ロジックよりマジック

「人間の五感」VS.「植物の二十感」、どっちがクリエイティブ?

文:関橋 英作 05.16.2019

明治神宮の森

「動かない生活スタイル」だからこその共生関係

植物の五感を知っただけでも、人間の五感よりはるかに戦略的。生き延びるために、クリエイティブを存分に発揮しています。

その他にも、生きるために不可欠な水源を察知する湿度計、重力や磁場を感知する能力、種の多様性を保つために親族を見分ける能力。テリトリーを確保するための細菌との共生能力などなど15感。

これらの圧倒的な感覚群は、すべて生き延びるための能力。それを動かない生活スタイルだからこそ実践できているのです。何度も言いますが、重要なのが植物独自のコミュニケーション、そして他の生き物との共生関係。

受粉するために蜂や虫を呼び集める。広域に繁栄するために、動物に実を食べさせ違う場所で糞としてばらまく。人間も例外ではありません。作物を世界中に広げるために、人間の欲望を利用したのです。おいしい、きれい、たくさん収穫できる。まんまと植物の仕掛けに乗せられてしまいました。

香辛料などを求めた大航海時代は、植物が取った作戦だったのかもしれませんね。

もう、植物的という間違った言葉使いはやめるしかありません。寝たきり、行動力がない、エネルギッシュじゃないとは、とんでもない勘違いでした。

それどころか、植物的ということはクリエイティブで戦略的で利他的。自分だけが良いでは、生物は滅びる。山川草木、森羅万象生きとし生けるものはすべて繋がっている。人類が転換すべきサステナブルな生き方を、植物が教えてくれているのです。

「素敵な支配者」たちに学ぶべきもの

近代以前の人間社会には、植物とつながっていた痕跡がたくさん見られます。私の好きな能にも、植物を主役にした演目があります。「杜若」、「女郎花(おみなへし)」、「芭蕉」、「西行桜」、「東北」、「藤」、「遊行柳」など。通りすがりの僧侶に植物の精が現れ、世の道理などを語るというもの。

また、日本はもちろん世界各地には、森を聖域とみなす考え方がありました。森の精霊や植物の精に関する神話や民話、祭り。それらが、いまなお残っています。

「ニソの杜」(福井県大島半島)。森を聖地としており、森の中で集団祭祀をする
石川県・能登半島にある気多大社の「入らずの森」

ほんとうに植物とのつながりが深い人間社会。そこには、植物への敬意と学びがあります。しかしいま、そのことが忘れられているようにしか思えません。科学的であること、経済的であることが優先され、それが地球環境や人間社会に負の側面を与えています。多くの人が気づいていますが、解決策を見つけられないでいる。いまこそ、植物の知性に戻るときが来ているのかもしれません。

植物のようなスマートな循環型社会。誰とでも優しくつながることのできるネットワーク社会。里山資本主義。何も難しいことはありません。ひとり一人ができることはある。木を植える、自然の力を生かした循環型農業、光合成や腐葉土をヒントにした自然エネルギー。すべて、植物のもつクリエイティブを学び、実践する。毎日、そうしていれば、失った五感は復活する。さらには、五感の奥の五感を引き出すこともできるかもしれません。

知性あふれる植物。こんな素敵な支配者なら、誰でも喜んでついていきたいですね。

【植物に関するおすすめの本】
『植物は<知性>をもっている  20の感覚で思考する生命システム』(ステファノ・マンクーゾ/アレッサンドラ・ヴィオラ著、久保耕司訳、NHK出版)
『植物は〈未来〉を知っている  9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』(ステファノ・マンクーゾ著、久保耕司訳、NHK出版)
『土と内臓 微生物がつくる世界』(デイビッド・モントゴメリー/アン・ビクレー著、片岡夏実訳、築地書館)
『植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし』(稲垣栄洋著、筑摩書房)
『おいでよ 森へ──空と水と大地をめぐる命の話』(「おいでよ 森へ」プロジェクト編、ダイヤモンド社)
『樹木たちの知られざる生活: 森林管理官が聴いた森の声』(ペーター・ヴォールレーベン著、長谷川圭訳、早川書房)
『ドングリと文明 偉大な木が創った1万5000年の人類史』(ウィリアム・ブライアント・ローガン著、山下篤子訳、岸由二解説、日経BP社)
『植物になって人間をながめてみると』(緑ゆうこ著、紀伊國屋書店)

関橋英作(せきはし・えいさく)

1949年青森県八戸市生まれ。外資系広告代理店J・ウォルター・トンプソン・ジャパン(現JWT)に入社し、コピーライターから副社長までを歴任。

その間、ハーゲンダッツ・アイスクリーム、英会話スクールNOVA、デビアス・ダイヤモンド、ネスレ・キットカットなど多くのブランドを育て、広告賞も多数受賞(ニューヨークADC賞、ACC賞、ギャラクシー賞、NYフィルムフェスティバル賞、クリオ賞など)。

特にキットカットでは、いまや受験生のお守りになったキャンペーンを展開。クリエイティブ部門の責任者として、AME賞(アジア・マーケティング・イフェクティブ賞)グランプリを2年連続受賞するなど大成功を収めた。2009年のカンヌ国際広告祭では、日本初となるメディア部門グランプリを、投函できるキットカット「キットメール」キャンペーンで受賞。

現在、クリエイティブ・コンサルタント。ブランディングをする会社MUSB(ムスブ)の代表取締役&クリエイティブ戦略家として、主として企業のブランディング、広告戦略・制作、マーケティングを行う。

そのほかに、東北芸術工科大学企画構想学科教授、木の暮らしと文化を伝える・一般社団法人木暮人倶楽部理事、八戸市任命の八戸大使。企業研修、各種セミナー、講演、執筆などを行っている。

著書に『ある日、ボスがガイジンになったら!? 英語を習うよりコミュニケーションを学べ』(阪急コミュニケーションズ)、『チームキットカットの、きっと勝つマーケティング』(ダイヤモンド社)、『ブランド再生工場―間違いだらけのブランディングを正す―』(角川SSC新書)。『マーケティングはつまらない?』(日経BP社)など。

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