ロジックよりマジック

AIに負けんぞ、人間すごいぞ。

文:関橋 英作 03.06.2019

気づくことでこれまでにない変化が起きる

青砥さんの記事などを読んでいて、なぜか17世紀の哲学者スピノザと繋がってしまいました。これも、脳の刺激と反応のなせる業。

哲学者・國分功一郎さんがわかりやすく解説してくれている「エチカ」で語られていることです。その共通点とは、「気づくことによって、これまでの考え方に変化が起き、自分自身が大きく変わる」ということです。

スピノザの語っていることは、「あえて問うが、前もって物を認識していないなら自分がその物を認識していることを誰が知りえようか。すなわち前もって物について確実でないなら自分がその物について確実であることを誰が知りえようか。」と。(NHKテキスト・100分de名著 スピノザ『エチカ』より)

難解なので國分さんの解説。「何ごとかを認識することは、その何ごとかだけではなく、自らの認識する力を認識することでもあるのです。何かを知ることで、私たちは自分のことをよりよく知ると言ってもよいでしょう。」と。

つまり、気づくことで、いままで疑いもしなかったことに対する理解を変え、自分自身にも変化が起きるということです。

日頃から、気づきが大事だとよく耳にしますが、無意識をいかに意識化させるかという科学的なアプローチでも、いかに生きるかを探求する哲学的なアプローチでも同じことに行きついたのです。

つまり、いろんな刺激を浴び続ければ、人間は気づき変化し、人生が豊かになると言っているのですね。それこそ、私の信じるクリエイティブのやり方です。

苦手だろうが面倒くさそうだろうが、いろんなジャンルの本を手当たり次第に読む。わかる、わからないは無関係。物理学者と人類学者の文体は違うし、小説家の情緒とも違う。文章そのものを追っているだけで、未知の世界のおもしろさに気づくのです。ここで、階段を一歩あがります。

で、手当たり次第読書法と名付けました。まさに袖振り合うも他生の縁ですね。

手当たり次第に本を読む。著者所有の書籍の一部です

人についても同じです。知らない人、嫌いな人とも話すと、意外なことに気づき、ときに仲良くなったりしました。社会学者の宮台真司さんがおっしゃっていましたが、現代人は目を合わせなくなった。「本来、人間は目を合わせることで、フィジカルな関係性が生まれ享楽を感じることができる」と。私はいまでも人の目を見てしまうので、避けられることもありますが、相手のことを理解する助けになったのは間違いありません。

それで、人生の大きな喜びは、できるだけたくさんの人と会うことだ、と気づいたわけです。知らないことを知らないままにするのは、もったいないですからね。

しかし、この気づくという認識を阻害していることが世の中に氾濫しているのも事実です。いわゆる、既成概念、固定観念、常識、通説、風聞など。それらが、スマホという強力な武器を得て勢いを増大。自分でも、うっかりしているとネット上のニュースなどを疑いもなく受け入れてしまうことがあります。

SNS時代は、本当に怖い。これでは、自ら気づきを遠ざけているのと同じです。自戒を込めて、慎重にならなければなりませんね。

五感いや六感をフル回転

ではどうすれば、クリエイティブな状態を維持し、気づくという階段を登れるか。その一つの答えが、フィンランドの幼稚園の教育。

とにかく遊ぶ。フィンランドには、「喜びもなく学んだことは、すぐに忘れてしまう」という諺があるくらいですから、一生懸命に遊んでいるから喜びを感じるのでしょう。大学生になったときの成績は世界でトップクラスですから、遊ぶことの効果が証明されています。

これは、身体を通して「気づく」という行為。虫や植物と戯れ、風の音を聞く。森に行けば、生物としていちばん大事な、五感いや六感がフル稼働する。そのとき、身体は人間の情緒を運んでくる。気持ちいい、面白い、何だこれ!の感動。それこそ、身体と脳とのドッキングです。やっぱり、人間すごいぜ。

私も7年前に大怪我をして足の痛みと共に暮らしていますが、身体の能力に気づきました。痛みと共生する方法、違う動き方を考えること。そうやってみると、もうひとつの人間性が見えてきたような気がします。怪我も身のうち、そんな心境になれました。

やはり、人間は「考えることをする」妙な生物です。それをやめてしまったら、それこそ、AI社会では無用階級になってしまうかもしれません。

「問い」「考える」「つくる」そして「楽しくなる」。人間を人間たらしめていることです。クリエイティブに生きることなのです。

それこそ、人間すごいぞ、と思えるただひとつのことかもしれません。

さあ、森へ行こう。見知らぬ人と話を始めよう。

関橋英作(せきはし・えいさく)

1949年青森県八戸市生まれ。外資系広告代理店J・ウォルター・トンプソン・ジャパン(現JWT)に入社し、コピーライターから副社長までを歴任。

その間、ハーゲンダッツ・アイスクリーム、英会話スクールNOVA、デビアス・ダイヤモンド、ネスレ・キットカットなど多くのブランドを育て、広告賞も多数受賞(ニューヨークADC賞、ACC賞、ギャラクシー賞、NYフィルムフェスティバル賞、クリオ賞など)。

特にキットカットでは、いまや受験生のお守りになったキャンペーンを展開。クリエイティブ部門の責任者として、AME賞(アジア・マーケティング・イフェクティブ賞)グランプリを2年連続受賞するなど大成功を収めた。2009年のカンヌ国際広告祭では、日本初となるメディア部門グランプリを、投函できるキットカット「キットメール」キャンペーンで受賞。

現在、クリエイティブ・コンサルタント。ブランディングをする会社MUSB(ムスブ)の代表取締役&クリエイティブ戦略家として、主として企業のブランディング、広告戦略・制作、マーケティングを行う。

そのほかに、東北芸術工科大学企画構想学科教授、木の暮らしと文化を伝える・一般社団法人木暮人倶楽部理事、八戸市任命の八戸大使。企業研修、各種セミナー、講演、執筆などを行っている。

著書に『ある日、ボスがガイジンになったら!? 英語を習うよりコミュニケーションを学べ』(阪急コミュニケーションズ)、『チームキットカットの、きっと勝つマーケティング』(ダイヤモンド社)、『ブランド再生工場―間違いだらけのブランディングを正す―』(角川SSC新書)。『マーケティングはつまらない?』(日経BP社)など。

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