生きるチカラの強い女性へ

処方箋21 伝わるのは1行

文:ひきた よしあき / 写真:カンパネラ編集部 02.19.2019

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第21回は、わずか「1行」の言葉にチカラを与える方法を一冊の本にまとめたコピーライターの田口まこさんです。

「伝わるのは1行。」

コピーライターの田口まこさんは、言い切る。

「1行って、『ひとこと』だと思うんです。初対面の人が、初めて交わすひとこと。プレゼン冒頭のつかみのひとこと。別れ際の、最後のひとこと。それをどう効果的に、印象的に残すか。これが大切なんです」

「1行」をどう描くかで悩む女性たちに向けて

バブル前夜の1980年代半ば。京都から上京した田口さんが入社したのは、広告制作専門会社のライトパブリシティ。綺羅星のごとき著名なコピーライターが名を連ねていた。縁あって、その一角に入るもなかなか仕事がこない。

その状況が一転したのは、1990年、コピーライターの登竜門である「東京コピーライターズクラブ」の新人賞を獲得した頃だった。

「雇用機会均等法が施行されて、4年制大卒の女性が社会に出てきました。でも、まだまだ制度が不備な時代。1年『育児休暇』をとる人などあまりいませんでした。私も子どもを産んで、3カ月で現場に戻ってきました」

以来、田口まこさんは、化粧品の活動を中心に活動を続ける。「キャリアウーマン」という言葉がもてはやされた頃から、現在の「出世よりもフワッと生きたい」「憧れは、専業主婦」という時代まで、ずっと女性を見つめ、女性を元気にするコピーを書き続けてきた。

「今は、本当に色々な女性がいます。離婚して実家に戻って起業した友だちがいます。私くらいの年齢になると、企業でもかなりのポジションに就いている人もいる。彼女たちは日々、企画書と格闘している。何よりも多いのが、SNSを通じて日々の思いを発信しようとする女性たちですね。眺めていると、みんな言葉と格闘している。それも長い文章ではなく、インスタグラムに書き込み、企画書のタイトル、チラシやHPのキャッチと肝になる『1行』をどう書くかで悩んでいたんです」

田口さんは、こうした女性たちに向けて、自分がおよそ30年の月日の中で育んできた「1行」にチカラを与える方法を伝授したいと考えた。自分の集大成を一冊にまとめようとした。

それが昨年12月に発刊された「伝わるのは1行。」(かんき出版)だ。

助詞抜き言葉など誰にでもできるテクニックを紹介

「プロに向けたテクニックではありません。例えば、『海がきれい!』と書くよりも、『海、きれい!」と助詞を抜いた方が言葉がいきいきとしてくる。

私は京都生まれなので、昔から『きれい、きれい」、『「寒い、寒い』と言葉を繰り替えしていました。関西でも京都だけなんですね。この『繰り返し』技を使って、

『風が、強い強い日でした』

と書くと、実感をともないます。誰にでもできるテクニックをまとめました」

反響は、大きかった。「1行」に悩んでいた多くの女性、否、男性も、この本に手を伸ばした。

「私も、そろそろ老後を考える世代になりました。友だちと話すと未来への不安ばかりです。人生が長くなり、介護にリフォームとお金のかかることばかりですからね。そんな人たちに向けても、『1行のチカラ』がうまく伝わっていけばいいな、と思っています」

田口まこさんのインタビューは、非常にまとめやすかった。言いよどむところがなく、まさに1行、1行、ひとこと、ひとことが粒だっていた。

伝わるの1行。

多くの人に心がけていただきたい今の時代の名コピーである。



ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。
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