2020年に60万人を超えた専門学校在校生を専門分野別でみると、医療分野が約18万人で最も多く全体の約3割を占めている。その中で最も多いのは看護師・准看護師の93,173人で、これに次ぐのが作業療法士・理学療法士の31,879人である(令和2年度 学校基本調査)。リハビリテーションの専門職である作業療法士・理学療法士は、高齢人口の増加や社会福祉の充実化を背景に、病院・診療所の他、福祉施設など専門性を活かせる場が増えている。そのため今後も作業療法士・理学療法士をめざして専門学校に入学してくる生徒は、高い水準のまま推移するものと見込まれる。
しかし現在、毎年多くの高校卒業生が作業療法士・理学療法士を志して専門学校に入学してくるものの、リハビリテーション専門職の仕事内容や作業療法士と理学療法士の専門性・役割の違いなどに対する彼らの理解・認識は十分であるとは言い難い。多くの高校生にとってリハビリテーション専門職と直接に接する機会が少ないことが、その大きな要因だと考えられる。結果、職種・職業への理解不足が、入学後の学習意欲の減退やリタイア「途中退学」につながっている。
進路選択の段階での職種・職業に対する最低限の理解に加えて、作業療法士・理学療法士に求められる専門性についても、専門学校入学時点で一定の認識が必要である。専門学校3年間のカリキュラムでは、生理学や解剖学などの基礎医学から作業療法・理学療法の知識と実践、診療の現場で実施する臨床実習までを学習することになるが、こうした専門的な学習内容の一部は高等学校での学びが土台となっており、高校生の段階でそれをしっかりと修得しておくことが必要だからである。高等学校での学習の不足は専門学校での成績不振につながり、結果としてこれも途中退学の要因になってしまっている。
このような状況下で、高校生の適切な進路選択に向けて、高等学校では進路指導の強化やキャリア教育の充実に取り組んでおり、高等学校からの要請を受ける形で専門学校が「出前授業」を実施する機会が増えている。特に沖縄県の場合、専門学校への進学率が高いこともあって、専門学校と高等学校の結びつきが強く、高専連携による職業教育の素地は培われている。しかし、出前授業のような教育は単発的なものであるケースが多く、専門職の仕事内容やその魅力、求められる専門性、高校時代に学んでおいてほしいことなどを系統的に伝えきれていないのが実状である。生徒一人ひとりが、より適切に進路選択できるように正確で偏りのない情報や知識を伝えていく場を増やしていく必要がある。
本事業では、高等学校11校(福祉科、総合学科、普通科)の生徒、教員に対してアンケート調査を行った。次のグラフはその集計結果の一部である。
これは生徒を対象としたもので「将来なりたい職業は決まっているか」「将来なりたい職業を理解しているか」「働くときに最優先したいことはなにか」について質した設問の結果である。
【生徒対象の調査結果】
Q 将来なりたい職業は決まっているか
上:福祉科 下:総合学科・普通科
Q 将来なりたい職業を理解しているか
上:福祉科 下:総合学科・普通科
【生徒対象の調査結果】
Q 将来働くときに最優先したいこと(単位:人)
上:福祉科 下:総合学科・普通科
回答者数 福祉科 106人、普通科・総合学科 1,749人
本事業では、高等学校と連携して高校3年間と専門学校作業療法学科3年間、計6年間の「医療福祉分野の高等学校・専門学校の連携による一貫型教育プログラム」の開発と実証を行う。作業療法士の教育課程を対象としたのは、作業療法士は他の医療職に比べて専門学校入学前の生徒が理解を深める機会が少ないことなどから、進路選択のミスマッチ予防や途中退学の防止など現状の専門教育の改善に有効と考えられるためである。また、沖縄県を中心に宮城県の高等学校とも連携し、広域展開の実効性を実証する。
本事業では、「①一貫型教育プログラム」の開発と共に「②高・専連携を支援する基盤システム」を構築・運用する。
①一貫型教育プログラム
高等学校では、キャリア教育基礎や社会人の基礎的能力を育む学習から基礎学力の向上、医療福祉分野の基礎知識や専門職について学習するなど、適切な進路選択に向けて以下のキャリア教育を実施する。
・仕事、働くことに対する理解
・リハビリテーション専門職に対する理解
・リハビリテーション専門職に必要な学び
・VRを活用した職業の疑似体験
専門学校では、養成課程外のカリキュラムとして基礎科目・専門科目の継続学習支援や国家試験のフォローアップなどを実施していく。
プログラムではこれらのカリキュラム、シラバス、教材等の一式をパッケージ化し、「リハビリテーション実践力」、「対人援助実践力」、「人間関係力や自己管理力」などの基礎的・汎用的な能力を備えた専門職業人の育成を図る。
以下の写真は、沖縄県立高校で実施した教育プログラムの体験学習の様子である。対人援助業務をVRで疑似体験し、職業への関心を呼び起こし、理解を深めることが狙いである。
②高・専連携基盤システム
高等学校教員と専門学校教員、臨床に従事する実務者(専門職業人)らが、意見交換や情報共有を行える基盤システムをクラウド環境上に構築し、活用する。これは、それぞれ多忙なためリアル空間での実施が困難なコミュニケーションやコラボレーション(協働による教育改善策の立案・展開)をネットワーク上でできるようにし、活動を支援する仕組みである。
さらに、生徒もこの基盤システムを活用できるようにする。
「高等学校教員・専門学校教員・専門職業人が基盤システムに教材をアップロード」
→「生徒が教材をダウンロードして学習」
→「生徒が学習の成果物をアップロード」
→「高等学校教員・専門学校教員・専門職業人が学習の成果物をチェック。コメントや助言を行う」
このようにして、教育プログラムの実効性を高めていく。
本事業は、専門学校3校、高等学校11校、行政2機関、企業・医療福祉施設4組織で構成するコンソーシアムを立ち上げ、推進していく。
KGI・KPIについては以下の理念をもとに検討する。
<KGIの理念>
・リハビリテーションが必要な人のためにさまざまな人と協働して、自分で考えて行動できる人材を育成する。
<KPIの理念>
・医療、福祉、保健、就労支援の領域は、対象者の障害だけではなく、社会的、心理的な観点および生活に配慮するためのチームワークが求められる。
・専門職として学ぶ過程で、コミュニケーション、情報の共有、チームマネジメントを身につける。
以上の理念をもとに、KGI・KPIの指標を検討する。
<高等学校>
・生徒:教育プログラム評価、将来なりたい職業、職業理解度評価、職業教育評価など
・教員:教育プログラム評価、職業教育評価など
<専門学校>
・学生:教育プログラム評価、職業教育評価など
・教員:教育プログラム評価など
・学校:退学率、学業成績、国家試験合格率など
<企業>
・就職先、求人数、専門職コンピテンシー評価など