今夜も噂の酒場をHOPPING

二足のわらじは履いていない。全部ひっくるめて僕らの人生

アナログレコードとおいしいお酒、東京・渋谷のロックバー「shhGarage」(後編)

取材・文:荒濱 一 / 写真:大槻 純一 04.17.2018

居心地がいい店をつくる、経営は「美しき自転車操業」

shhGarageの常連客たちはこの店について「とにかく居心地がいい」と口を揃える。一度来た客はかなりの割合でリピート客になるし、ほぼ毎日いるのでは?と思うような客も少なくない。

その「居心地の良さ」の理由はどこにあるのか? 日比谷は「みんながそう思ってくれているならうれしい」と前置きした上でこう語る。

「そもそもこの店は、先ほども話したように、『僕と芹沢さんが2人でいい音楽を聴きながら楽しく飲める場所がほしいね』ということで始めたもの。多少規模は大きくなったけど、コンセプトはそこから全くぶれていないのが、みんなも心地良く感じてくれている理由じゃないですかね」

例えば、「看板を出さない」「場所を公開しない」というのも、「コンセプトからぶれないようにする」ためだ。単に客を多く集めたいならば、住所を公開するどころか、積極的に広告を打つなりなんなり、いかようにもやりようがあるが、決してそうはしない。恵比寿時代に民家のガレージに友達が集まってみんなでワイワイ楽しんでいた時の雰囲気を大事にしたいからだ。

「率直に言って、渋谷のこの場所、家賃高いんですよ(笑)。確かにキツイけど、『おカネを稼ぐために店をやる』のでは、方向性が変わっちゃう。1人あたり何杯飲ませないとペイできないとか、そういう話になったら、やっている僕たち自身楽しくないでしょう?」と芹沢。同様に瞳も、「ザ・飲食店みたいな店をやるなら、今のやり方よりももっと効率的なやり方があると思う。けれども私たちがやりたいのはそういう店じゃないから。ただ、現実的に家賃やお酒の仕入れ代などは発生する。それと私たちの目指すところとのバランスをどう取るかですよね」と語る。

もちろん、こうした店の運営スタイルが可能なのは、3人がそれぞれ別の仕事を持っているからというのもある。「最悪、この店の利益がゼロでも、生活は成り立ちますからね。とはいえ、開業以来一度も、赤字になったことはないんです。毎月、最終営業日に計算してみると、『おお、今月もなんとか(黒字に)いった!』と(笑)。『美しき自転車操業』という感じですかね」と日比谷は言う。

マニアックな音楽好きばかりではない

居心地がいいのは、客同士がすぐに仲良くなり、会話が弾むのも一因だろう。1人で行っても、日比谷や瞳がその場にいる誰かとつなげてくれるため、ポツンと取り残されることがない。

「僕は以前からコネクターを仕事にしていますから(笑)。感覚的に、あの人とあの人は合いそうだな、とわかるんです。秘訣としては、まず1人ひとりを知るのが大事。どういうことが好きだったり得意だったりするのか情報をストックしておいて、『あ、だったらこの人と引き合わせると面白そうだな』と。つながるポイントを探すのがクセになっていますね」と日比谷は独自のテクニックを明かす。

瞳ママお気に入りのアルバムの一枚は「THE BLUE HEARTS」(右)。青春の思い出だという

一方、瞳も「人を引き合わせる時には、あえて職業は言わないことが多いかな。例えば『ライターの◯◯さん』と紹介すると、紹介された側は、自分とは違う世界の人と思ってしまうかもしれない。職業よりも、パーソナリティやハートの部分を伝えたいわけだから。私もだんだんママテクがたまってきてます」と笑う。

DJの芹沢も、レコードを回しながら、常に店の雰囲気づくりに心を砕いている。

「この店って、マニアックな音楽好きの人ばかりが来ているわけじゃないんですよ。実はロックはあまり聴いてこなかった、という人も多い。そういう人にも心地良く感じてもらうことが大事。今、この空気で何をかければいいか、その場にいる男女の比率や年齢層に応じて曲を選んでいます。遠くでお客さんが誰かと好きなバンドについて話しているのが聞こえてきたら、しばらくたってからそのバンドの曲をかけたりもしますね。あまりすぐかけるとあざといから(笑)。僕はバンドをやっていたので、ステージみたいなものですね。選んだ曲で場が沸くと最高に気持ちいい」