日本のウイスキーの原点を探る

行ってよかった工場見学No.1 自然と香り豊かな「ニッカウヰスキー余市蒸溜所」を訪ねる:前編

文:広瀬敬代/ 写真:山出高士 07.31.2014

2013年に訪れた観光客は約28万人。2014年に入り、上半期に訪れた人の数は前年度よりも26%増え、年末までに30万人は超えるだろうといわれ、旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」では、『行ってよかった! 工場見学&社会科見学ランキング2014』で1位に輝くなど、注目度急上昇中の場所がある。北海道・余市にある「ニッカウヰスキー北海道工場余市蒸溜所」だ。のどかな町のクラシカルな蒸溜所を訪ねた。

特徴的な赤い屋根の石造りの建物が連なる余市蒸溜所

小樽からJR函館本線長万部行の1両編成の電車に乗り込み、石狩湾沿いにまっすぐ続く線路を進んでいくこと約25分、余市駅に到着する。駅舎を出ると視線の先に見えるのが、赤い屋根が印象的な石造りの門。ニッカウヰスキーの余市蒸溜所だ。

日本海を背に、まっすぐ続く線路を走る函館本線
国の登録有形文化財に認定されているニッカウヰスキー余市蒸溜所のゲート

スコットランドを思い描いた理想的な蒸溜所

「ゲートをくぐると、そこから先は別世界が広がります」。

余市蒸溜所の杉本淳一工場長は、顔をほころばせながらそう話してくれた。

ニッカウヰスキー株式会社 北海道工場 理事工場長 杉本淳一氏。20年近くブレンダーとして活躍し、チーフブレンダーのときには、ワールド・ウイスキー・アワードをはじめ、出品したいくつものコンテストで最高賞を受賞した「竹鶴21年ピュアモルト」をつくり上げた

「入社後ここに配属が決まって最初に訪れたときは、この景観に気持ちが高ぶりました。ニッカウヰスキーに入社する者にとって、ここは憧れの場所ですから」。その言葉通り、ゲートに足を踏み入れると、ひんやりとした薄暗い空間から見るアーチ形の先に開けた景色は、広く青い空に独特な形の赤い屋根が映え、異国情緒たっぷり。漂う香りさえも変わり、思わず「おー」と感嘆の声が漏れる。

アーチ形のゲートから見た蒸溜所の風景。まるで別世界への入り口のよう

余市蒸溜所を立ち上げたのは、ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝氏。単身でスコットランドに渡り、ウイスキーづくりを学んだ彼は、今から80年前の1934年に余市蒸溜所を建設し、人生を懸けて本格ウイスキーづくりに励んだ。この地に蒸溜所を構えた理由は、スコットランドの風土に似ているからだといわれている。
「なだらかな丘陵、余市川の清冽な水、豊かな自然、澄んだ空気、年間平均気温8℃の冷涼で湿潤な気候。竹鶴は、ウイスキーづくりを左右する最も重要なポイントは自然環境だと言っていました。寒冷な気候である北海道を巡った結果、余市がまさにウイスキーづくりを学んだスコットランドのハイランド地方を思わせる理想郷だったのです」(杉本工場長)。

北海道は大麦の産地でもあり、石狩平野では麦芽の乾燥に使い、香りを特徴づけるピート(泥炭)や燃料の石炭が採れたことも、竹鶴氏にとって、蒸溜所をつくる決め手となったのだろう。

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