処方箋17 動いたとき、「凛!」と音がした

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第17回は、エレガントでありがならも、心を掴むPowerあるマナー「Powerエレガントスタイル」を教える高田将代さんです。
「エレガントに見えるために一番大切なのは、まっすぐ立つことです」
インタビューの途中で、高田将代さんがすっと立ち上がる。頭から足まで、きれいに重心の乗ったその姿はじつにしなやかだ。
「今度は上半身を崩さずに座ります。前かがみにならない分、足とお腹のインナーマッスルを使いますよね。いい姿勢を保てば、太ることもありません」
にっこりと笑って、今度はグラスに手を伸ばした。

「腕を外側から回すようにしてコップをとると、男性らしく見えますね。女性は脇をしめ、すっとまっすぐに手を差し伸べます」
動きはほんのわずかだけれど、女性らしさがまるで違う。
「お酒をいただくときも、きれいに見せるには、顔を動かしてはいけません。顎をあげるのではなくグラスを傾けていただきます」
と、グラスを傾ける高田将代さんは、動くたびに、「凛」と音がしそうなほど美しい。
これは彼女の教える「Powerエレガント」のほんの一端。
なるほど「Power」という文字がつくように彼女のしぐさには、弱々しさがない。動きのすべてにしなやかな心棒がある。人に媚びるような動きばかりを教えるマナー教室に閉口している私には新鮮な驚きがあった。
名前の「将」は、中将姫から頂いた一字
高田将代さんは、奈良の生まれ。大和盆地の南西、二上山の東南に位置する當麻寺がご実家だ。この寺で、藤原鎌足の曾孫、豊成の娘、中将法如尼が、国宝「蓮糸の綴織当麻曼荼羅」を織った。将代さんの「将」は、中将姫から頂いた一字なのだ。
「子どもの頃は、自分の名前が好きになれませんでした。『将』がとても強い感じがしますからね。確かに家族に男性が多く、私も山を駆け巡って育ちました。でも、母や祖母が読んでいる『家庭画報』の写真を見てうっとりする一面もありました。
お茶やお花は小さい頃から習わされました。大人の中にポツンと入れられるのはけっして居心地のいいものではありませんでしたが、端正な動きや客人をお迎えするための心地よい空間をつくっていく姿には心を奪われていました」

「将」の一字を頂いた彼女は、文字通りリーダーの才を求められることもあった。
結婚して福岡にいた時代。450人も園児のいる幼稚園のPTA会長に推薦される。
「はじめは躊躇しましたが、こう考えました。ひとつは、かわいい息子たちもいつかは私の手をはなれる。その時、気持ちよく手放すためにも自分自身が何かもっていなければならない。
もうひとつは、手伝ってくださる女性たち皆さん、すごい能力を持たれていました。この豊かな力を後押しする仕事をしたいと」
その後、グレース・ケリーやジャクリーン・オナシス等が卒業生したNYの名門フィニッシングスクールで学んだ彼女が、幼い頃からの体験や美意識を取りいれて確立したのが「Power エレガント」だ。
「全く自信のもてない生徒さんがいました。いつも伏し目がちです。人の目をまっすぐ見ることができないのです。私は、『あごを上げましょう』と伝えました。彼女ならまっすぐ見つめるより、少しあごを上げるくらいの方が相手にも見ていることが伝わるし、それだけで自信がついていくと判断したのです。
彼女もがんばってくれました。相手の目をまっすぐ見て話せた時、初めて人と対等に話せている、と感じられたと連絡があったときは本当にうれしかったです」
この話を聞いて、私は気づいた。彼女が教えているのは、単なる女性らしいしぐさやマナーではない。
それは、人としての強さ。「凛!」と音なるしなやかな心棒を育てていくことなのだろう。
帰り際、高田将代さんから「當麻寺」の資料をいただいた。合掌する中将姫の端正な顔立ちを眺めていると、どこからか「凛!」と音がした気がした。
将代さんと同じ、音だった。
