生きるチカラの強い女性へ

処方箋3 「妥協はしない。本物から本質をつかむ」

文:ひきた よしあき / イラスト:神谷 一郎 09.27.2017

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えている。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、そんなスマートで力強い女性たちに会い、その魅力的な「生き抜くチカラ」を探る。第3回はバレエの挫折から立ち直り、自分の生きがいを見つけた女性の話です。

東京・銀座にある「Body Making Studio Aulli(アウリー)」。丸窓から明るい日差しが差し込む中、いつも古いハワイアンが流れている。

「Aulli」は、「豊か」を示すハワイの言葉。

「ピラティスを軸にして豊かな情報発信をしたかったんです」

と、このスタジオを主宰する辻あかねさん。

しかし、彼女が「豊かさ」を手にするまでには幾多のドラマがあった。

3歳からバレエを習い始めたあかねさんは、7歳で森下洋子、清水哲太郎の所属する松山バレエ団に入る。

「君は、凡才だ。天才の20倍努力しなければいけない」

そういわれて心身ともに鍛えられる。当時は、食事はおろかトイレに行く時間もなかった。

そこまでがんばりながら、ケガに泣いた。22歳で、退団。あかねさんは、バレエを捨てた。

何もかも忘れたいと思い、友人のいるパリへふらりと出かけた。

「でも、友人はパリ観光ではなく、バレエ教室を紹介してくれたんです。そこで踊ったら、楽しい。ものすごく楽しい。帰国して、お金をためて、本場でバレエを学ぶ決意をしました」

それから3年間、バイトでお金を貯めてはヨーロッパのバレエ団を受けに行く。落ちて、落ちて、やっと受かったのがロンドンのバレエ団。

しかし、あかねさんの体は限界に達していた。もう、かかとを着いて立てなくなっていた。

「でも、そのイギリスで出会ったのが、ピラティスなんです。彼女たちは、自分を商品とわきまえている。だからメンテナンスをするのが当然なんですね」

精神力や練習量に頼る日本との違い。あかねさんは、アメリカを目指す。ピラティスの本場で、極めてみたいと何件ものバイトを掛け持ちしてお金を貯めた。

「父が競輪の選手なんです。一等以外はダメと言う教育でした。その影響でしょうか。私は、本物に出会いたいんです。どんなに苦労しても、第一人者から学ぶ。妥協はしません。本物から本質をつかみたい」

アメリカに渡ってまた驚いた。老人たちが医者の書いたカルテを持ってピラティスを受けにくる。医療とピラティスが一つになっていた。

あかねさんは、「私がやりたいのは、これだ!」と気づく。

日本に戻り、ピラティスのトレーナーに従事。妊婦になってからも出産の2週間前まで月160クラスのレッスンをこなした。

「そんな中で、お客さんや有志の皆さんがスタジオを作るお金を出してくれたんです。ピラティスを通じて出産経験もちゃんと残した方がいいと言ってくれて。それがAulliなんです」

Aulli。豊かを示すハワイの言葉。この豊かさは、あかねさんの「本物から本質をつかむ」努力の結晶なのだ。

今年で5年目に入ったスタジオにはハワイアンとあかねさんの笑顔と生徒たちの笑い声で溢れている。豊かさに、満ち溢れている。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。
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