム・インテグレーション 代表取締役社長

開発の鉄人 現場をゆく in リアル開発会議

秒速50万個の超微細穴に透ける巨大な可能性

 銅板に、直径15μmの穴を1秒間に50万個も開けるというから驚いた。いや、正直、信じられなかった。実際、これがそのサンプルだと手渡された銅板を手に取ってみても、穴らしいものは見えなかった。

 そこで、どこに穴が開いているのかと聞くと、照明にかざせば分かるという。やってみたら、本当に、照明からの光が見えるではないか(図1)。なんと、そこには直径15μmの穴が等間隔で整然と開いていたのである。

図1 超微細加工穴が施された材料 一見穴が開いてないように見えるが、光にかざすと貫通しているのが分かる。
図1 超微細加工穴が施された材料
一見穴が開いてないように見えるが、光にかざすと貫通しているのが分かる。

 照明にかざさなければ分からないほどの小さな穴を、一体、どのようにして開けるのか。それも、1秒間に50万個も、である。

 さあ、鉄人は現場に行くしかない。

もともとは板金屋さん

 新潟県三条市。お隣の燕市と合わせて燕三条と言えば、ものづくり中小企業の集積地として広く知られている所である。この地で1969年に創業したのが、今回の現場である板垣金属だ。

 従業員数は20人で年商は4億円というから、事業規模でも典型的な会社と言えようか。今の社長は2代目で、先代の時代から、主に制御盤や金属製品の部品をプレスや溶接で切り張りして造る、いわゆる板金屋さんという業態である。

 この燕三条という所、とにかく金属加工業が多い。古くから包丁や農工具、ニッパーやペンチ、ドリルやスパナといった工具類、そして近代では洋食器など、実にさまざまな金属を加工して製品を生み続けている。

 同じようなものづくり中小企業の集積地はほかにもある。例えば、首都圏にある大森や蒲田、関西圏の関や三木、東大阪などは有名だ。

 ところが燕三条を除くこれら各地域の製造品出荷額は、ここ20年のうちに失速している。ある地域では、最盛期の20%までに落ち込んでいるのが現状だという。

 対して燕三条は、落ち込むどころか生産高が伸びているという。これはまさに、ものづくり中小企業が元気な証拠だ。

 その、元気な中小企業の中でもひときわ元気、というか、挑戦をし続けているのが板垣金属である。先代からの板金加工業をより高度化しようと磨きをかけており、板垣薫社長は、もっと良いものを作りたい、新しい手法で作りたいと、先頭に立って開発に取り組んできた。

 その中で、レーザー光で金属を加工するという“スーパーマシン”にハマったのである。

板垣金属の板垣薫社長
板垣金属の板垣薫社長

レーザー加工機の原理

 レーザー加工機とは、レーザー光の特性を利用した光加工機のことである。

 レーザー光は指向性が強く、普通の光と違って位相(波長の山と谷)がそろうので収束性が良い。その結果、極めて高密度の光エネルギーを一点に集中して照射することができる。このレーザー光のエネルギー密度を、レンズなどの集光装置を使って焦点に結集させると、対象物(ワーク)の表面温度が急速に上昇し、これにより、ワークを溶解・溶融、蒸発させることが可能になる。これを利用してマーキングや切断、穴開け、溶接、極小部位の焼き入れなどを行う装置がレーザー加工機である(図2)。

図2 レーザー加工機 集光した強力なレーザー光を当てることで、物理的なストレスをほぼ与えず、さまざまな材料を切ることが可能。
図2 レーザー加工機
集光した強力なレーザー光を当てることで、物理的なストレスをほぼ与えず、さまざまな材料を切ることが可能。

 レーザー加工機は、金属はもちろんのこと、セラミックス、布・繊維、プラスチック、木材、ガラスなど、実にさまざまな材料に適応できる。刃物や工具などの消耗品が不要なのも大きな特長である。

 ワークに対する物理的なストレスも最小限に抑えられるので、ワークを固定することも必要最小限にできる。さらに、例えば薄肉材料や、布・皮革などの材料を、無理やり伸ばしたりせず自然な形状のまま加工できるし、加工領域が極めて狭いので、通常の刃物や工具が入らないような局所や溝の奥まった所などへの加工も容易である。また、言うまでもなく、物理的な制約を持つドリルのような機械とは異なり、光は一瞬のうちに加工する場所を移動できるので、複雑かつ微細な形状にも対応できる。

 レーザー光のエネルギーによって飛ばされるワークの消失部位も極めて少なくて済むため、金属加工機などで発生する切粉などがほとんど出ないのも大きなメリットである。

人生を変えたレーザー加工機の導入

 このようなことで、銅板に直径15μmの穴を1秒間に50万個開けることができるわけだが、板垣社長がレーザー加工機に出合ったのは、なんと35年も前のこと。厚さ6mmの鉄板を切断する目的で導入したという。

 そのときの精度は6㎜厚の鉄板を+-200μm(0.2mm)で切断するぐらいで、主に金属を切断するのが目的だった。それが、しばらくすると、もっと高性能なマシンが現れた。精度は数μm、切断速度は飛躍的に上がり、コンピューター制御で加工形状も自由自在。大きくても小さくても異形でも、ワークの加工形状データを入力するだけで、ほとんどの加工ができるようになったのである。

 ここから、小さな穴を大量に、しかも超短時間で開けることを目指し、その条件と加工可能な形状を見つけるという、板垣金属の挑戦が始まった。

 普通なら、レーザー加工機の導入目的は切断や溶接といったものであろうが、ここに小さな穴を開けるという新境地を見いだしたのが板垣社長の嗅覚というか開発魂というか、すごいところだ。誰もやっていないことをやりたいという開発本能が、ムクムクと発揮されたのである。

 そこで、板垣社長はそのための工場を新設した。それはそうだ。切断や溶接で行う板金加工と超微細な穴開け加工では、環境が違いすぎる。

 加えて、大事なのは制振だ。なにせ、数μmの制御をするのだから、光軸が振動で振れるのは大問題。いくら剛性がある機械でも、取り付け冶具や部材は本体とは違う振動を拾ってしまう。しかし、そこは板垣社長の腕の見せ所。超微細穴加工を支える技術の裏には、制振のためのノウハウも潜んでいる。

超微細穴を極める

 50万個の直径15μmの穴、とひと言でいえても、それを確認するのは大変だ。しかし、コンピューターで制御して開ける穴は、一個の狂いもない。そこがデジタル技術のすごいところと言えばすごいところ。そして、そこには途方もない可能性が秘められている。

 現在、レーザー光を制御するパルスの分解能は1ns(ナノ秒、10億分の1秒)のそのまた1000分の1、つまり、ps(ピコ秒、1兆分の1秒)が実現できるほどだそうだ。つまり、ワークを載せた加工テーブルが高速で動いていても、寸分の狂いなく狙った場所を打ち抜くことができる。

穴は見えぬが未来は明るい

 超微細穴を利用した製品開発の可能性は無限に広がっていく。

 素材は、大げさに言えば何でもありだ。プラスチックでも金属でもセラミックスでも、とにかくレーザー光で穴が開く材料なら何でもいける。

 超微細穴を利用するアイデアもいっぱいある。既に多くの特許も出したし、量産体制も出来上がっているそうだ。ただ、まだ出願していない案件もあるため、今はこのような話にとどめざるを得ない。うーん、残念。

 ちなみに、超微細穴を利用した製品の特許は、製品だけにとどまらず、製造方法でも成立する。鉄人は今回、レーザー加工機の写真をいっぱい撮った。それだけ信頼されたと思ってうれしかったのだが、そこには、今は公開できない技術やノウハウが写っている。だから、今回は板垣金属のレーザー加工機の写真を掲載するのをやめる。特に、昨今の知的財産権の模倣問題を見るにつけ、そんなことが板垣社長の身に降りかかったら大変だと案じていることもある。お許しいただきたい。

 かように、運命の出合いから独自に開発を続けてきた超微細穴開け加工で新事業・新商品開発を今まさに進めようとしている板垣金属の未来は本当に明るい、と鉄人は思う。そう、超微細穴を肉眼で見ることはできないが、板垣金属の未来は光をかざすことで“超”明るいことが分かるのである。

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