食文化・萩原社長のお薦め

九州の秋の美味 球磨川のアユ、五島のアオリイカ、平戸のオオバウチワエビ……

海産物を中心に、美味のバリエーションと質がすごい

文:萩原 章史/写真:八木澤 芳彦 11.02.2016

九州の秋の美味は、そのバリエーションと質がすごい。熊本県南部に流れる球磨川の巨大アユ、長崎県五島列島のアオリイカの極上するめ、アオリイカのいか徳利(とっくり)も秀逸だ。さらに、長崎県平戸市志々伎町のウチワエビも美味。そろそろ五島列島には、巨大なクエも揚がりだす。

日本各地にうまいもんはあるが、九州は海産物を中心に、美味のバリエーションと質がすごい。一口に海といっても、玄界灘、瀬戸内、日向灘、東シナ海、有明海……と多彩な海があり、海岸線も海底も複雑で、さらに、九州を取り巻く多数の海流が様々な海の幸を送り届けてくれる。

このように九州周辺の海は多種多様な美味を育む豊かな海だ。さらに、山々に降り注ぐ豊富な雨は深い森を育み、そこから流れる川もまた豊かな資源に恵まれる。特に熊本県南部に流れる球磨川は、“尺サイズ”も珍しくない立派なアユを育む日本三大急流のひとつ。水質も日本最上級。九州の秋の美味は、こうした豊かな環境の中にあって、どれも素晴らしい。

球磨川のアユは、様々な調理法で大切に味わう

秋は、落ちアユの季節。巨大なアユたちは、産卵のために川を下りだす。球磨川のアユ食文化は奥深い。塩焼きはもちろん、刺し身、背ごし、うるか(苦うるか、子うるか)、焼きアユ(だし用)など、様々な調理法でアユを大切に味わう歴史がある。

早朝の刺し網漁――。婚姻色のさび色が出始めたこわもてのアユが、網にはたくさん掛かっていた。小顔のアユは、太っているようでも固太りで、養殖のアユの大きなものとも別ものだ。

婚姻色のさび色が出始めた球磨川のアユ

下あごが発達しているのは、川底の苔を削りとって食べてきた証。川漁師が午前4時ごろに網を仕掛け、6時ごろに上げるのは、胃や腸の中が空っぽのアユを獲るため。おなかに何も入っていないから、腹が傷みにくく、最高品質のアユとして、東京・築地でも高値で取引される。餌が残っていない内臓だから、当然、上質なうるかの原材料にもなる。

球磨川の漁師たちは、暁の短い時間帯しか漁をしないことで、資源を守りつつ、最高品質のアユしか獲らないという、暗黙のルールを守っているようだ。

ダムが全く無かった頃の球磨川のアユの水揚げ量は、今の20倍ほどあり、その頃は、川の瀬で上流に背中を向けて座ると手でアユを押さえて獲れたというほど魚影が濃かったと伝えられる。こうした資源の回復のため、下流で水揚げした稚アユをダムの上流に運んで放流する活動が、現在も続いている。もちろん、アユは球磨川のアユ。球磨川のアユが大きく育つDNAを持っているのは間違いないようで、人工受精にしても球磨川の大きなアユを選んでいるから、普通に球磨川のアユは大きいのだろう。

球磨川の筋肉質で脂も乗っているアユの刺し身は絶品! 筋肉質の「そっぷ型の力士」とでも表現すれば良いのか……。強固な筋肉に散りばめられた脂が、他の河川のアユとは異次元のうまさを発揮してくれる。もちろん、塩焼きもうまい。

巨大な球磨川のアユだからの刺し身のボリューム 文句なしの美味
立派な球磨川のアユ、塩焼きもうまい!

また晩秋、卵と白子を持ち、脂が落ちたアユを素焼きにして、さらに乾燥釜で一昼夜乾燥させて完成する焼きアユは、最高のだしが取れる。アユご飯はもちろん、雑煮のだしにも使われる。天然アユを焼いて、だしにする。何ともぜいたくなだしだ。

炭火であぶられたアユは、上質なだし素材になる