生きるチカラの強い女性へ

処方箋25 「この世界だけがすべてじゃない」

文:ひきた よしあき / 写真:カンパネラ編集部 06.24.2019

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第25回は、「一般財団法人Next Wisdom Foundation」で「100年後の社会を面白くすること」をテーマにトークイベントの企画運営をしている花村えみさんです。

取材の日は、梅雨の嵐だった。

樹木が大粒の雨に洗われて、輝いている。

「本当はテラスで話した方が気持ちよかったのですが」

という花村えみさん。

彼女はここ「一般財団法人Next Wisdom Foundation」(千代田区麹町)で「100年後の社会を面白くすること」をテーマにトークイベントの企画運営をしている。

自分の幸せは、自分で守らなければいけない

「生まれは長野県上田市ですが、父の仕事の都合で7回も転居しました。まるでロシアンルーレットみたいに、次はどこに行くのかわからない生活でした。

でも決して悲しくはありませんでした。短い期間の間に縁をつなげる力はつけられたと思います。中学校の先生や友だちのお母さんなど、『好き!』と思った人との関係は、世代を超えて今でも続いています」


そして、高校から慶應湘南藤沢高等部へ。大学まで続く時間の中で、「幼馴染のような関係」「ローカルな関係」を持とうと考えた。

「大学時代は、楽しすぎて思い出せないほど。でも、いろんなことをやろうと詰め込みすぎた結果、膠原病になってしまいました。20そこそこの女の子が、ストレスでどの臓器を攻撃されるかわからない病気にかかる。不安と焦燥を抱える中で、あるお医者さんがこう言ってくださいました。

『仕事の量、食事、睡眠。このうち2つがちゃんとしていればストレスにはならない』

これを聞いて、就活の方向を変えたのです。金融業界の証券業なら取引所が開いている朝の9時から3時までの一本勝負。この時間の中で、一流の人の働き方と自分をシンクロさせていきたい。そう考えて、外資の金融に進むことに決めたのです」

その働きぶりに圧倒された。金融商品には特許がない。すぐに真似をされる。必要なのは「あの人なら信頼できる。あの人から買いたい」と思わせる人間力。人をグリップする力に長けたトップセールスの女性たちに花村さんは自らをシンクロさせていく。

「ところが2008年のリーマンショックが起きて環境が一変。仕事のできる高給取りの人から次々とクビを切られました。活気に溢れていたトレーディングフロアは退職者でガラガラになり、私のいた部署は2人になりました。自分の幸せは、自分で守らなければいけないと実感させられました」

世界は私の想像よりももっと広く、大きい

退職後、いくつかのエージェントに仕事を紹介されるが、がっかりするようなものばかり。花村さんは、「流浪の旅」と称して、新橋のガード下で飲み歩いていたという。

「でも、この時に色々な人に声をかけられて、学んだことがあります。

『この世界だけがすべてじゃない』

ということ。世界は私の想像よりももっと広く、大きい。そんなことを思っていたときに声をかけられたのが『自由大学』です。私はここで経営に携わりながら自らも講義をつくるキュレーターになりました」

彼女が携わったもののひとつに「小さな教室をひらく」という講義がある。自分の強みを生かして、教室を作りたい人たちのための学び場だ。

「ここの方針は、『おせっかいをやいて、やかれる』です。人のやりたいことを聞き、おせっかいをやく。今度は自分がおせっかいをやかれる。それを繰り返していくうちに、『あれ、こんなことができるかも』と気づいていけます」


現在彼女は、この講義を続けながら、「Next Wisdom Foundation」で100年後の社会を面白くしてくれそうな人を探し、つなげ、多くの人に知ってもらうトークイベントの企画も進めている。

「人を探す基準は、独自の視点で世界を見て何かに熱中している人たち。人からは変に見えるかもしれませんが、こういう人たちを集めることで、分断された今の社会をごちゃ混ぜにして、新しいターニングポイントを見つけていきたいと考えています」

とても一度のインタビューで追いきれないほどの濃密さだった。しかし、30代でこれだけの経験を積むことで、彼女は「生きるチカラの強い女性」へと変貌していったのだろう。

さて、長くご愛読いただいたこのシリーズも今回で最後となりました。

読み続けてくださった皆様に感謝を述べると同時に、花村えみさんの、この言葉をしめくくりに届けます。

「この世界だけがすべてじゃない」

明日からのあなたに、新しい世界が開けましように。

ありがとうございました。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。