フードブリッジ0141

当たり前の三ヶ日みかん、「肉屋のオヤジ」の手で大変身!

文:秋元 しほん 02.12.2015

静岡県三ヶ日町で食肉の卸業を営む「肉屋のオヤジ」こと中村健二氏。その肉屋のオヤジが、地元では当たり前の三ヶ日みかんを使った新商品を開発した。食材のイノベーションと町おこしの軌跡に迫る。

「斬新なアイデアというものは、どこにでもある、誰もが知っているものの、誰もやらなかった新しい組み合わせにすぎません」

自称「肉屋のオヤジ」がそう言った。

「アイデアのタネはそれ自体がスゴいものとは限りません。いわば、どこにでもあるもの。だからタネが存在する日常は『平凡な日常』であっていい。平凡な日常を別の方向から見れば、違ったものに見えることがある。そこから、新しいアイデアのタネが出てくるんだよ」と、とても楽しそうに話す。

この肉屋のオヤジこと中村健二氏は、企業経営者。静岡県三ヶ日町で食肉業務用卸事業を営むフードランドの代表取締役である。

なんだ、本当に町の肉屋のオヤジか、と思うかもしれないが、本業を想像することができないほど、中村氏は様々な肩書を持っている。その肩書きとは、日本果汁取締役、三ヶ日町観光協会会長、内閣官房地域活性化伝道師、ステキみっかび発信プロジェクト事務局長、三ヶ日ブランド国際化協議会会長……。まだまだあるが、長いので割愛させていただく。

フードランド代表取締役の中村健二(なかむら・けんじ)氏。フードランドは昭和6年に祖父が創業した。最近「クラウドファンディング」を使って浜名湖に沈んでいると言われている幻の戦車「チト」の捜索を始めた、三ヶ日町を愛するアグレッシブな三代目社長である

少なくとも肩書きから分かるのは、中村氏が地元・三ヶ日町に深く関わっているらしい、ということだ。

「ゴミになってしまうみかんで三ヶ日町を元気にしたい」

三ヶ日町は、愛媛県の愛媛みかん、和歌山県の有田みかんと並ぶトップクラスのみかん産地。年平均気温約16度、温暖で日照量が多く、みかん栽培に適している。ここで生産される三ヶ日みかんは、日本でも有数のブランドみかんであり、三ヶ日町の住人の多くがみかん生産に関わっている農家である。

みかんはビタミンCが豊富。さらに、果肉が入っている袋には食物繊維、白い筋には抗酸化作用に優れているヘスペリジンが多く含まれ、外側の皮は、漢方薬としても使われている。1日2~3個食べるのが良いとされている

ずっしりと重い三ヶ日みかんは、青島という品種になる。高い糖度とほどよい酸味を持ち、かみしめると大きな粒がはじけて果汁が口いっぱいに広がる。袋も柔らかいので、そのまま食べても食感が損なうことはない。「こたつでみかん」の楽しみを裏切らないみかんなのだ。

美味しさの秘密は、三ヶ日みかんの特徴を生かした貯蔵方法にある。一般的なみかんは、皮と中身が成長に合わせて同時にみかん色になるが、三ヶ日みかんは、皮より先に果実が色を付ける。これを着色と言う。

そのため、皮にわずかに青みが残ったまま収穫し、貯蔵庫で果実の着色を進める。貯蔵することで、果実の酸が分解され、糖度が上がり甘みが増すのだ。寝かせることによって旨(うま)みを出す。はやりの言葉を使うと「熟成みかん」と言ってもよいだろう。

そんな「こたつでみかん」の楽しみを裏切らない三ヶ日みかんだが、栽培されたすべてのみかんが消費されるわけではない。

収穫前に、大雨や台風で落下したり、イノシシに畑を荒らされたり、害虫被害や病気にもなる。ようやく収穫されても選果場で基準に達せず、市場に出せないことも日常茶飯事だ。

こうした未食みかんは、ジュースや缶詰などの加工品として姿を変える場合もあるが、大半は販売不適合品として世に出ることはない。

育てたみかんがゴミになる。……もったいない。

作ったのに三ヶ日町のみかん農家が潤わない。……もったいない。

未食みかんをどうにか活用して、三ヶ日町も元気にしていくことはできないか。中村氏による「みかんと他の要素を組み合わせる」取り組みは、そこから始まった。いまから8年前のことだ。

医薬品技術を適用して液状みかんに

前述のように、未食みかんは果実の搾汁によってジュースなどに生まれ変わるのが一般的だ。しかし搾汁加工で使えるのは、みかん全体の約50%で、残り半分はゴミになってしまう。さらに、皮をむくなど人の手がかかる割にはそれほど利幅は大きくないし、利用用途は限られてくる。

ゴミを出さず、汎用性のあるみかんとするにはどうしたらいいのか。

中村氏は試行錯誤を繰り返しながら、ある方法にたどり着いた。医薬品を開発する食品工学の先端技術を使ってみかんを丸ごと液状化するというものだ。

低温加熱殺菌でみかんを殺菌し、皮のまま液状化させる。100度以上で消滅してしまうみかんに含まれる天然のビタミン類も、85度の低温で瞬時に加熱殺菌にすることで、そのまま摂取することができる。

近年、ベータクリプトキサンチンというみかんの成分が、動脈硬化など生活習慣病の予防に役立つという研究結果も発表されている。三ヶ日町の住民に健康調査をした結果、みかんをたくさん食べている人は動脈硬化などのリスクが低いという結果を始め、骨粗しょう症になりにくいというデータも出ている。

液状にすれば、そうした体にうれしい成分を失うことなく、取り入れられる。

こうして開発されたのが「液状みかん」である。栄養素はもちろんだが、液状になることで汎用性も格段に広がった。果実や搾汁だけでなく、加工品に幅広く使える調味液として利用できるようになったからだ。

液状みかんの最大の特徴はその味だ。皮に多く含まれる天然の香気成分(精油分)がそのまま液化抽出されているため、果汁などにはない、特徴的な風味が出る。この風味は苦味に当たる。糖度の高い三ヶ日みかんに皮の苦味が加わり、他の材料の味や香りに負けることがなく、美味しいみかんの加工品にすることができる。

何度も抽出方法を試し、2008年、ついにみかん丸ごと100%の「三ヶ日みかんピューレ」が完成した。

三ヶ日みかんピューレ

中村氏の活動は、経済産業省・農林水産省にも評価され、「地域産業資源活用助成事業者」に認定。さらには「地域のがんばる中小企業300選」(2014年)、「地域課題を解決する企業100選(2015年)にも選定されている。

みかんピューレを各種のブランドと組み合わせる

フルーツとして果肉を食するだけだった三ヶ日みかんの可能性は、これで大きく広がった。多くの消費者に様々なシーンで食べてもらえる原料となったのだ。それどころか、ゴミにせざるを得なかった未食みかんが食用として活用される道が切り開かれたのである。

ところが、地元の農家の人たちは、未食みかんから開発されたピューレにあまり興味を示さなかった。みかんが余りにも身近すぎて、その広がりを想像することができなかったからだ。

それでも中村氏は、開発したピューレを手に、国内外の展示会やメーカーに何度も足を運んだ。

その熱意が周囲に伝わったのだろうか、中村氏の活動に共感した地元の菓子店が三ヶ日みかんピューレを原料にしたお菓子を作り、少しずつ加工原料として使われる機会が増えていった。

そのタイミングでたたみかけるように自社開発したのが、「三ヶ日みかん少年純情派オレンジソース」だ。みかんが丸ごと3個分入ったドレッシングである。

「三ヶ日みかん少年純情派オレンジソース」のパッケージ。「ちゃんとみかんの味がする」とのことで人気を博している

浜松市にある観光ホテルに、このドレッシングの試用を依頼した。このホテルは朝食ビュッフェのドレッシングとして使い、さらにはホテル内のお土産売場でも販売してみたところ、1カ月に4000本も売れた。これだけの本数が1カ月という短期に売れるのは異例のことという。

このドレッシングは2011年の発売開始以来、累計約4万本を売り上げた。三ヶ日みかんピューレを使った人気商品として、現在も販売している。

三ヶ日みかん少年純情派オレンジソースを使ったサラダの調理例
このオレンジソースは白身魚のソースや肉団子の甘酢ソースとしても使えるという
ピルゼンアレイ