海外酒場事情

アムール川のほとりで味わうアジア料理と「スーパードライ」

文:中村 正人/写真:佐藤 憲一 09.04.2018

極東ロシアの町ハバロフスクで不思議なレストランを訪ねてみたので、今回はその話をしよう。店の名は「А В Р О Р А и Л И С(オーロラときつね)」。店の扉を開けると、奇抜な内装にまず驚かされれる。そして席についてメニューを見ると、「わび」「さび」といった文字のほかに日本製ビールの名前が並んでいる。いったい誰がなぜこんなレストランをつくり、なぜ日本製ビールが人気なのだろうか?

初めて行くことになった海外の町について、旅行サイトの「トリップアドバイザー」で調べていると、「いったいこれはどんな店なのだろう」と思ったり、インスタグラムの写真を見て興味をそそられたりすることがよくある。そして実際に、極東ロシアの町ハバロフスクで不思議なレストランを訪ねてみたので、その話をしよう。

メニューの表紙に「わび」「さび」の文字、そして「asahi super dry」も

その店はアムール川のほとりのムラヴィヨフ・アムールスキー通りから少し脇道に入った先にある。店の名は「А В Р О Р А и Л И С(オーロラときつね)」という。

ハバロフスクのアジアレストラン「オーロラときつね」の外観

店の扉を開けると、奇抜な内装に驚かされた。床に置かれたくぼみのある巨大な白い石と、その背後の壁にはひょうたんのような木彫りのオブジェが並んでいる。天井は、極東ロシアの湖水に咲く蓮の大きな葉で覆われた幻想的な装飾が施されていて、蜂の巣のような蓮の花托をデザイン化した照明が吊り下げられている。

レストランのレセプションに突如現れる現代アートのインスタレーションのような内装

メニューをみると、なぜか表紙に日本語で「わび」「さび」と書かれている。あるいは「宇宙の美学」という漢字もある。地元在住の日本語ガイドのエレーナさんによると、タイや韓国、日本料理を出すアジアレストランらしい。極東ロシアの町ではジョージア(旧グルジア)料理のような中央アジアのレストランが多いことを前回書いたが、最近は東アジアの料理を出すレストランも増えていると彼女はいう。

意外だったのは、ドリンクメニューのビールの欄に生とびんのアサヒスーパードライがあったことだ。

メニューのビール欄をみると、4つのうち3つがアサヒビール。ハバロフスクには“アサヒ押し”の店はけっこうあるという

頭をよぎった3つの疑問

いったいこれはどういうことだろう。3つの疑問が頭をよぎる。すなわち、

「なぜこの町にアジア料理のレストランが増えているのか?」
「斬新すぎる店の内装デザインは誰の手によるものなのか? 何を伝えようとしているのだろう?」
「メニューにスーパードライがあるのはなぜ?」

外務省が日露の経済交流促進のためにロシア国内6都市に設置している機関のひとつ「ハバロフスク日本センター」の北村彩乃さんにそれらの疑問をぶつけたところ、次のように話してくれた。

「ハバロフスクをはじめ極東ロシアの人たちは、バケーションでタイやベトナムに行くことが多いんです。旅行先でアジア料理に触れる機会が増えたので、ハバロフスクでもアジア料理を出す店が増えてきているように感じます」

一般にロシア人の海外旅行先は中近東方面のビーチリゾートが定番だったが、アラブ世界で反政府デモが相次いで起こった2010〜12年ごろの「アラブの春」以降、治安が悪化したことなどの理由から、タイやベトナムなど東アジア方面に移ったといわれる。ただし、極東ロシアでは中近東は遠いので、海外旅行先といえばもともと東アジア方面だった。彼らは2週間くらいかけてアジアのビーチでのんびり滞在する。極東ロシアの人たちと親しくなると、家族で行ったタイ旅行の写真をスマホで見せてくれることが多い。

地元でも話題のレストランで、家族連れやカップルなどが来店していた

では、この店のデザインのひみつは?

「レストランの2階にRIM studioというデザイン会社の事務所とショールームがあります。この店の内装を手がけたのが彼らで、デザイナーはゴルコヴェンコ ・グリゴリー・アレクセイヴィッチさんといいます。ハバロフスク出身で、両親や兄ふたりとも全員建築家という家庭に育った人です。オーナーと知り合いで、最初は自宅のアパートのデザインを頼まれたところ、とても気に入ってもらったことから、レストランのデザインをまかされることになったそうです」

RIM studio社のウェブサイトには、彼の手がけた事務所やマンションなどのデザイン例がいくつも紹介されていて興味深い。

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