ネオンとオンナ

「港区おじさん」は“純愛”を貫くために妻をマネジメントする

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」的なダークファンタジーが見せた、愛の在り方、夫婦の在り方

文:鈴木 麻友美 04.18.2018

どう猛な女性たちが徘徊する“サバンナ”を生き残る方法

で、冒頭の杉井さんという男に話を戻す。

杉井さんは、「男ってなんでさぁ」と女性が抱きがちな疑問や不満を、すべてきちんと言語化して話してくれる稀有(けう)な存在だ。しかも「男はね」って全体化せずに、「僕はね」と規定しながら。とても信用できる。

杉井さんの妻はものすごい美人だ。杉井さんにおける結婚のKPIの主軸は「子孫を残す」。だから、浮気をしたとしても絶対に子どもと家庭は守ると決めているらしい。

ただ彼のまわりには、華やかな女性、しかも「妻や子どもがいる男だって、余裕で奪い取ってやるわ」ができる美と知と財力(慰謝料とか一切怖くない)を持つ女性がウヨウヨいるらしい。弱肉強食すぎてすごい、サバンナか。

さらに、杉井さんは元の素材がいい美女よりも、美に対して努力している女性のほうがキュンとしてしまうと自己分析する。たとえそれが妻よりもイイ女度では全然劣っていたとしても。成功者・杉井さんにとってはそういう「努力」が是として映るのかもしれない。つまり杉井さん、サバンナでは格好の餌食となるタイプだ。

ところが子育て中の杉井さんの妻は、杉井さんが求めるようなセクシーな下着を毎日つけたりデコルテをケアしたり、きれいに着飾ることはなかなかできない。

でも杉井さんは、頭がキレるし、KPIを達成する男だ。自分の男としてのスケベな本能とそれを制御する理性の力量(と限界)を冷静に測っていた。

自分の心(とオスとしての本能の幸せ)の軸足をきっちり妻に置くために、妻と一緒に筋トレを始めた。単刀直入に言うと、性生活がよくなるための体幹トレーニングだ。出産を重ねた奥様の体幹を元に戻すトレーニングである。

美のための努力をする女性が好きな杉井さんは、その状況を自ら作った。このトレーニングは効果が絶大だったようで、夫婦生活は素晴らしいものになったらしい。

珍妙だがまっとうな夫婦の在り方

そもそも浮気するなよ、って話ではあるが、私はええ話だなぁと受け止めた。現状分析と、相手を巻き込んだマネジメント。なかなかできないもの。

相手のせいにする前に、何ができるか。結婚生活は自分が享受できることを求めるより、自分が相手に何を提供できるかを考えていたほうがうまくいく。

自分で働くのがイヤで、若さと美だけを対価にお金持ちと結婚した女性が、数年後夫に若くて美しい女性に浮気される。自分が結婚の条件として相手に与えた対価が目減りしたからだと認知する。その対症療法が整形だったりすると、はたから見ると滑稽だけど、本人にとっては最善の策なんだ。

増えていく価値を絶えず供給し合える夫婦は強い。それがたまたま子どもかもしれないし、価値観かもしれない。

珍妙に見えたり、打算に見えたりしたって、「純愛」の定義は当事者たちが決めるもの。

シェイプ・オブ・ウォーターと杉井さんトークの余韻にひたりながら、夫婦っておもしろいなぁとしみじみ思うのであった。

鈴木 麻友美(すずき・まゆみ)
1983年、神奈川県生まれ東京都在住の会社員。テレビ局勤務。赤ちょうちんと茶の湯と蕎麦が好物で夜はたまにクラブDJに変身。都会に疲れしばらく海辺ぐらしをしていたが、現在都内に仮住まい中。本コラムではTOKYOに浸かりつつ距離もとりつつ、愛と諦めを持ってTOKYOのヒト・モノを観察します。
Twitter/Instagram @kingmayummy
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