生きるチカラの強い女性へ

処方箋5 入れたい保育園がなければ、自分の手でつくる

文:ひきた よしあき / イラスト:神谷 一郎 11.28.2017

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えている。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、そんなスマートで力強い女性たちに会い、その魅力的な「生き抜くチカラ」を探る。第5回は、自ら認定保育所「ひだまりの園」をつくり、経営する女性のお話です。

「ずいぶん選んで決めた保育所なのに、初日からオムツかぶれを起こして帰ってきたんです」

埼玉県川口市で認定保育所「ひだまりの園」を経営する高橋真依子さんは当時を振り返ってこう言った。

「しばらくすると、『お子さんが暇そうにしているので、オモチャをもってきてください』と言われました。まだ0歳児ですよ、眼を開いて見ているだけで、いろいろなことを吸収しています。けっして暇じゃないんです」

食事、予防接種や紙おむつへの考え方……。いろいろ納得できない高橋さんは、行政書士、社会保険労務士の夫と相談し、自分たちの手で保育所をつくることにした。高橋さんが、ここまで学んできたことを実践できる理想の保育所づくりへと走りだした。

子どもの頃から少なかった自己肯定感

「大学を出て、自動車会社の海外販売本部に配属されました。でも、そこでウツになりました。私は、子どもの頃から自己肯定感が低かった。いつも親や学校の期待に応えることを優先して、自分をだましだましやっていたんです。就職して、正社員になって会社の期待を背負わされた時に限界がきたようです。もう、できないと思いました」

しかし高橋さんは、そこでうずくまる人ではなかった。自らの病と闘うために心理学を学んだ。アロマセラピー、カラーセラピー、キャリアカウンセリングと「心理」と「健康」に関するものは、学べるものはなんでも学んだ。やがて企業コンサルタントとして法人向けのセミナーを手がけ、フリースクールの支援にいく人へと変貌していった。

「いろいろやるうちに、わかってきたことがあるんです。大切なのは労働環境なんだなと」

そんな思いから福祉事業所をつくりたいと考えた。

時を同じくするように、妊娠。様々な思いが、一致して「ひだまりの園」が生まれた。

自信をもって人生を歩んでいける子どもたちを育てたい

「大人になってからではなく、乳幼児期の経験で自分に価値があるか、ないが決まると考えられています。この頃に『自分は価値がある存在だ』と思える経験をすれば、自信をもってその後の人生をイキイキと歩むことができます。自己肯定感をもてなくて苦しんだ私のような思いを子どもたちにはさせたくない。そんな思いで経営しています」

高橋さんは、「保育士に求められるのは子どもと一緒に遊ぶことではなく、子ども一人ひとりをよく観察し、個性に合わせた支援をすることなんです。自己肯定感もなく、個が満たされなければ、本当に他の人のためになんて働けません。うわべは良くても、どこか曲がってしまう。そうならないためにも幼児教育が大切なんです」

池袋のカフェで、笑顔をたたえて語ってくれた高橋さん。

お子さんは、すでに1歳9カ月になる。

「ひだまりの園」が0歳から2歳までの保育所のため、より上の年齢層の子どもが通う保育所をすでに構想中だ。

「どこまで行くんでしょう。学校までつくれたらいいな」

と笑う高橋さん。聞きながら私は、高橋さんがつくる小中学校を見てみたいと真面目に考えていた。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。