ネオンとオンナ

ネット時代の炎上は「レイヤー違い」と「ハードな張り手」から起きている

燃えるものなき砂漠を流浪しながら、生暖かくネットと対峙しよう

文:鈴木 麻友美 01.24.2018

ネットがなかった“拡声器時代”のやり方が未だに散見される

昨年を振り返ってみると、「ハードな張り手」に対する潜在的な抵抗感が顕在化した年だった気がする。

筆頭はまずトランプ大統領。彼が打ち出したやり方はまさに、先天的なアイデンティティを全面的に押して共感を得ようとする「ハードな強烈張り手」。人種や国籍で分断し、その排斥で求心力を得ようとするアプローチは、多くのニュートラル層の拒絶を招いた。でも、そのニュートラル層はヒラリーにもイヤ〜なマッチョ感を感じてしまったのも事実。

そして、無意識な張り手による炎上や負傷は、政治や社会的論点を議論するSNS空間でよく目撃する。国政選挙を控えれば、大きな潮目である二項対立に、無数のレイヤーと斜め上の視座が絡み合い異種格闘技の場外乱闘的な風情となる。乱闘自体は楽しいけれど、どうしても気になってしまうことがひとつある。自分よりも一回り以上年上のオトナたちによるふるまい。ふだん上品な方なのに、SNSで政治家を呼びすてにしたり、特定の思想を過剰なまでに暴力的な言葉でののしるコメントをしたり。

おそらくそれはある時代において有効だったし、そのおかげで状況や時代が好転したこともあったかもしれない。けれど私は「(ネットが存在していなかった)“拡声器時代”のやり方を、ネットもSNSも手にしたのに同じようにやるのかぁ」と一歩引いて見てしまう。レストランでしっぽり2人っきりの個室で、耳元で「君が好きだ」と言われるかと思ったのに、その密室で「僕は女性が好きだーー!」と叫ばれる感覚。

学生運動をリアルタイムで知らない30代の我々的には、今伝わる方法にコンバートすればもっと伝わるのに!と思ったりもする。ちなみにわたしはこのような本人が生きてきた時代に基づく発言のトーンや言葉遣いのクセを、方言ならぬ「時代弁」と勝手に呼んでいる。(ちなみにもちろん時代弁の方が伝わること・ものもたくさんある)

ソフトを売りにしていた人もいつしかハードになる罠

匿名による記述で恐縮なのだが、身近なところでも「レイヤー違い」の不幸や「ハードな張り手」の危険性を象徴する出来事が発生したので、最後に言及しておきたい。

去年末、ある女性がネット上で勇気ある告発をした。しかし逆に彼女の過去の差別的な言動が指摘され、謝罪に追い込まれた。その後、複数のプレイヤーを巻き込みながら謝罪を撤回し、炎上した。

この方は、自信が発信するソフトコンテンツの面白さで自分を“メディア化”し有名になった。すでに企業を退職しているのでプロの表現者だ。彼女が発信するコンテンツの面白さは、若い女性が等身大で発しているところにある。素直な視点で、だからこそ時に議論を呼ぶ様子を私もおもしろいなぁと眺めていた。

ただ最近は、コンテンツよりも「有名になった自分」というハードを前面に押し出して活動している印象も受けた。女性であることが視座として過剰にアイデンティティ化されて見えたり、炎上の最中に自身を礼賛するツイートをエゴサしてリツイートするのも、正当性の強烈張り手に映りかねない。少なくとも私には。

いくつかのネットメディアがこの炎上について「告発者が非難されるのは良くない」と擁護的に批評し、さらに油を注いだ。そうじゃないでしょ、と。そこからさらにプレイヤーが増えまくり、議論がズレまくり、当初彼女を支持したかった多くの人々が途中で共感の拠り所をなくし、置いてきぼりにされた。

冒頭でも言ったとおり、「レイヤー違いの意見」や「因果関係が違うこと」を、無理やり二項対立の構図に持ち込むのは性急だし、そうじゃないという指摘がすぐになされる時代。ネットメディアの行為としては信頼を失いかねないとても危険なものだと思う。

そう考えていくと、レイヤーは視座であって、それ以上のものではない。だから自らその立ち位置自体を自慢したり、人に強要するものじゃない。固定化されがちなアイデンティティーと違って、自由に行き来できるもの。その情報を受け取る際、あるいは発信する際に、中身をひもとき深入りする時の、安全運転のシートベルトみたいなものでもある。自爆したりクソリプをされて負傷したりする人が減りますように。そんなことが世界平和の小さな小さな一歩なんじゃないかと思う。

2000年代、国産SNSであるミクシィが華やかだった時から干支がゆうに一回転し、誰もが様々なSNSで大量に発信する術(すべ)を持ってしまった今、たくさんのレイヤーで楽しく軽やかに生きていきたい。

遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。

鈴木 麻友美(すずき・まゆみ)
1983年、神奈川県生まれ東京都在住の会社員。テレビ局勤務。赤ちょうちんと茶の湯と蕎麦が好物で夜はたまにクラブDJに変身。都会に疲れしばらく海辺ぐらしをしていたが、現在都内に仮住まい中。本コラムではTOKYOに浸かりつつ距離もとりつつ、愛と諦めを持ってTOKYOのヒト・モノを観察します。
Twitter/Instagram @kingmayummy