海外酒場事情

サハリンで「食の宝庫」ジョージアのワインとスパイシーな料理を味わう

文:中村 正人/写真:佐藤 憲一 12.11.2018

「食に恵まれて温暖で、おいしいものの宝庫」、世界最古のワインも

ところで、なぜユーラシア大陸の西の果てのジョージア料理が、まさに東の果てにあるサハリンで食べられるのか。ロシア人がジョージア料理を食べるようになったのは旧ソ連時代からだという。サハリンにも当時から送り込まれた中央アジア系移民が多く住んでおり、市内にいくつもの中央アジア料理店がある。

これはロシア全土でいえることなのだが、寒冷な北の国に住むロシア人からすると、ジョージアなどコーカサスの国々は、イギリスや北欧からみた南欧のように、食に恵まれた温暖な土地で、おいしいものの宝庫と考えられてきた。ロシア料理にはないスパイシーな刺激も彼らを魅了した。家族や友人と外食を楽しもうというとき、選択肢の筆頭に上がってくるのがジョージア料理店だったりするのだ。

ワインリストにはアルコール度数や何年産かが書かれている

ワインのセレクトも同様である。クリームソースを多用するマイルドなロシア料理にはない、ジョージア料理の刺激的な味が、黒海に面したジョージア産のセミスイートなワインによく合う。

この店のワインリストにも、たくさんのジョージアワインの銘柄が並んでいる。

特徴は、オーク樽やクヴェヴリという甕で熟成する紀元前6000年から伝わる醸造法にある。世界最古のワインの地として知られ、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されている。

有名なものとしてはドライ系で香りの強い「ムクザニ」。スターリンが愛飲し、英国のチャーチル首相も絶賛した、さわやかなスイートワイン「キンズマラウリ」も広く知られている。白ではドライ系の「ツィナンダリ」だろうか。スパークリングワインやデザートワインも各種あって、ロシア人はことのほか食前に飲む甘いシャンパンがお好みのようだ。


ジョージア料理にはジョージアワインがよく合う。「ムクザニ」のグラス1杯420ルーブル

ジョージアの赤ブドウの主な品種は「サペラヴィ」といい、銘柄によって濃淡はあるものの、ワイルドベリーやタバコ、チョコレートなどの香りが含まれ、酸性も強いという。ムクザニやキンズマラウリはサペラヴィから生産されている。

サハリンのスーパーで売られるジョージアワイン。値段も1本500円くらいから高級品まで幅広い

現在、ロシアではフランスやイタリア、スペイン、南アフリカ、チリ、オーストラリアなど世界各地のワインのほとんどが輸入されているが、この国の人たちにとって長い間ワインといえばジョージアやオセチア、モルドバなどコーカサス産のものだった。

地図をみればわかるように、北海道のすぐ北に位置する(宗谷岬からの最短距離はわずか43キロ)サハリンは、かつて樺太と呼ばれ、南半分には日本人が暮らしていた土地なのだが、いまでは日本人がほとんど知らない、魅力的な食とお酒の世界が待っているのだ。

中村正人(なかむら・まさと)
エディター、ボーダーツーリスト
「地球の歩き方」のロシア極東、中国方面を担当。とりわけ国境地帯の動向に詳しい。ウエブサイト「ボーダーツーリズム|国境観光を楽しもう」を運営。国内ではインバウンドツーリズムの取材を続けており、ブログ「ニッポンのインバウンド『参与観察』日誌」を主宰。著書に「『ポスト爆買い』時代のインバウンド戦略」(2017扶桑社)。2018年4月に2泊3日で楽しむ旅行ガイド「Platウラジオストク」(ダイヤモンドビッグ社)を上梓した。
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