生きるチカラの強い女性へ

処方箋19 ドラマの中の役を歌う

文:ひきた よしあき /写真:カンパネラ編集部 12.27.2018

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えています。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、スマートで力強い女性たちに会い、その魅力を探ります。第19回は、「お客さんの人生とともに歌の解釈も変わります」と話すシャンソン歌手で女優の松城ゆきのさんです。

「愛の賛歌」

シャンソン歌手エディット・ピアフが詩を手がけ、自ら歌ったこの歌は、シャンソンを代表する抒情詩だ。日本では越路吹雪や美輪明宏といった大御所が切々と歌い上げている。

子どもの頃、父が宝塚好きだった私の家では、この歌がよく流れていた。非常に懐かしい。しかし、自分で聴くとなると少々大時代的で心に重すぎる。

長年、そう感じていたものを一変させたのが、シャンソン歌手で女優の松城ゆきのさんの歌声だった。


今年9月、銀座内幸町ホールで彼女の歌う「愛の賛歌」を聴いたとき、目の前に純白のシルクのカーテンが現れた。彼女の言葉で、淡いブルーになったり、ほんのりとピンクに変化する不思議な感覚を覚えた。

言葉が新しい。歌声が新しい。愛が新しく、賛歌も新しかった。

すっかり松城ゆきのさんの言葉と声に魅了された私は、彼女がよく歌う銀座コリドー街の「シャンソニエ蛙たち」でお話を伺うチャンスを得た。

「歌を歌うというよりは、3分間のドラマを演じる女優」

「シャンソン歌手が恵まれているのは、『蛙たち』のようにお客様の前で歌える場所があることなんです。私のピアノの先生が、『100回の練習より、1回の本番の方が実力がつく』と言ってくれました。私にとっては毎日が、本番です。シャンソンという歌にとって、これはありがたいことなんです」

シャンソンは、「3分間のドラマ」と言われる。愛の芽生えから葛藤、希望、涙、笑い、死別。人の人生がぎゅっと凝縮された言葉を奏でる。

「ずっと通ってくれるお客さんの人生とともに歌の解釈も変わります。一曲の中の喜びに心を打たれることもあれば、悲しみの言葉に心を震わせることもあります。
私は、歌を歌うというよりは、3分間のドラマを演じる女優という意識の方が強いんです」

そういえば彼女が演出したステージにもドラマがあった。

一見、カショニールが描いた避暑地の絵葉書に見える舞台。その絵葉書の中の少女が動き出すと、潮風が吹き、遠くからさざなみが聞こえてきた。

一曲のドラマを連ねて大きなドラマを作る。そこで歌う彼女は確かに「歌手」というよりは物語の中を生きる「女優」のように見えた。

「シャンソンは、歌を『自分のもの』にします。他の音楽は歌に自分を合わせますが、シャンソンは『自分』に歌を合わせます。メロディを変えたり、歌詞を変えることもできます。だから私は、フランス語ではなく日本語で歌います。自分が作った物語で、誰かの記憶を呼び覚ます。それが、私にとってのシャンソンなんです」

こう語る彼女の背後にはグランドピアノがある。その横にかつて「銀巴里」にあったパリの街灯があった。それを背景に語る松城ゆきのさんが、何かのドラマの役を演じているかのように見える。


理想のシャンソン歌手とは……

「姉弟子の友納あけみさんが、『理想のシャンソン歌手は、ひどい男に騙されて散々な目にあい、でも結婚して子供を授かる。できたら女の子がいい。その後別れ、その女の子を育てながら歌い生きているイメージ』だと言っています。面白いですね。私は、聴いてくださる方に、色々なイメージを与えられる歌手、女優をめざそうと思っています」

と、軽やかに笑った。

インタビューが終わってからも私は、松城ゆきのさんのドラマから抜け出せなかった。

🎵いつか、その時が来て
あなた死んじゃっても
全然平気よ 愛があるから
やがて私も死に
広がる青い空
愛は永遠に姿を変えてゆく🎵
(右近健一訳)

彼女の歌う「愛の賛歌」が遠い記憶を呼び覚ますかのように何度も何度も流れていた。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。