生きるチカラの強い女性へ

処方箋11 私をつくった大谷翔平流「目標達成術」

文:ひきた よしあき /写真:カンパネラ編集部 05.08.2018

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第11回は、ヘアサロン「Kind」で働くスパニスト・黒野沙織さん。大谷翔平選手も取り組んでいる発想術の「マンダラート」で自分の才能を発揮し始めた。

みなさんは、大谷翔平選手がやっている目標達成術をご存じだろうか。

正方形の中に9つのマスの真ん中に目標を書く。その周囲の8つのマスにその目標に到達するために何が必要かを埋めていく。

かたちがマンダラに似ているので「マンダラート」と呼ばれている手法だ。

大谷翔平選手は、高校1年の頃にこれをつくった。そこに書かれたマスのひとつひとつを克服して、大リーガーにまでなった。

東京・表参道のヘアサロン「Kind」で働くスパニスト・黒野沙織さんも大谷翔平選手に触発されて、目標を決め、それを着々と実現している。

以前、マンダラートに「ヘッドスパで東京一になる」と記入したと話す黒野沙織さん

「最初は、マスの中に何を書いていいのかわからなかったんです。つまり何をしたいのか、自分でもわかってなかったんですね。考えるきっかけをつくってくれました」

幼稚園に行く頃から、お母さんの化粧品で遊んでいた。高校に入ると、友だちに穴のあけたゴミ袋を被せて、ヘアメイクをしていた。

キラキラしたものが好き。でも自分がキラキラするよりも、人をキラキラさせる方がもっと好き。

裏方に徹して人をきれいに変身させる。美容学校を卒業して、表参道のヘアサロン「Kind」を就職先に選んだところで、彼女の目標設定の旅がはじまる。

「スパニストがやめたあとなので、ヘッドスパのスペシャリストになることを命じられました。会社も経営を新しくしようしていた時期で、サロンの一部を壊して、ヘッドスパ専用のスペースを作ろうという計画があがりました」

もちろんこの計画は簡単には通らない。採算が取れていないヘッドスパを拡張することへの不安。右も左もわからない新人にそこを任せることへの不満が爆発した。

「でも、まだやってもいないのに、できないって決めつけるのはおかしいですよね。私は認められたいと思った。見返してやろうという気持ちの方が強いかもしれません」

そこで、大谷翔平流マンダラートが登場する。

東京・表参道のヘアサロン「Kind」でスパニストとして働く黒野さん

マスの真ん中に「ヘッドスパで東京一になる」と書いた。

東京一になるには、他店との差別化が必要だ。自分の技も磨かなければいけない。

朝から夜まで働き、夜遅くに家につくこともある。

そのなかで黒野さんは、マスに書いた「リフレクソロジー」「タイ古式マッサージ」「エネルギーワーク」などの技術を次々に習得していく。

人をもっと変身させたい。気持ちよくさせたい。キラキラさせたいという思いはやがて「人を見返す」よりも、お互いが「いいな」と思える気持ちを交換することの大切を知るようになった。

事実、彼女の施術には不思議な力がある。リフレクソロジーを受けていたとき、彼女の指が止まった。

「ひきたさん。腎臓悪くないですか」

と曇った声がした。気になって検査した結果、私は腎臓に大きな病を患っていた。通常では考えられない早期発見だった。

足の真ん中あたりを押される。すると、背中がチリチリと焼けるような感覚がある。そこが悪かった。

マンダラートに目標を書き、それをこなしていくなかで、彼女は人のいのちをキラキラさせる不思議な力を身につけたのかもしれない。

「休みの前の日は飲みに行きますねぇ。朝まで飲んでいます。ここで同い年の友だちに会って、『みんな、がんばってるんだぁ』と思うことでエネルギーをチャージしてます」

そう笑う黒野沙織さんは、大谷翔平と同じ23歳。夢と若さと未来がはじけて、キラキラとまぶしいばかりだった。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。