海外酒場事情

極東ロシアの先住民族ナナイの郷土料理はウオッカが合う

文:中村 正人 / 写真:佐藤 憲一 04.15.2019

シベリア東南部を約4000キロかけてオホーツク海に注ぐ大河アムール。冬季に氷結した川面も、4月になると、少しずつ溶け始める。この流域には多くの北方先住民族が暮らしている。彼らはアイヌの郷土料理ルイベ(冷凍保存したサケの刺身などを凍ったまま食べる料理)のように、凍らせた魚を生食してきた。今回は、極東ロシアの一風変わった魚料理とお酒の話をしよう。

アムール川のほとりにある極東ロシアの町、ハバロフスクから北東へ75キロ先に、シカチ・アリャンという名の小さな集落がある。そこに住むのは、ツングース系の先住民族ナナイの人々で、伝統的に漁業や毛皮産業に携わってきた。彼らはアムール川やその支流のウスリー川の両岸に住んでいたことから、中国側にも暮らして、中国ではホジェン族(赫哲族)と呼ばれている。

シャリシャリした魚の身が口の中で溶けていく食感

この村を訪ねたツーリストが案内されるのは、ナナイ人の生活文化を展示する小さな博物館である。そこには、ナナイ人の民族衣装やシャーマン文化の名残を示す装飾品などのスピリチュアルグッズが展示されている。

一族の家族写真が置かれている

この博物館を運営しているのは、地元出身のナナイ人であるクシナリョーワ・イリーナさんだ。館内では、まず彼女によるナナイ文化や歴史の説明があり、村人たちによる民謡を聞く。そのあと、戸外に出て、村の男性によるナナイの伝統料理「タラ」の調理の実演を観る。

博物館のクシナリョーワ・イリーナさんらによるシャーマンの儀式の実演

「タラ」とは、アムール川でとれ、冬場に冷凍保存されたコイなどの川魚を生食する料理で、これはアイヌのルイベとよく似ている。凍らせた白身魚をスライスして食べるロシア料理のひとつである「ストロガニーナ」の元祖は、極東ロシアの先住民族の伝統グルメなのだ。

口に入れるとシャリシャリしていて、生魚の身が口の中で溶けていく食感は日本人にとっても懐かしい味といえる。塩コショウと臭い消しのハーブで味つけされているので、生臭さはない。そして、これが冷やしたウオッカのつまみに最高だ。

凍ったコイをいったん水で溶かし、切り身にする
食べやすいように細かく切れ目を入れる
コイの表皮を炭火であぶり、塩やコショウをまぶして味つけする
細かく切って、タマネギなどと合えていただく

昼食には、この「タラ」をメインに、同じコイを揚げたカツレツ風やサラダ、スープなどが出てきて、どれも日本人の口に合う。アルコール以外のドリンクも豊富で、地場の新鮮なベリージュースやシベリア名物の「ベリョードヌイ・ソーク」と呼ばれるジュースも出る。これは白樺の樹液を原料とする伝統的な飲み物で、ほの甘くさわやかな飲み心地があり、ミネラルが豊富な健康飲料である。

切り身を揚げてカツレツ風にしたものを「シャラバン」と呼ぶ

これらの伝統料理の一つひとつの説明を聞きながら、ウオッカと一緒に食事をいただいたあとは、ナナイ人の伝統的な弓や砲丸投げ、鬼ごっこなどを体験することになるというのが、この先住民族カルチャープログラムの概要だ。

博物館の隣にある調理場で家族が昼食の準備をしてくれる
タイガの森でとれたキノコのサラダ。ハーブのディルをまぶすとロシア風の味になる
博物館の外にナナイ人の伝統住居が展示されている
家飲み酒とも日記