教育CSRって何?

【教育CSR】教育界と産業界とのコラボが、高校生を強くする

アサヒビールと日本環境教育フォーラムの「若武者育成塾」レポート

文:辰野 恭子/写真:北山 宏一 01.29.2015

教育界と産業界が協働し、次世代を担う若者を育てる活動が注目を集めている。アサヒビールと日本環境教育フォーラムが主催する「若武者育成塾」第9期の取り組みをレポートする。

昨年末に開催された成果発表会の会場は、互いの健闘を称え合う大きな拍手に包まれた。地元の環境を守ろうと立ち上がった高校生たち。その笑顔は頼もしくもあり、誰もが自信と希望に満ちていた。

アサヒビールと日本環境教育フォーラムが主催する「日本の環境を守る若武者育成塾」は、これから社会に巣立つ高校生たちに、体験学習や企業訪問を通じて環境問題を肌で感じてもらい、地元の環境問題解決のために積極的に活動するきっかけを与える環境教育プログラムだ。高校生たちが問題解決法を自ら考え、実践することによって、 社会の課題を乗り切る力を身につけた、志の高い、たくましい「若武者」へと成長していくことを目的としている。

高校生たちの合宿に同行し、地元での環境活動に寄り添い続ける社員たちに、教育現場の教師たちも熱い視線を寄せる。官民の連携により進められている+ESDプロジェクト(※)においても注目を集めている

※+ESDプロジェクトは、環境省を中心に官民の連携により進められているプロジェクト。「持続可能な社会に向けた人づくりや活動」の見える化、つながる化により、地域の活動をさらに活性化し、そのような活動が全国に広がることで、地域社会や地球規模の課題解決に向けた住民と地域の力が高まることを目指す。

本レポートでは、9期目を迎えた昨年の取り組みを追う。

成果発表会の様子

ビール工場のゼロエミッションも見学

この若武者育成塾が始まったのは2006年。この9年間で243校941名の応募があり、論文審査により選抜され参加した高校生の人数は221名にのぼる。

育成塾の1年は、真夏に行われる3泊4日の研修合宿で幕を開ける。論文審査により選ばれた高校7校が参加。引率の教員、チームアシスタントを務める社員ボランティア、事務局が同行し、公害や環境活動の現場を巡る。

2010年は藤前干潟(愛知)・郡上(岐阜)、2011年は丹沢(神奈川)、2012年は琵琶湖(滋賀)・西淀川(大阪)、2013年は足尾銅山(栃木)などを訪れた。環境保全活動に取り組む人たちから直接話を聞くことで、その熱き思いを受け継いでもらうのが主旨である。

高校生たちは様々な出会いの中で、問題解決のためには、物事を多面的に考える力、未来を予測して計画を立てる力が必要であり、コミュニケーションを交わし、協力し合い、つながり合うことが大切であることを学んでいく。

この合宿で、アサヒビールはビール工場の裏側である下水処理やゴミ処理も見学させている。工場から出るごみを徹底して分別し、100%再利用するゼロエミッションに、「企業はここまで環境に配慮しているのか」と驚く高校生たちは多い。

海底ゴミ問題に取り組む卒塾生との交流も

第9期となる昨年は、全国43校(54チーム)134名の応募の中から論文審査により7校21名が選出された。

8月の合宿では、1日目に水島コンビナート周辺の海岸や浅瀬で海藻の一種アマモや生物を観察。瀬戸内海の豊かな自然に触れながら、産業と環境課題について理解を深めた。

2014年8月に行われた合宿の様子(提供:若武者育成塾)

また、若武者育成塾第7期卒塾生である山陽女子高校から活動報告を受けた。山陽女子高校は、地域の協力を得ながら瀬戸内海の海底ゴミ問題について調査し、その研究内容を文化祭等で展示。子ども向けカルタを作成し普及活動なども行っている。このように若武者育成塾をきっかけに始まった高校生たちの環境活動は、その多くが後輩たちに引き継がれ、地域の環境を守る力となっている。

産廃不法投棄事件の舞台・豊島を見学

合宿2日目は、日本最大級の産業廃棄物不法投棄事件の舞台となった豊島を訪れた。青い空と美しく穏やかな瀬戸内海、オリーブの葉が揺れる自然豊かな島。そこに現れたのは、巨大な廃棄物処理施設だった。

廃棄物が混在し汚染された土壌は今も掘削が続けられ、山は大きくえぐられている。その様子を目の当たりにした高校生たちは、長期に及んだ賠償裁判についても当時の原告団関係者から説明を受けた。問題解決のためには自ら行動を起こし、周りの人たちの共感を得ていかなければならないことを痛感した様子だった。

(提供:若武者育成塾)

台風で合宿中断、急きょ各高校へ向かった社員

例年であれば、この後ビール工場を見学。合宿の最後には高校生たちが地元の環境問題に取り組むためにアクションプランを作成する。このアクションプラン作成こそが夏合宿の山場だ。高校生たちは、合宿での経験を生かして、テーマを絞り込み、深夜まで議論を深めていく。そのそばには、常に各高校のチームアシスタントを務める社員たちが寄り添い、相談相手になる。それが若武者たちの合宿では、恒例の光景となっていた。

しかし、昨年は、台風の影響により合宿はやむなく中断。過去8年には一度もなかった予定変更を余儀なくされた。それでも社員や事務局は諦めなかった。どうすれば高校生たちがアクションプランを作成し、確実に実行できるか、台風が迫る中で時間の許す限り話し合った。そして、合宿終了後、それぞれが担当する高校に赴き、アクションプラン作成をサポート。ブログで情報を交換しながら高校生たちにアドバイスを送り続けた。励ましながら、時には厳しく指摘し、そして課題をクリアした時には共に喜んだ。

名城大学附属高等学校のチームアシスタントを務めたアサヒビール名古屋工場の鵜飼尚文氏は、「川の汚染問題をテーマに掲げた高校生たちに、せめて工場の下水処理だけでも見せてあげたいと上司に願い出たら、『わかった。まかせておけ』と快く承諾してくれました。この活動はチームアシスタントだけではできません。社内の理解があるからこそ続けられています」と笑顔で語る。

また、大阪府立園芸高等学校のチームアシスタントを務めた同東京広域支店の上垣外文枝氏は、「社会に出るとスピードが求められます。高校生たちにも、短期間で一定の成果を上げる術を教えたかったので、時間を決め、すべきことに優先順位をつけて行うこと、またどんな小さな取り組みであっても結果を数値データ化することが大切だと伝えてきました。少し感じてもらえたかな」とほほ笑む。チームアシスタントを務めた社員たちは、社内公募で選ばれたボランティア。それぞれが研究職、営業職など仕事の経験を生かしたアドバイスを行った。ビール会社にとって最大の繁忙期である夏、仕事の合間を縫って活動は続けられた。こうした社員たちの熱い思いは高校生たちにも伝わり、大きな支えとなった。

カンパネラナイト