“開発の達人”が説く!守るべき掟
開発原理 2018 Summer

多喜 義彦=システム・インテグレーション 代表取締役社長

“開発の達人”が説く!守るべき掟 開発原理

 開発にもほくろ毛がある。ほくろ毛は、ほくろから生える、多くは産毛などとは比べ物にならないほど立派な毛だ。縁起がいいものなので「抜いてはいけない」ともいわれる。

 今回は、開発にも「ほくろ」のような部分があり、そこから生まれるモノやシステムはほくろ毛と同じで抜いたり切ったりしてはいけない、ということを話したい。

 ほくろの正式名称は「母斑細胞母斑(ぼはんさいぼうぼはん)」というのだそうだ。にわか勉強で知ったのだが、何とも不思議な名前である。皮膚内でメラニン色素を生成するメラニン細胞が変異して母斑細胞という別の細胞が出来上がり、それが腫瘍をつくる。これがほくろの正体だ。ただ、腫瘍といっても良性なので心配無用、安心してほしい(とはいえ、ほくろに似た悪性腫瘍もあるのでご注意)。

 で、このほくろに生える毛がほくろ毛なのだが、皮膚に毛穴があるように、ほくろにも毛穴がある。しかも、ほくろがある部位はメラニン細胞の動きが活発なので、そこの毛穴から生えてくる毛は濃いだけでなく、長くて太い「剛毛」となるのである。

 ほくろ毛が開発にもあると言ったのは、開発プロジェクトにもほくろのように濃密な部分があり、そこにヒト・モノ・カネという栄養素が供給されると、そこから生まれるモノや技術、ノウハウの生成量も豊富になると思ったからである。そして、それはそれで開発における特別な成果物であると思うのだ。

 また「抜くな」というのは、仮にそのプロジェクトが思うような成果を上げなかった(新事業や新商品にならなかった)場合でも、それは特別な成果物なのだから否定したり廃棄したりするような、何とももったいないことをしてはいけないという意味である。

今は役立たなくても将来きっと…

 開発を深堀りしていくと、本来の目的とは違う「興味」に出合うことがある。言い換えるなら、最初に目指した目的とは異なる方向に開発の矛先が向いていくということだ。でも、それはよくあること。開発者にとって面白い方が面白いわけで、そうなってしまうのは当然なのである。

 最初は「これって面白いよな。やってみようじゃないか」といった軽いノリで横道にそれていくが、その先で新しい知見や発見に出合うとますます興味は加速し、いつしか没頭していくことになる。そしてこの没頭によって開発は進み、モノも技術もノウハウも特別に進化していくのだ。

 だが、それが当初目指した新事業や新商品に結実しなかったとき、それを否定し廃棄したいという気持ちになることがある。

 なぜか。

 それは、没頭することで進化したモノや技術、ノウハウが、特別あるいは格別な成果物であるという認識がないからだ。開発者にとって新事業や新商品をつくることは任務であり、そこに結び付かなかったらダメだと思ったり無関心になってしまったりする(あるいは、それを装う)ことはよくある。

 あるいは「失敗した」という苦い思いからくるのかもしれない。うまくいかなかったから、ほくろ毛も良くないものと思ってしまうのである。

 しかし開発におけるほくろ毛は、濃密なものから生えた毛である。特別であり格別な存在なのである。しかも、今は役立たなくても、将来きっと、いや、必ず役立つものになる。

開発者が欲しいものは顧客も欲しいのだ

 何より、開発者自身が興味を持ったということは顧客のニーズに近づいたとも言えるわけで、それは、開発においては意味がある。よく言っていることだが、開発者も顧客の一人である。供給側も家に帰れば生活者・消費者であり、その立場は顧客と同じだと思えばいい。

 だから、ほくろ毛はニーズに近い成果物(モノや技術、ノウハウ)であり、決して抜いてはいけないのである。失敗したからと開発したものをなかったものにするのではなく、成果としてきちんと保管し、必要なときに取り出せるようにしておくのだ。そうしてほくろ毛を抜かずにおけば、いつかその成果を使って素晴らしい新事業や新商品を開発することができるかもしれない。

 ところで、私のほくろ毛はどうなっているかって? もちろん、ほくろ毛だろうと何毛だろうと、私にとって毛は大事。抜こうなんて考えたこともないし、とんでもない。だって、放っていても抜けてしまうんです、トホホ…。

今回の掟
イラスト:ニシハラダイタロウ

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