ネオンとオンナ

あなたは幸せのために愛する人の青い鳥を撃てるか

文:鈴木 麻友美 10.25.2018

「こういうのが幸せだ」というブラックホールな思い込み

さきほど俗に言う「幸せ」って言葉を使ったけれど、幸せの呪い、要するに「こういうのが幸せだ」という思い込みは人それぞれで、それがメディアで解像度低めに言語化・イメージ化され共有されるうちに、思い込みの強度は増幅していく。

未だ出会ってない未来の結婚相手を幸せのシンボルと見立てて探すのはまだ夢があるけれど、不満はある今の彼氏でも結婚したら何かが変わり幸せが獲得できると思う人もいる。結婚しなくても幸せになれる時代だけど。

それで言うと、以前話題になった某女性誌のコピー『だって「幸せそう」って思われたい。』とかメンタルがマッチョ&ストロングでかっこいい。思い込みを逆手にとるのはある意味進化な気もする。

「幸せになりたい」に対しては「じゃああなたが思う幸せってなんですか」というより上の階層の命題がついてまわるけれど、「幸せそうって思われたい」は一種の呪いのようでありながら、人の感受性に委ねることで自らの答えの解像度をめちゃくちゃ下げているためKPIが明確だし、努力目標でいかようにもなりそうな気がする。

幸せの定義は多様化しているし、その多様化した幸せの定義を受け入れる土壌だって(コミュニティによって成熟度の違いこそあれ)あると思う。マスメディアだけが価値観を伝える時代でもない。SNSの浸透で多様性のよりどころが増えた分、誰もが有名になれる世界で解像度低めの「共通の憧れ」もできた。

そのぶん、まるでブラックホールのように人を捕らえて離さず、ひたすら「幸せであるためにはこうでなきゃならない」と駆り立てる固定観念も生じやすい。そんな固定観念のブラックホールは、いったんはまったコミュニティの中でさらにパワーも増す。逆に言えば、ブラックホールに打ち克てる、またはブラックホールを作れる者のみがSNS有名人になったり、自分をブランド化したりすればいい。

私は勉強と仕事以外では努力を一切したくないし、強くもない人間だ。なので「自分なりの幸せとは」を解体・再構築したら、言いかえると「気楽」と「ほどよい妥協」に今のところ着地している。結果、一般的には幸せそうには見られないであろう、遠距離結婚かつ子無しの生活でサラリーマン人生を満喫している。

幸せとはこうあるべき、という観念は、極めて曖昧で人それぞれなのだとあらためて思う。そして童話「青い鳥」で語られるように、自分の幸せはすでに自分の身近にあるものなのかもしれない。

“青い鳥”を探しに行ったっきりな人。
“青い鳥”の存在(気配)を身近に感じながら日常を生きる人。
これが“青い鳥”だよ、と青い鳥をつくり披露できる人。

幸せなんてよくわからないけれど、少なくともこの3つのうち自分はどのタイプなのか、あるいは自分がどの状態にあるのかを知ることが大切なんじゃないか。

夫婦だって、青い鳥との向き合い方はそれぞれだ。距離が近くなり時間も長く共有すると、私の鳥とあなたの鳥が同じものに見えてくる。でもたぶん世の中に同じ鳥は一羽たりとも存在しないし、幸せという大義名分のもと良かれと思って「今からこの作った青い鳥を我が家の鳥とする」と言って、パートナーの鳥を撃ち落とすことだって起きうる。

先日他界された樹木希林さんを例に出すのは非常に恐縮だけれど、樹木希林さんの達観した諦念のようなものの由来は、家族であり好きでいながら別居を続け完全なる別人格として生きる夫の存在もあったと思う。人は人、自分は自分、期待もしない、でも愛しぬくこと。

私は夫と結婚前の同棲時代、「同棲の幸せ」ブラックホールに落ち、相手の鳥の卵を落とすようなことをした記憶がある。相手の時間に干渉したり婚約とはこうあるべきと謎根拠の価値観を振りかざした。その頃の自分を思い出すと自己嫌悪オブザ人生になるので二度とやらまいと決意し、「人は人」「いつも心に樹木希林」とEVERNOTEのTODOリストに写経した。今の遠距離生活も悔い改めるための途上なのかもしれないと時々思う。

結局、同棲は破綻し尼になろうと思ったがなれるわけもなく(そもそもクリスチャンだった)、復縁し結婚した。でも結婚はよかったなぁと思う。夫の鳥と自分の鳥は違うけれど、比較的近いエリアで似た生態をしていることがわかったから。よくわからない場所にひとりやみくもに探しに必要がないのは心強い。

でも忘れないようにしよう。同居したり子どもを持ったとしても、人の鳥には干渉せず自分の青い鳥だけを守っていけますように、アーメン。

鈴木 麻友美(すずき・まゆみ)
1983年、神奈川県生まれ東京都在住の会社員。テレビ局勤務。赤ちょうちんと茶の湯と蕎麦が好物で夜はたまにクラブDJに変身。都会に疲れしばらく海辺ぐらしをしていたが、現在都内に仮住まい中。本コラムではTOKYOに浸かりつつ距離もとりつつ、愛と諦めを持ってTOKYOのヒト・モノを観察します。
Twitter/Instagram @kingmayummy
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家飲み酒とも日記