生きるチカラの強い女性へ

処方箋20 言葉のお守りをあなたに

文:ひきた よしあき / 写真:カンパネラ編集部 01.22.2019

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第20回は、2月1~3日上演の朗読劇「今日、ここのへに咲く。」の脚本・演出を自ら手がける鈴城千尋さんです。

「最近、野菜食べてないんです」

インタビュー終了後のランチの席で、鈴城千尋さんは、こうつぶやいた。

自らが脚本、演出を手がける朗読劇「今日、ここのへに咲く。」の開演まで、あと10日ほど。脚本の手直し、芝居の段取り、美術・音楽手配、集客、広報、クラウドファンディング……落ち着いて食事もできない日が続いている。

高校の朗読劇で“幕末のジャンヌ・ダルク”の脚本を書く

「6年前も上演まで時間がありませんでした。でも、チャンスの女神には前髪しかありません。無茶を承知で、やるしかないんです」

6年前、脚本家・鈴城千尋さんは、会津管内にいた。高校で国語を教えていた。初の朗読劇をこの学校の生徒に向けてつくったのだ。

「たった二人しか国語科の先生がいないんです。激務でした。でも、どうしても子どもたちにこの人のことを知ってもらいたかった。こんなすごい女性がこの地で生まれ、新しい世界をつくっていったということを」

その女性は、新島八重。

戊辰戦争の折、会津・鶴ヶ城から新政府軍に7連発のスペンサー銃を向けた幕末のジャンヌ・ダルク。新島襄とともに京都に同志社大学を創設した女子教育の祖。

NHK大河ドラマ「八重の桜」でご存じの方も多いだろう。

「学校でやることですから限界があります。キャストに女性を呼べなかったんです。でも、そのおかげで新島襄と川崎尚之助という二人の夫の手紙から、新島八重を浮かび上がらせることができました。襄の言葉で、八重は光を与えられた。飛ぶことができた。八重にとって、襄の言葉は『言葉のお守り』のようなものだったと思います」


脚本を読むと、実際には存在しない新島襄の手紙を、鈴城さんが書いている。この創作によって襄と八重の「愛のかたち」をこれまでとは違った角度から描き出している。彼女が小学校の頃から「源氏物語」に耽溺し、いつかは大河小説を書きたいと思っていた片鱗が伺える。

「福島と京都の高校生・大学生を可能な限り招待したい」

高校教師を3年で終え、東京に戻ってきた鈴城さんは、本格的に文筆家としての活動を始める。小説を2本、脚本を3本、短歌を5本、と書き進むうちに、会津若松の「白虎隊」を描いた劇に出演した仲間と意気投合。再び、新島八重の物語を紡ぎ始めた。

「八重の物語をもっと多くの学生に知ってほしい。資金的には苦しいけれど、新島八重を育んだ福島と京都の高校生・大学生の方を可能な限り招待します。平成という時代が終わろうとしている今、価値観の揺らぐ東京は、襄や八重の生きた幕末と似ているように思えます。その空気を若い人に感じてほしいです」

こう語る鈴城千尋さんの大きな瞳を見ながら私は、彼女の言葉を反芻していた。

「言葉のお守り」

自分を強くし、自分を守り、自分を前へと歩ませた新島襄と八重の「言葉のお守り」を若い世代に手渡したい。

そう願う鈴城千尋さんは、脚本家であり、演出家であり、そしてどこまでも教師であった。

朗読劇は2月1〜3日に全10ステージ行われる。
・詳しくはこちら:https://kyoukokonoenisaku.weebly.com
・「多領域コラボ朗読劇の資金調達と縁ある地域の学生さん招待企画!」はこちら:https://readyfor.jp/projects/kyoukokonoenisaku
ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。
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