海外酒場事情

「日本にいちばん近いヨーロッパ」 ウラジオストクのバー事情

文:中村 正人/写真:佐藤 憲一  06.27.2018

極東ロシアの港町ウラジオストク。札幌と同じ緯度、成田国際空港からのフライトはわずか2時間半、「日本にいちばん近いヨーロッパ」といわれるこの街が今後、日本人観光客の間で話題を集めそう。19世紀につくられたヨーロッパの街並みの一角にあるお酒を楽しめるナイトスポットを紹介する。

サッカーW杯ロシア大会が始まり、初夏を迎えたロシア各地の様子やサポーターを含めた現地の人々の映像を目にする毎日だが、ロシアとはどんな国なのだろう。プーチン大統領に代表される強面のイメージが強いが、ロシア人の酒好きは有名な話。彼らはどんなお酒の飲み方をしているのだろう。

フライトはわずか2時間半、「日本にいちばん近いヨーロッパ」

ところで、モスクワから9000キロ以上離れた極東ロシアの港町ウラジオストクを訪れる日本人が最近、ひそかに増えていることをご存じだろうか。

その名は聞いたことはあっても、ピンと来ない人も多いかもしれない。残念ながら、W杯の試合会場にはなっていないが、日本海を挟んだ対岸に位置し、札幌と同緯度、成田からのフライト時間わずか2時間半であることから、ウラジオストクは「日本にいちばん近いヨーロッパ」といわれる。

ウラジオストクのいちばんのビューポイントである鷲の巣展望台からの港と金角湾大橋の眺め

いまなぜウラジオストクが注目されているのか? 2017年8月から電子簡易ビザの発給が始まり、渡航手続きが簡単になったからだ。以前のように、ロシア大使館でビザを取得するために並ぶ必要がなくなり、ネット申請をすませれば、自分で航空券やホテルを予約するだけで行ける。近隣アジアの国と変わらないお手軽さから、この夏以降の海外旅行トレンドを先取りする有力候補となっているのだ。

国際クルーズ客船も寄航するフェリーターミナルから見たウラジオストク港と金角湾大橋

なにしろ近いので、ソウルや台北を旅するような気楽さで週末旅行を楽しめるのが、ウラジオストクの最大の魅力。とはいえ、そこはアジアの街ではない。19世紀につくられた正真正銘のヨーロッパの街並みがあるのだ。

タイガ(針葉樹林)でとれたハチミツとレモンを加えた名物

では、ウラジオストクで何が楽しめるのか。いろいろ挙げられるが、ナイトライフの充実はこの街の売りのひとつだ。港町のせいか、たくさんのバーやクラブがある。ロシアでは夜10時以降は店でアルコールが買えないが、バーに行けば日付が変わってもゆっくり飲める。バーが集中しているのは、夏に海水浴客でにぎわう街外れのビーチに近いポグラニーチナヤ通り。ワインやビール、カクテルなど何でもあるが、店によってそれぞれ酒の趣向が微妙に違っている。

カクテルバー「ムーンシャイン」がにぎわい始めるのは夜10時を過ぎた頃から

これもあまり知られていないが、ウラジオストクにはロシアオペラの殿堂、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場沿海地方ステージがあり、男女含めて7人の日本人劇団員が所属し、舞台で日々活躍している。同劇団のバレリーナのひとり、則竹江里子さんのおすすめの店がカクテルバー「ムーンシャイン」だ。

ロシアのウォッカといえばサンクトペテルブルク産の「ルースキー・スタンダルト」(左)。「マトリョーシカ」(右)にはスタンダード、クランベリー、ハチミツの3つの風味の異なるタイプあり

店内はモダンなレンガ造りの内装で、地元の若者客の姿にまじって、則竹さんのような外国人バレエダンサーがお忍びで現れることもよくあるという。
ロシアといえばウォッカが有名だが、バーテンの背後の棚にはワインやラム、ウィスキー、シェリーなどさまざまなボトルが並ぶ。この店では各種カクテルが人気で、なかでも「ペニシリン」は、ウイスキーベースにシベリアのタイガ(針葉樹林)でとれたハチミツとレモンを加えたウラジオストク名物だ。

「ムーンシャイン」のカクテル。左からビターブラック、ミントジュレップ、スミノフコリンズ

料理のメニューは、中央アジア産のナッツやオリーブ、イタリア風おつまみのブルスケッタ、フィッシュ・アンド・チップスなどだが、素材は地元ロシア産を使った地産地消の店でもある。店ではあえてBGMを流さないため、耳に届くのはおしゃべり声だけ。何時間いてもくつろげる。