なぜあなたの酒場には客が来ないのか?

よみがえれ「限界酒場」 復活のカギは若手と都会の客

文:須田 泰成 02.02.2017

常連客の高齢化によって存続が危ぶまれている酒場がある。限界集落ならぬ「限界酒場」はどうすれば次の10年存続できるか。ヒントは顧客層の若返りを促す工夫と、大都市圏の客を呼び込む策にあった。

全国の酒場を訪ねることの多い筆者だが、地域で長年に渡り愛されてきた安い、ウマい、雰囲気の良い酒場が、顧客の高齢化によって存続が危ぶまれるケースが、この2~3年で増えてきた。

人口の半数以上が65歳以上の高齢者で、存続が危ぶまれる集落のことを限界集落と言うが、客が高齢者ばかりの酒場を見ると時折、「限界酒場」という言葉が浮かんでくることがある。

例えば、東京の私鉄沿線・住宅街の酒場Aを挙げよう。創業から30年以上が経つ、個人経営の居酒屋である。10名ほど座れるカウンターとテーブル席がひとつ。刺身、天ぷら、煮物、串焼きなど、ツマミが豊富で、夕方から地元の常連男性客を中心に賑わってきた。客単価は1人当たり2000円から3000円、1日の売り上げが10万円を上回ると評判の繁盛店。雑誌や夕刊紙に記事が載ることも多かった。

しかし、この2~3年、客がじわじわ少なくなってきた。リーマンショックや東日本大震災でも影響がなかったにもかかわらずだ。営業のピーク時となる18時台や19時台でも半分程度の入りが多い状況に。酒場Aのマスターに話を聞いてみると、原因は、顧客の高齢化。つまりは、「限界酒場」の問題だった。

団塊世代の引退が原因

「うちの店は団塊の世代の人たちと、その上の戦中生まれくらいの人たちで賑わってきた店。2007年から震災くらいまで、団塊が定年退職してすぐの頃は、嘱託で週2~3日も会社に行けばいい金をもらえる人が多くて、早い時間からめちゃくちゃ混んだ。ただ、この1~2年で、ダメになった。ほとんどの人が、仕事がなくなり、普通の年金生活者になって、来る回数が減った。うちより安い店に流れた人も多い。変わらず飲みに来るのは、会社の経営者かうまく生き残っている自営業者か、一部の人だけ」

振り返ると、2年前の2015年は、団塊の世代がまるごと、65歳以上の前期高齢者の仲間入りをした年。他の世代と比べて人口が多く、戦後の時代の節目節目にブームを作ってきた世代だが、高齢化に伴い消費生活から離脱する影響も大きい。全国の酒場や飲み屋街の多くが、団塊世代の引退と同じくするように、衰退の危機に直面している。

が、ここの70歳のマスターは、健康で、まだまだやる気。生来の明るい性格で、年配の客が少なくなったと感じ始めた昨年から、若い人や女性客が来ると、さりげなく話しかけたり、刺身を大盛りにしたりしている。すると、30代、40代の客が増え、女性客も多くなってきたという。

「常連さんのお金と元気がなくなって、うちみたいな普通の飲み屋が閉まるケースが、この1~2年、ほんと多い。だけど、うちは、若い人や女性のお客さんが来てくれるようになったから、まだまだ大丈夫そう。だって、ウマいものを安く出してるし、あと10年は働けるくらい元気だし。それに若い人の話を聞いてると楽しいよね。若返るような気もするし(笑)」

元気な個人事業主は、80歳まで働ける。まさに高齢化社会を象徴するような言葉である。

若い世代や女性などの新しい顧客が集まるようになれば、「限界酒場」は皆が楽しく過ごせる「あなたの酒場」として再生する。それはあたかも、若い移住者を「限界集落」再生の希望として呼び込んでいる、地方自治体の試みのようでもある。

家飲み酒とも日記