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「うまくやれば勝てる」 出版不況を快進撃、天狼院書店の秘密

天狼院書店代表・三浦崇典氏に聞く(前編) 「コミケ出展者のほうがコンテンツ市場を知っている」

聞き手:カンパネラ編集部 / 文:西本 美沙 / 写真:菊池くらげ 05.26.2017

池袋の路地にある蕎麦屋の2階に小さな本屋がある。誰もが想像する「本屋」とは少し違う。それが天狼院書店だ。2013年に本だけでなく、その先の体験を提供する次世代の書店としてオープンした。カフェ併設の書店というだけでなく、「カメラ部」や小説家養成ゼミなどの体験型イベントを定期的に開催している。独自の企画が参加者の心を掴み、全国4店舗に拡大し、年内には新業態で数店舗をオープンする予定だという。

出版不況の中、書店の閉店も相次いでいる。そんな中、なぜ天狼院書店は支持されるのか?天狼院書店代表・三浦崇典氏に聞いた。

──天狼院書店は2013年に開業されました。そもそも出版不況の中、なぜ書店を作ろうとしたのですか?

三浦:もともとは、ある中堅書店チェーンで働いていました。そこで書店のビジネスモデルが崩壊していくのを見て、「これは儲からない」と危機感を持ちました。

昔の書店ビジネスは完璧な仕組みだったのです。出版社がマーケティングをし、取次が銀行機能まで備えているので、書店は売れ筋の本を確保して、それを並べることを考えればよかった。それで勝手に売れていく。バブルの時期は70坪の書店に社員が6人もいたそうです。でも今は店舗単位どころか、エリア単位で社員が1人、あとは全員バイトでまわさないといけない状況です。

ビジネルモデルが成立しなくなったのは、単純に雑誌の影響だと思います。世の中のほとんどの書店は雑誌で成り立っています。当時は、定期購読で美容室や歯医者に配るだけでかなりの数があり、雑誌以外は売れなくても成り立っていました。ただライフスタイルの変化で雑誌の部数が減った。これは必然的縮小で、どうしようもないことです。

衰退マーケットのなかで「一人勝ちできる」と思った

──それを間近で見ていたのに書店を作ったんですか?

三浦:実は書店を構える前に、2009年に一度起業したんです。おじいちゃんやおばあちゃんの人生を小説などにして、流通しない書籍をつくるというビジネスでした。書籍を流通させようとすると300万円はかかりますが、本当にその本を欲しい500人くらいにだけ届けるなら50万円くらいで作れると思ったんです。でも、やればやるほど赤字になりました。

一般の人達の人物伝をつくろうとしていたのに、「激安で社史を書いてもらえる」と思って、売り上げが100億円あるような企業などからも依頼が来てしまった。工数を考えると1本受けるごとに100万円ずつ損をするという、わけがわからない状況になってしまいました。1本仕事を受けるごとに儲かるどころか、融資を受けるような有様で。それで2010年に辞めた書店チェーンに頭を下げて一度戻ったんです。

──社史は通常500万円はかかりますからね……。再度、戻って、なにを担当されたんですか?

三浦:祐天寺店でビジネス書の棚を担当しました。祐天寺は渋谷などで働く人が多く住んでいます。ただ、当時の祐天寺店は年配の方や子供をターゲットにしていて、ビジネスパーソン向けの棚がなかったんです。棚があっても、「ビジネス文書の書き方」や「Wordの使い方」みたいな本ばかり。そこで、しっかり売れ筋ランキングに出ているビジネス書を置いたら、一気に売り上げが伸びました。単価が高いビジネス書をまとめ買いするお客さんも増えて、客単価が大幅に上がりました。

ビジネス書を担当してわかったのは、ビジネス書に精通した書店員はあまりいない、さらには、ビジネスをわかっている書店がほとんどないということです。それはそうですよね、都内の大手書店を除くと書店のエース級の人材は文芸やコミック、雑誌の担当になりますから、アルバイトの人が担当していることが多い。自らビジネスをしているわけでもないので、ビジネス書を精通するのは難しい。

──ビジネス書の売れ筋はどのようなランキングを参考にしたんですか?

三浦:単純に僕が読みたいランキングです。起業をきっかけにビジネス書に対する目利き力がつきました。「この1冊で100万円儲かる」というような本には嘘が多いとわかり、奥付の刷り部数を確認するようになりました。

ビジネス書って、簡単な本からはじめると本当に読むべき本があと回しになります。だから読むべき本だけをしっかりピックアップしました。例えば、マーケティングなら入門編の書籍より、コトラー&ケラーの「マーケティング・マネジメント」が本当は一番簡単だったりします。

そこから慣れてくると、ビジネス書は作家名じゃなく編集者名で選ぶのが間違いないとわかってきます。シリコンバレー系の書籍なら日経BPの中川ヒロミさん、文具やノートだったらダイヤモンドの市川有人さんというように。小説は、編集者によって変わることはありますが、村上春樹、東野圭吾といった作家名で売れ行きが担保されます。でも、ビジネス書の場合は、同じ著者の本でも編集者によってまるで質が違います。それで編集者名で集め出したら、売れる棚になっていったのです。

──本が売れる法則を見つけて2013年に再度、起業をされたんですか?

三浦:というよりは、「お前は改革しすぎ」と事実上クビを宣告されたんですよね。その書店は誇りと文化を重んじていたので、僕のやり方は少し合わなかったのかもしれません。確かに70年代には革命的で最新だったし、当時は売れるロジックがしっかりしていました。でも時代やお客さんの変化に順応できていなかったんです。

それで退職して、前の事業の借金も返さなきゃいけないし、どうしようと思っていたら、ビジネス書を担当していたことで人脈もできていたので、出版社の担当者からマーケティング戦略や販売といった仕事をいただくようになり、1年で借金を返しました。

出版社のマーケティングの仕事はすごく勉強になりました。その仕事で全国の書店をまわり、「書店ビジネスはまだいける」と思ったんです。出版不況のなかで新しい書店ビジネス事業をはじめたのは東京・下北沢のB&Bぐらいしかなく、まだ誰もあまり手をつけていない。だから逆に今しかないと思って、天狼院書店を開業しました。

衰退マーケットに優秀な人が流れ込みにくいので、そういった面でもうまくやれば1人勝ちする可能性があるんですよね。書店業界を見ていると、優秀な人は出版社の営業に転職したり、外に出て行ったりする。全国にも一部の書店には、本当にビジネスを考えられる方がいるんですが、本が好きで仕事をしている人のほとんどは、ビジネスという戦場において戦うというスタンスになっていないんだと思います。ビジネスとして全体を網羅的に考えられる人材が少ない。

──天狼院書店は順調に売り上げを伸ばしているとのことですが、書店ビジネスはどうすれば成長できるのでしょうか?

三浦:僕は数値しか見ていませんね。数値だけが真実です。書店の現場、販売の前線の出身なので実績データを見ないと生きていけない。

出版不況と言われているが、購買意欲はある

三浦:雑誌の販売数が落ちるのはもうどうしようもない。ただ、ビジネス書は売れるということはわかっている。後は、雑誌の下げ幅の分だけ他の収益を上げれば、圧勝できるんじゃないかなと。その方法さえ確立すれば、本はいくらでも売れると思いました。それは、コーヒーを出すカフェをつくるのか、イベントを開くのか、そのほかの違う方法なのか。とにかく、まずは雑誌の落ち込みをカバーする方法をみつけようとしました。

そもそも、出版不況だと言われていますが、コミケでは札束が飛び交っています。購買意欲はあるんです。業界関係者よりも、コミケに出展している彼らのほうがマーケットをよくわかってますよね。

(後編に続く:三浦さんが天狼院書店を成功に導いた「遊牧民戦略」について聞きます)

三浦崇典(みうら・たかのり)
天狼院書店店主
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。映画『世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~』監督。ライター・編集者。著者エージェント。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。 NHK「おはよう日本」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、雑誌『商業界』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。
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