生きるチカラの強い女性へ

処方箋1「レシピを捨てる」 もっと感じるようになれば、世の中が違って見えてくる

文:ひきた よしあき / イラスト:神谷 一郎 07.26.2017

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、自分の人生を謳歌する女性が少しずつ増えている。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、そんなスマートで力強い女性たちに会い、その魅力的な「生き抜くチカラ」に迫る。(カンパネラ編集部)

お昼に会社を抜け出して、新宿にある一軒家にお邪魔する。気持ちよく風が吹き抜けるリビングに女性たちが10人ほど集まっていた。

「これ、ふき味噌。ふきを刻んで味噌と合わせただけ。生だから香りも消えないし、酵素も活性化してるんです」

標高の高い苗場で採れたふきに同じ場所で作った味噌をつかう。齋藤早苗さんのこうした手料理を食べたくて、多くの女性たちが順番待ちをしてまで集うのだ。

たまたま「ランチ難民」の多い永田町からここにきた私は、齋藤さんの作る料理に驚愕した。味が舌を覆い、香りが鼻に抜ける。胃に落ちてしばらくすると体中の細胞が大喜びするのがわかった。

「農家の三女だったので4歳の時から料理を作っていました。それ以来、常に作ってましたね。おいしいものを食べるとき、嫌な顔をする人っていないでしょ。その顔が見たくて作ってます」

そういう彼女がもっとも笑顔を見たかったのが今年小2になる次男だ。ソトス症候群という先天性疾患を患った息子のために、食を徹底的に見直した。元々病院で管理栄養士をしていたキャリアだ。知識は十分にある。結果、彼女がいきついた境地は「添加物を入れずに気持ちを込める」というものだった。

「塩もみするときもね。マッサージをするように、気持ちをこめて優しく揉むんです。心が喜ぶ食べ物を作る。この原点に立ち戻ったとき、人の集いが生まれました」

味噌、柿栖、漬物、乾物、マヨネーズ、ツナのオイル煮、パンチェッタ、干物、酢漬け、アンチョビー、たらこ、ナンプラー。全部、お手製。

その味を求めてウィークデーの昼下がりに、自然食を愛する女性たちが食べながら、笑いながら、時を過ごしていた。

「今って、仕事も料理も子育ても、全部レシピ通りでしょ。そのレシピから外れると、私は間違ってるんじゃないか。私は遅れてるじゃないかと思う。
でも、それって違うと思うんです。レシピの前にまず食材があって、それをどうやって美味しく料理しようかと考える方が大事なんです。
世の中が当たり前と思っているレシピを捨ててみる。学ぶこともしばらくやめて、感じるようにする。
すると、世の中が違って見えてくる。知らぬ間に、自分をとりまく世界も変わっている。
私は息子から、これを教わりました」

今回の生きるチカラを強くする処方箋は、

「レシピを捨てる」。

目の前にある素材を感じ、引き出し、気持ちを込めてぶつかっていく。普通の主婦だった齋藤早苗さんは今、苗場での農業体験や料理教室など様々な「場づくり」を進める。

レシピを捨てたからこそ、本当の味に出会い、本当の人生が開ける。それが齋藤早苗さんの「生き抜くチカラ」だという。



ひきた よしあき

1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。

家飲み酒とも日記