生きるチカラの強い女性へ

処方箋22 片付けが、人生の彩りを変える

文:ひきた よしあき / 写真:カンパネラ編集部 03.20.2019

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第22回は、ただ効率的に整理整頓するのではなく、「片付けが、人生の彩りを変えていく」と考える暮らしの彩りアドバイザー、さかもとりえさんです。

暮らしの彩りアドバイザー さかもとりえさんの人生は、けっして平坦なものではなかった。

京都に育ち、京都で学び、京都で就職。このまま京都で暮らすものと思っていたら、結婚相手が東京の人。右も左もわからない。知り合いも友だちもいない東京に出てきて、2人の子どもを出産。

新宿の自称「狭小住宅」で、なんとか4人家族と義理の両親と暮らしていたところで、京都の実母が、乳がんと肺がんを患った。幼稚園の子を抱えて、京都と東京の往復がはじまる。しかし、母はだんだんと心を病み、

「どうやったら死ねるか」

とばかり言う。

夫と相談し、母を東京に引き取ることにした。

来るのは母ばかりではない。母の荷物もくる。元より狭い部屋は足の踏み場がなくなった。東西の価値観の違う家族との板挟み。主婦として、嫁として、子どもとして、女の試練が一挙に押し寄せてきた。

モノによって過去が整理され、モノによって未来が見えてくる

そんな中で手にしたのが、米TIME誌で「世界に最も影響力のある100人」に選ばれた片付けのプロ近藤麻理恵さんの著書だった。

「片付けで人生が変わる。すがる思いで、これに飛びつきました。とことん読んで、書かれていることを忠実やりました。数カ月かけて、片付けが終わると、自分の気持ちが劇的に変わっていたのです」

近藤麻理恵さん(=こんまりさん)のメソッドは、右から左にただ捨てるのではなく、モノを手に持ち、抱きしめて、そこに「ときめき」があるか否かを確かめていくもの。「ときめき」がなければ「ありがとう」とモノにいって処分していく。

「モノを通して気づくことがたくさんありました。母が買ってくれた着物に触っていたときのこと。母とは仲がいいゆえに、窮屈な面もありました。『そうか、私が東京にでてきたのは、母から少し自由になりたかった一面があったんだな』と気づく。さらには、その着物から母がどれだけ自分を愛してくれていたのかが見えるようになったのです」

ひとつひとつのモノを通して気づくことの連続。モノを手にとり向き合うことで、様々な判断基準が生まれる。モノによって過去が整理され、モノによって未来が見えてくる感覚をさかもとさんはひしと感じた。

「そぎ落としてモノトーンばかりでは楽しくないですよね」

やがて、近藤麻理恵さんに直接師事を受ける。「ときめき片づけコンサルタントとインストラクター」の一期生として、活躍するようになった。

「モノをもって『ときめく』と言われてもなかなか実感がわかないこともあります。私は、『ときめき』だけでなく、その人の環境、価値観、モノの用途に合わせて『必要・不必要』で整理してもいいと思っています。捨てるものを選ぶのではなく、残したいものを残す。そこに様々な価値観があるのは当然のこと。私は、お一人おひとりに判断基準ができればいいと考えています。大切なのは、片付け終わった後に、人生をどう生きるか。その維持のための基準ができることなのですから」

最後に「なぜ、『彩り』アドバイザーなのですか」と尋ねた。

「いくら片付けをしても、すべてをそぎ落としてグレーやモノトーンばかりでは楽しくないですよね。私は、色が好き。キッチンが大好きなオレンジに彩られていたらやる気がでます。片付いた部屋にきれいなお花を飾ったら、うれしくなりますよね」

と素敵な笑顔で笑った。

さかもとりえさんのメソッドはそこなのだろう。

ミニマリストのように断捨離をしたり、ただ効率的に整理整頓するだけに終わらない。

「片付けが、人生を変える」だけではなく、「片付けが、人生の彩りを変えていく」。

新たな始動のときを迎えたさかもとりえさん。その佇まいは、気持ちよく片付いた部屋を彩る花に見えた。

ときめきと彩りが、美しく咲いているようであった。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。
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