プロジェクト活動報告

開発No.023 リアル解体ラボ
テスラ モデル3/モデルSを分解・分析 既存の車両にはない発見が続々

目次

 電動化や自動運転化に伴う自動車業界の変革に備えるため、自動車の部品メーカーらとともに、最新の電気自動車(EV)を分解・分析する――。そんなテーマを掲げて、2017年に開始したのが、「リアル解体ラボ」である。ただ、このやり方はうまくいかなかった。特定の分野に秀でた企業は、その技術への深さはあるが、興味の範囲が狭いからだ。各社の分析結果を持ち寄えば網羅的なレポートになるという考えは、理想でしかなかった。

 そこで、リアル解体ラボは、企業連合で取り組むという方針を捨て、日経BPが主体となり、自らも分析するとともに、研究機関などに専門的な分析を依頼するするモデルに移行した。2017年末に日産の最新電気自動車(EV)「リーフ」を購入し、沖縄で分解して、2019年3月までに合計5冊のレポートを刊行した。

 次のターゲットとして狙いを定めたのがテスラのEV「モデル3」である(写真1)。同車は、テスラが大量生産を前提に、車体、シャーシ、駆動ユニット、電池パック、電子装備のすべてに目を配って設計・製造したモデルである。完全自動運転を実現できるポテンシャルを持つという車載コンピューターやセンサー群も搭載する。エンジン車というレガシーを持たない、テスラというEV専業メーカーがどんな設計をしたのか。自動車業界にとって興味のあるトピックだろう。

写真1 テスラ モデルS テスラ モデル3
写真1 分解したテスラ モデル3とモデルS

 2019年9月にモデル3を米国から輸入し、10月から分解・分析を開始した。また、比較のため、2015年型のテスラモデルS「85」も、中古車を購入して、分解した。分解には、新潟国際自動車大学校(GIA)の協力を得た。2019年12月1日の段階で、大まかな部品レベルの分析を終えた。現在は、ECU(電子制御ユニット)やインバーター、電池などの詳細分析を進めている。

 以下では、現時点で見えたモデル3の分析の一端をご紹介する。なお、分析の詳細な結果は、「テスラモデル3/モデルS徹底分解」というレポートシリーズにまとめた。

【分析1】

“ボディコン”時代到来か

 モデル3には、自動車でよく見かけるヒューズボックスがなかった。モデルSには、フロント部分に3つのヒューズボックスが搭載されていたが、必死に探してもモデル3では見つからない。

 鉛蓄電池からの配線と、車載充電器内の降圧DC-DC変換を介して12V出力されているケーブルをたどると、ある場所にたどり着く。テスラが「フロントボディコントローラー」と呼ぶユニットである(写真2)。フロントフード内の車内側ダッシュボードの中央付近に配置されている。

写真2 モデル3のフロントボディコントローラー
写真2 モデル3のフロントボディコントローラー
基板には制御系のICのほか、MOSFETやシャント抵抗など電源関連の部品が配置されている。

 モデル3では、12V系の電力はフロントボディコントローラーを経由し、車内の左右に配置した「レフトボディコントローラー」と「ライトボディコントローラー」につながっている(写真3)。12V系電装品の電源供給と制御のほとんどが、ボディコントローラーの基板3枚で賄われている。従来のエンジン車では、各部の制御を分散配置したECUが担っていたが、ボディコントローラーがこの機能を肩代わりしたことで、モデル3ではECUが極端に減った。

写真3 モデル3の車内の左右に配置されたボディコントローラー
写真3 モデル3の車内の左右に配置されたボディコントローラー
車室内前方の左右側面に設置されている。

 フロントボディコントローラーの基板には、12V系電力を制御するためにMOSFETやシャント抵抗などが確認できる。この部分が従来のヒューズの役割を果たす。

 テスラが採用したようなボディコントローラー、略して“ボディコン”が主流になると、これまで自動車には用いられてきた5Aや15A、20Aといったヒューズはなくなり、電力供給と制御を統合した基板に置き換わっていく。部品の淘汰はもはや待ったなしの状態である。

【分析2】

車載コンピューターが水冷に

 モデル3には、車載コンピューターと呼ぶユニットがある。アルミ合金の筐体で、内部にはメディアコントロールユニット(MCU)と、オートパイロットECUと呼ぶ2枚の基板が入っている。MCUが人と車両のユーザーインターフェース(UI)用、オートパイロットECUがその名の通り、自動運転や運転支援を行う車両の頭脳である。モデル3の知的な制御については、この2枚の基板でほぼ完結している。

 この筐体が興味深いのは、水冷である点だ(写真4)。アルミ合金製の水冷部は、MCUとオートパイロットECUに挟まれた場所にある(写真5)。クーラント液は、背面の給水口から入り、水冷部の中にある水路を通って、背面の排水部から出ていく。車載コンピューターユニットは、ダッシュボードに密着するように設置されており、ダッシュボードに開いた2つの穴を介して、水冷パイプとつながる構造となっている。

写真4 車載コンピューターの外観
写真4 車載コンピューターの外観
ダッシュボードの車室側に張り付くように設置され、ダッシュボードの穴を介して水冷用のパイプとつながる。
写真5 車載コンピューターの冷却部
写真5 車載コンピューターの冷却部
MCUとオートパイロットECUが両面に密着して置かれている。

 水冷になっているのは、オートパイロットECUの発熱が大きいからだとみられる。運転支援のために車外を向いた8個のカメラ映像を分析しているが、画像分析の計算量が膨大なため、消費電力は72Wもある。

【分析3】

自動運転用ICを自社開発

 モデル3の自動運転のレベルは、2019年11月時点でのレベル2。同一車線内で操舵、加速、ブレーキを自動的に行える。今後のソフトウエアアップデートによって、駐車場からの車両の呼び出し、自動車線変更、自動縦列駐車といった機能が追加されるという。将来は、人が運転に介入しないレベル4の自動運転も提供するとしている。

 これを実現しているのが、車載コンピューターユニットに入ったオートパイロットECUと呼ぶ基板である。ここにはテスラが独自に開発した自動運転専用のAIチップが2個搭載されている(写真6写真7)。同社によれば、この2つで完全自動運転の必要条件である演算性能144TOPSを達成したという。1個には、72TOPSのニューラルネットワーク用のアクセラレーター回路を備える。ICチップは14nm FinFETプロセスで製造され、チップサイズは260mm2、60億個のトランジスタを集積している。さらに、電源も、処理も、すべて2重系にして信頼性を向上させているという。

写真6 モデル3の車載コンピューターユニットの蓋を開けたところ
写真6 モデル3の車載コンピューターユニットの蓋を開けたところ
見えている基板の反対側にテスラ独自のAIチップがある。
写真7 テスラ独自のAIチップ
写真7 テスラ独自のAIチップ
基板上に2つ搭載する。電源も処理系も2重系になっている。

 自動運転を実現するため、オートパイロットECUには、車外に向いた8個のカメラ(ルームミラー前に3眼カメラ、フェンダーに2個、Bピラーに2個、リアに1個)、12個のソナー(前後に6個ずつ)、1個のミリ波レーダー、GPS(GNSS)アンテナがつながっている(写真8)。

写真8 運転支援・自動運転に使うセンサー群
写真8 運転支援・自動運転に使うセンサー群
現在は使われていないが、9個目として車内を向いた乗員監視用のカメラもある。

【分析4】

車載ディスプレーはシンクラ

 モデル3には車載ディスプレーとして運転席と助手席の間に設置された15型のタッチパネル式ディスプレーがある(写真9)。インテリアの中にボタン類はほとんどなく、運転以外の操作はほぼここで完了する。カーナビゲーションシステムはもちろんのこと、オーディオ、エアコンの温度・風量・方向、Webブラウジング、シートヒーター、トランクのロック解除、ライトなどの操作が可能である。また、このディスプレーは、速度メーターも兼用しており、速度のほか、電池残量、自動運転の状況などの把握ができる。

写真9 モデル3に搭載される15型タッチパネル式ディスプレー
写真9 モデル3に搭載される15型タッチパネル式ディスプレー
画面をタッチして、運転以外の設定や操作を行える。

 興味深いのは、このタッチパネル式ディスプレーには、内部に画面描画を行うためのプロセッサーチップや、通信のためのチップを持たないこと。タッチパネルの信号の取得と送信、表示に徹している。このタッチパネルディスプレーは、いわゆる、“シンクライアント”の端末なのだ。

 サーバーに当たる部分は、別途用意された車載コンピューター内にあるMCUが担っている。ここにインテルのプロセッサーやCAN通信用のICが搭載されており、画面生成や車両との通信を行う。タッチパネル式ディスプレーとMCUの間は、4心のケーブルで接続されている(写真10)。ここに映像信号とタッチパネルの信号が流れる。

写真10 車載ディスプレーのコネクター部
写真10 車載ディスプレーのコネクター部
あずき色の部分が4心のコネクターである。

 このように車両内情報端末をシンクライアントシステムにしているのは、設計の自由度を上げるためだと思われる。テスラは、運転手を必要としない完全自動運転の導入に積極的である。もし、完全自動運転が実現すれば、車両内の情報端末の位置は現在の運転席横ではなく、車両の中央や天井などの方がよいかもしれない。こうした時代を見据えた取り組みなのだろう。

【分析5】

インバーターが「USA」

 テスラは、モーターとインバーター、減速機を一体化した駆動ユニットを車両の車軸上に搭載するEVを設計してきた。これまで駆動モーターには、誘導モーターを用いてきたが、モデル3ではリア駆動ユニットに永久磁石式同期モーターを採用したのが特徴である。なお、4輪駆動車の場合、フロントの駆動ユニットは誘導モーターのままである。

 インバーターにはパワー半導体にSiCチップを用いて小型・軽量化を図った。従来車であるモデルSのインバーターに比べて容積を半減させている。モデルSのインバーターは、3つのパワー半導体ユニットを三角柱の面に沿わせるように並べて、中心部分を水冷する独特の構造を備えていた(写真11)。

写真11 モデルSのインバーター内部
写真11 モデルSのインバーター内部
パワー半導体を三角柱に這わせて冷却する特殊な構造を採用している。

 モデル3のインバーターでは片面を水冷するシンプルな構造に大きく変更している(写真12)。年間50万台の量産を想定したこともあり、SiCチップやフィルムコンデンサー、バスバーとなる銅板、制御基板といった部品を積み重ねるだけで製造できる構成とし、自動ラインでの対応を可能にしているとみられる。

写真12 モデル3のインバーターの冷却部分
写真12 モデル3のインバーターの冷却部分
モデル3のインバーターはフィンを多数配置した外装部分にクーラント液が通る水冷式である。

 制御基板は、その形状が特徴的である(写真13)。米国の国土の形状を模したとみられ、西海岸のテスラ本社に相当する部分に米国国旗をプリントするなど、コスト度外視のユーモアを見せている。

写真13 モデル3のインバーター内部
写真13 モデル3のインバーター内部
モデル3のインバーターの制御基板はアメリカの国土の形をしている。
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