なぜあなたの酒場には客が来ないのか?

意識高い系のあなた、酒場に嫌われないよう要注意!

文:須田 泰成 02.09.2017

老いも若きも、男も女も楽しめる酒場を「あなたの酒場」と呼ぶ本コラム。最近問題視されているのが「意識高い系」の客。意識が高いがゆえに、ゆっくり飲みたい周りの客に迷惑をかけまくる。同じ酒を飲むのであれば、収入も地位もスキルも関係なし。酒場はみんなのものなのだ。

会社や町内が、出会いや助け合いのあるコミュニティーとして機能した時代は、過去の話。雇用の安定しない非正規社員の割合が増え、人と人のリアルな関係づくりは減る一方である。

しかしそんな中、20代、30代の若い世代や女性客でにぎわう新しい酒場が、全国のあちこちに生まれている。このような酒場では、客同士のヨコのつながりが生まれ、飲み友達や趣味の仲間、結婚するカップルまで誕生する。以前の記事で紹介した大阪の鉄板焼き居酒屋「べろべろばあ」のように、昨年3組のカップルが結婚を決めた店もあったりする(記事「不思議と男女の出会いをつくる酒場、その秘密に迫る」はこちら)。

質の高い客と質の高い経営者でつくられる「あなたの酒場」は、現代のユートピアのようでもある。しかし、ユートピアは、同時に脆(もろ)さを秘めている。

「いい酒場のカウンターというのは、他人のことを思いやれる大人な感性の持ち主が集まるから、ホロ酔いの温かい人と人のふれあいが成立するんです。でも、そこにたった1人でも、デリカシーのない人が乱入すると、全てがぶち壊されて、残念なことになってしまいます」と語るのは、こちらも以前本コラムで紹介した大阪の人気薫製バー「けむパー」のマスター、小林哲さん。

いい酒場の雰囲気は、SNSの投稿画像などを通じて広まることが多い。楽しげな様子を見ていろんな人が集まってくるのだが、中には、要注意人物もやってくる。実は意外にも、キャリアアップの観点からは理想視される「意識高い系」の人が酒場にマークされることがあるのだ。

「意識高い系」は時としてコミュニティーを壊す

「酒場のカウンターって、昼間の人間関係を引きずらずに、バカなこと言い合ったりできるのがいいんですよね。同じ値段の酒を飲む以上は、学歴とか会社とか役職とか関係ないですし、近所の店のどこがウマいとかランチのボリュームがすごいとか、他愛のない話をするうちに気心が知れてくる」と語るのは、東京・世田谷区在住のAさん。広告関係の仕事をしており、人付き合いの幅が広いが、プライベートで通う店には、仕事を極力持ち込まず、その店ごとに集まる人との自然な出会いを楽しみにしている酒場好き。

そんなAさんが頭を悩ませているのが、行きつけの店に出没する「意識高い系」の人たちだ。

「いちばん困った人は、30代の女性Bさんです。たまたまあるイベントで知り合いFacebookでつながりました。仕事も地元も何の接点もない人で、知り合って2~3カ月しか経っていないのに、ある日、気づいたら、共通の友人が100人を超えていてビックリしました」

周囲に確認してみると、「Aさんにお世話になっているBと申します」という書き出しのメッセージと同じタイミングで友達申請が届いたため、Aさんと親しい人だと勘違いして、確認せずに承認してしまったとのこと。Facebookの投稿をよく見てみると、Bさんは、ビジネスコンサルタント関係の仕事をしているらしい人物。エコロジーや食などの社会問題にも関心が深く、人とのつながりを作ることに積極的な人柄のようだ。

「そういう意識の高さ自体は良いと思うのですが、私の名前を無断で使うのもどうかと思いますし、その後いろいろトラブルが起きました」

次にBさんは、Facebookの投稿を見て、Aさんの行きつけの店に出入りを始めた。もちろん、客として通ってもらう分には何の問題もないが、Bさんの行動は、普通のお客とは少し違った。

「安いドリンクを一杯頼み、ちびちび飲みながらカウンターに長く座っているんです。そして誰か入ってきたら、すぐに近くに行き、名刺を配り、Facebookでつながってしまう。そして、名刺を見て、メリットがあると思ったら、コラボしませんか?と、営業を始めるのです。とにかくマシンガンのようにしゃべるので、話しかけられた方はお代わりをせず、おツマミの注文も滞ります。だから店の人は、イライラしてましたね」

それでもBさんは明るい女性なので、男性客の中には話しかけられてツーショット写真を撮られるとうれしそうな人もいた。また、店に来る回数が少ないにも関わらず、「来ました!」と店にいる写真をたくさんFacebookに投稿するため、Bさんがあたかも常連であるかのような印象を持つ人が多くなった。

ある平日の早い時間帯にAさんが行きつけの店に顔を出すと、いつもいるはずの常連さんが一人もいないことがあった。嫌な予感がして、スマホで調べると、案の定、Bさんが開催する食のイベントに参加している人が多かった。店としては、客を奪われた、営業妨害という印象を持ってしまう。

「ヤバイ」と感じたAさんは、自分の行きつけの店に出入りしないよう求める内容と、Facebookの共通の友人にアプローチするのをやめるよう求める文書をまとめ、Bさんにメッセージで送った。すると、すぐにブロックされ連絡が取れない状況に。それから彼女を見ることはなく、行きつけの店は、静かに平穏を取り戻した。

その後、Aさんが、ある人づてで知ったのは、Bさんが、コンサル業界の人ではなく、派遣社員としてオフィス事務をしている人。コンサルタントのセミナーに出入りして、コンサルタントになることを夢見ているという事実だった。

「それを聞くと、少しさみしい、微妙な気持ちになりましたね。せっかく、いろんな人が出入りするアットホームな酒場に出会ったのに、自分を大きく見せることなんてせず、普通に飲んで話してくれたら、仲良くなれたかもしれないし、繰り返し通ううちに、本当の人のつながりができたかもしれないのに」

ともあれ、Aさん行きつけの「あなたの酒場」の平和は守られた。その後、AさんはFacebookで人とつながることに慎重になったという。

カンパネラナイト