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実はキッチンに課題満載の日本 スマート化が未来を切り拓く

「スマートキッチンサミット」主催・シグマクシスの田中宏隆ディレクターに聞く(後編)

文:栗田 洋子 / 写真:中島 正之(特記なき写真) 11.01.2017

食や料理におけるイノベーションの可能性の大きさに気づき、会社や業界を越えて一緒に新しいビジネスを考えようと、日本でも「スマートキッチンサミット」を立ち上げたのがシグマクシスの田中宏隆ディレクター。孤食が増えていくといった日本が直面する社会的課題も解決し得るような斬新なイノベーションは生まれるのか。サミットの盛り上がりとともに、IoT(モノのインターネット)がもたらす可能性について、さらに聞いてみた。(前編はこちら)

シグマクシスの田中宏隆ディレクター

──冷蔵庫がスマート化し、レシピの提案までしてくれるような新しい技術は私たちの食生活を豊かにしてくれるのでしょうか。

今まで何を作ろうかと悩んでいた人が悩まなくてもよくなり、こんな料理もできるんだ、という気づきも生まれてくると思います。ただ、便利にはなるけれども、料理自体を楽しくするというところにはまだ至っておらず、これからはもっと食生活を豊かに楽しくするためのサービスが出て来なくてはならないと思っています。

前回にお話ししたレシピサービス「Hestan Cue」は、子どもに使わせると「僕にもできた!」ってすごく盛り上がるらしいんですね。だから、やはり料理を通じて楽しさも増えるし、コミュニケーションも増えるし、豊かになるだろうという確信があります。まだまだ模索中ではありますが。

孤食など日本の社会的課題も解決し得る可能性

──料理や食の分野において、日本特有の可能性や課題はありますか。

世界の1人当たりの平均料理時間と平均食事時間をみると、日本はどちらもトップクラスに長く、統計的に見ても日本人にとって食事が重要なことはわかっています。和食が世界遺産に認定されていることでもわかるように、実は日本の食の産業は世界的に見てもすごく大きいんです。技術についてもIoTだけでなく、例えばカップ麺や調理家電や冷凍技術など日本から発信されている技術や製品がたくさんあります。

にもかかわらず、料理を楽しんでいるかと言えば6割以上の人が義務感でやっているという。でも、実際に話を聞くと、「もっと料理したい」「もっと手間をかけたい」と思っている方が多く、何か本質的に解けていない課題があるのでは、という気持ちになります。

もう一つ、大きな社会的課題として孤食の問題があると思います。2030年には単身世帯が約4割になるという高齢化社会の日本では、高齢になるほど全食が孤食の割合が多く、こういう未来に対して何ができるのかは、非常に重要なテーマであると考えています。

──そういったさまざまな課題を解決し得る、ビジネスの可能性を探る場として、8月に東京で「スマートキッチンサミット」を開催したのですね。

サミットで今回私たちが伝えようとしたのは、料理はすべての人にとって重要なテーマであること、料理にはこれまで見過ごされてきた未解決の課題が実は多いということ、そして、そういった課題が今、最先端のテクノロジーを通じて解き得る可能性があるということでした。今まではさまざまな課題に対して一つの企業が単独に検討し、「これは本当にできるのか」「採算取れないでしょ」という結論に陥る状態だったのですが、「いや、世の中には同じことを考えている仲間がいるんだよ。だから一緒に考えて頑張ろう」というストーリーをサミットで伝えようとしたのです。

ですから、米国の最先端事例だけを紹介するのは絶対に避けたかったし、あえて意識して、テクノロジーを切り離した料理の再定義や従来のレシピの不完全さを伝えるセッションを午前中に入れました。全体的に満足度は高かったのですが、特に午前中のセッションはインパクトがあったようで反響が大きかったですね。

レシピだって変わっていく

──従来のレシピには欠点がある、という指摘は斬新でした。

料理の手順を的確に表現すると、カレーを極めているエアスパイス代表の水野仁輔さんが示した樹形図のような形のレシピになるんですね。従来のレシピでは、複数の食材をこちらは刻んで煮込む、こちらはこう下ごしらえして、それが合わさっていく、というような俯瞰的な表現ができていないんです。また、例えば「トマトを湯むきして」とあっても、どうしていいのかわからない。細かい技術を知っていることを前提に作られているので、そこを埋めるものがあっていい気がします。スマートフォンで検索すればいいといっても、しばらくすると画面が消えて、また指紋認証……って手が汚れてできないんだけど、とか何かがおかしい(笑)。

エアスパイス代表の水野さんの活動「カレーの車」のスタッフが描いた樹形図のような形のレシピ

また、「カレーをおいしく作るためには、玉ねぎを弱火で時間をかけて飴色になるまで炒めなくてはいけない、というのは手法のひとつに過ぎなかった」というお話がありました。飴色にして甘みとコクが増すのは、玉ねぎの中の糖とアミノ酸がメイラード反応を起こすから。だったら、メイラード反応を起こしてやればいいわけで、2時間炒め続けるのと同じ効果を出す手法もある。例えばたった10分でできる別の方法もある、と水野さんは話していました。これまでのレシピで常識だと考えられていたことが実はもっとほかに方法があったりするので、レシピ自体が創造的に変わっていく可能性があるんですね。

──日本初開催の「スマートキッチンサミット」には、どういった方が参加されたのでしょうか?

参加者は200人近くになり、思った以上に多くの方に参加いただきました。参加者の所属先は多様で、食品関連メーカーの方が一番多く、キッチンメーカー、家電メーカー、食関連のベンチャー、住宅インフラ系、雑貨メーカー、商社、小売り、流通、クックパットなどのメディア、技術ベンチャー、ベンチャーキャピタル、コンサルティングと幅広い分野の方に集まっていただきました。

さまざまな食のステークホルダーが食の課題を共有し、一緒にイノベーションをビジネスにする、そんな場にしたいと思っていましたので、サミットだけのつながりに終わらせず、今後もオンライン・コミュニティーを含め、リアルな集まりも考えています。直近では、草の根的な有志の活動として、料理を楽しくするってどんなことなのだろうかを考える集いなども企画しています。

──サミットは来年以降も継続して開催していく予定ですか。

来年も夏に第2回のサミットを開催したいと考えています。向こう3〜5年は間違いなくやるべきイベントだと思います。私たちのゴールは、新しい産業をどんどんつくることです。今、それぞれの会社で閉じられているヒトも技術も製品もうまく外に出して、つなげて、次世代の食と料理の産業を共につくる世界もありだと思うんです。

例えば介護がいらなくなる老後や、みんなが楽しく過ごせる老後なども一つの産業になるかもしれません。食と料理はそのきっかけになると思っています。孤食などの社会的課題を解決するにしても、そういうものはビジネスにしないと継続しないので、ビジネスにする仕組みが必要です。私たちは、その仕組みづくりをサポートしたいと思っています。

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