処方箋23 変化を楽しみ、有機的に生きていく

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第23回は、学生時代から非営利団体に関わりを持ちながら「必要なモノゴトが必要な人へ届く」仕組み作りやコミュニティー作りを続け、パラレルキャリアを実践している佐藤百子さんです。
「パラレルキャリア」
複数の仕事を持ち、スキルを並行して磨くこと。
1999年に、経済学者ピーター・ドラッカーが『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社)で提唱した働き方。一企業にしがみついて生きてきた私は、こういう話を聞くとすぐに「本業」「副業」などという言葉を出してしまう。
しかし、今の若い世代には、こうした意識が薄い。
「自分のやりたいこと」を見定めて生きていきたい
「パラレルキャリア」を実践している佐藤百子さんは、こう語る。
「私たちは、高度経済成長を全く知りません。知っているのは、5年を待たずして世界が変化する現実。超一流と言われた日本企業があっという間に潰れて、ぱっとGAFAが出てくる。急成長もあればリーマンショックもある。そんな時代しか知らない。だから、自分を、国や企業などに依存することに不安を覚えるんです。それよりも、『自分のやりたいこと』『自分でもできること』をしっかりと見定めて、有機的に、形を変えながら生きていきたいと思います」
小学校5年生の時に祖母の家で読んだ『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)が彼女に衝撃を与えた。幸福とは言えない自分の生い立ち。しかし世界には、飢餓に苦しみ、親もなく、トイレもない人々がたくさんいる。
「私にできることはないか。どうしたらいいか」
と考え、中学2年の時には、
「フリー・ザ・チルドレン・ジャパン」という子どものためのボランティアに参加している。
その活動に打ち込んだ。しかし、やればやるほど疑問が湧いてくる。
「私は何のためにここにいるのか。私じゃなくても、この仕事はできるんじゃないか。私がやりたいことは何か・・・」
そんな中で、また本に出会う。
『ソフィーの世界』(NHK出版)。少女に哲学者が手紙を届ける中で、ソフィーが「自分とは何か」を考え始める分厚い本だ。
「結局、私はボランティアを通じて、私を救いたかったんですね。自分の人生を決めたいと思っていたんです」
短大に進んだ百子さんは、東京・経堂の「ソーシャルエナジー カフェ」で活動を始める。
「あなたのミッションは何か。何に興味があるのか。どれくらいのペースでそのミッションを実現するのか」
と、ここでは問われる。
百子さんは、それを求めて何でもやった。大切なことは、「必要なモノゴトが必要な人へ届く」。そのためなら、何がよくて何が悪いというものはない。
「一生懸命でまじめ。でも、疲れないのかなぁ」
SNSの時代に入り、百子さんの活動は有機的につながりはじめる。飲食の仕事、イベンドの仕事、手芸、ワークショップのファシリテーター・・・。「私のできること」に「思いをともにする人」が集まりだす。自分の力で人が、世の中が動き出した。
「今年から、40代から50代の女性を対象にした「オトハル(オトナ思春期)」という活動の理事に就任しました。まだ20代の私が、この年代の方たちと活動するのを不思議に思うかもしれません。私からみると彼女たちは、一生懸命でまじめで、強い。でも、疲れないのかなぁ・・・と思います。もっと弱さやネガティブや内向的なものがあっていい。社会に合わせて生きてばかりいると、いつかは倒れてしまいます。そうならないために、変化を受け入れて生きる私たち世代と活動するのはお互いにメリットがあると思います」

話が終わった時、取材に同行している日経BPのNさんが、
「感動しますね」
とつぶやくように言った。はじめて、今の若い子たちの考え方が腹に落ちたと。
「働き方改革だ」「女性の社会進出だ!」と声をあげる社会。しかし、そんなものとは全く異なる次元で、新しい日本はすでに動いている。
私は、数年前に貪り読んだ『ソフィーの世界』を思い出していた。表紙の少女の顔が、佐藤百子さんと重なった。成長して哲学者となったソフィーが、私に哲学の手紙を送ってくれた。
それが、佐藤百子さんではないかと真剣に考えていた。
