ネオンとオンナ

フルマラソン、メンタルの“特効薬”であると考えるその理由

文/写真:鈴木 麻友美 10.13.2016

人はアラサーにもなれば、人はみな時として自らの存在価値について不安を抱き、他者に構ってほしくなるものだと知る。そんな傾向をうっすら自覚していた筆者がなぜ、人様にフルマラソンを勧めるのか。大変な思いをしつつもフルマラソンにエントリーし続けている筆者による、メンタルヘルス&運動論。

己の弱さを自覚した頃に、フルマラソンの声

私は、気合い論者だった。心頭滅却すれば、仮性メンヘラは治ると思っていた。

27歳くらいの時、会社で隣の部の部長から「フルマラソンに出ないか」と誘われた。折しも時は皇居ランブーム全盛期、メディアで働く性分、流行りものは試さなきゃという軽い気持ちと、「昔足速かったしなんかたぶんイケるんじゃないか」という根拠のない自信により首を縦に振った。

思えばちょうどその頃、仮性メンヘラへのうっすらとした自覚とともに、先のみえない会社や自分の未来に対する不安も抱えていた時期でもあった。

先輩ランナーから、「練習で最低20キロ止まらず走れるようになっておけば大丈夫」と指導いただいていたのに、「めんどくさい」とか「私は本番に強い」とか理由をつけて練習をさぼり、10キロやっと走れるくらいの状態で大会を迎えた。

そして本番、案の定、現実に打ちのめされた。今まで抱えていた根拠のない自信たちもきれいに散った。

ペース配分なんて概念はなく、力いっぱい20キロ爆走しスタミナ切れ。発汗による塩分不足で足はつり、適当なフォームゆえ腰と足首に激痛が走る。25キロ地点でもう足が全然動かない。自分より30歳近く年上の人や、2倍ほど体重がありそうな人たちもがさっそうと自分を抜いていく。

でも棄権はできなかった。

その時の私は新卒で入った新聞社の5年目で、知人が立ち上げる新会社の設立メンバーの誘いを受けていた。大企業の下っぱからの、数名の会社。違う業界、未知の世界。頭で考えても、わからない。適応できるか後悔するかなんて、結局自分の根性次第だと思ったから、42キロ完走できたらその会社に行こうという自分への賭けをした。

だから棄権できなかった。

ラスト10キロは、激痛と低血糖により朦朧としていた。でも不思議なことに頭の片隅のある部分はものすごく冷静で、その冷静な部分が、肉体と肉体に支配されている(というより連結している)思考を観察していた。

「人は己の肉体から逃れられないんだ」という当たり前の事実と、「常に冷静な精神とか心みたいなものと、いわゆる『思考』ってちがうんだ」という発見。

同時に、「なぜ安請け合いしたんだ」とか「ちゃんと練習すればよかった」と自分の慢心全体への怒り。

どーせゴール後の青春キラキラ的な写真をSNS上で褒められたいだけだろうバカ!とか。あ、この怒りって、恋愛がうまくいかなくなった時に抱く感情といっしょだ。そうか、あれって自分への怒りだったのか。痛みから気をそらすためにもぐるぐる思考をめぐらせていたら、どうにかゴールしていた。

フィジカルな成功体験が効果的かもしれない

マラソンの練習は基本すごく地味である。ヨガやトライアスロンより人と共有しづらい。

ひとりで走ってる分にはインスタ映えだってしないしサボってもばれない。自分自身にも練習の成果は見えづらい。でもその地味な練習の積み重ねが、たまにある本番で確実な結果を生む。

仕事で成果を残すのも一見代替できそうな気がするけど、それともまた違う快感。

と、やたらマラソンマラソン言ってしまったけれど別に私はスポーツメーカーさんのまわしものじゃない。ただ、「フィジカル」がキーになるんだな、ということは確信したのだ。

そして、怒りや後悔ってのはだいたい自分に起因していて、気づいた時にぶちあたるのはその積み重ねの層だということも。

人は、仕事だったりスポーツだったり結婚生活だったり、いろんな局面でその事実に気づき、腹をくくって生きていく。芸事や部活などによって、幼くしてそれを受け入れる人もいるけれど、わたしの場合それに気づくのが遅かったし、たまたまマラソンだった。体育会系の人からしたら「何をいまさら」と言われるかもしれない。

だから僭越ながら、仮性メンヘラのみなさまにおすすめしたい。

成功体験って定期的にアップデートしておけば、わりといろんなことに応用できるエコなもの。

そういう資源がメンヘラの芽を摘むなら、走るくらい安いもんである。道具もいらないし。

「今日なんかやる気ないし、やめようかな」「週末走ればまあいいか」そんな自分を却下し走って、ご褒美にビールを与える。そんな手軽な、趣味とは別のメンヘラ防止策を生活の習慣に組み込んでおくといろいろラクになれるかもしれないということ。

毎回大変な思いをするのに、私は結局何度もフルマラソンにエントリーしている。

自分の立ち位置を定期的に確認したいのか、それともあの世界一おいしい、ゴールして一休みした後のビール目当てなのかわからない。でも酔うとわりとだいたい人様にフルマラソンや運動をすすめているので、これもまた恋みたいなものなのかもしれない。

鈴木 麻友美(すずき・まゆみ)

1983年、神奈川県生まれ東京都在住の会社員。テレビ局勤務。赤ちょうちんと鮨と蕎麦が好物で夜はたまにクラブDJに変身。都会に疲れしばらく海辺ぐらしをしていたが、現在都内に仮住まい中。本コラムではTOKYOに浸かりつつ距離もとりつつ、愛と諦めを持ってTOKYOのヒト・モノを観察します。
Twitter/Instagram @kingmayummy

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