ミシュラン三つ星をほぼ食べ尽くした男の忖度のない美食論

50年以上三つ星を守り続ける「ポール・ボキューズ」、伝説のスペシャリテに陶酔

第3回「フランス料理の神様」が創り上げた最高級の魚料理を食す

文:藤山純二郎/特記なき写真:長坂邦宏 03.01.2018

2017年版のミシュラン三つ星レストランは、世界に119軒。そのうち117軒を28年の歳月をかけて自費で食べ歩いたのが、藤山純二郎さんです。この「偉業」のためにつぎ込んだお金は総額約6000万円。今回は、1月20日に逝去されたフランス料理界の巨匠ポール・ボキューズ氏の三つ星レストラン「ポール・ボキューズ本店」を訪問した時のエピソードを披露してくれます。後半は、藤山さんがお薦めする「三つ星レベルではないけれど十分楽しめる日本のお店」として、大阪・難波の焼肉店「多平」をご紹介します。

フランス料理界の頂点を極められ、ミシュラン三つ星を1965年から、連続52年の最長連続三つ星在位記録を保持したポール・ボキューズ氏が、2018年1月20日に逝去された。連載第2回で紹介した「ジャマン」のジョエル・ロブション氏が登場する以前は、「フランス料理の神様」といわれるほど伝説的な存在だった方だ。1975年にフランスの国家最高勲章「レジオン・ドヌール勲章」も授与されている。

「ポール・ボキューズに一度も行ったことがなくして、フランス料理を語ることなかれ」。世界中のフランス料理愛好家からこう言われるほど、この店は三つ星の中でも名店中の名店なのである。

「ポール・ボキューズ本店」でポール・ボキューズ氏と(2011年5月撮影。写真提供:藤山純二郎氏)

フジヤマは、フランスのリヨン郊外・コロンジュ・オーモン・ドール村にある「ポール・ボキューズ本店」を4回訪問した。ポール・ボキューズ氏ご本人にお目にかかったのは、2011年5月の1回だけだが、その温かい人柄に接し、感激したことを覚えている。2ショット写真を撮らせていただいただけでなく、日本から持参した『リヨンの料理人 ポール・ボキューズ自伝』(晶文社)とメニューにサインを頂戴した。

現代フランス料理の古典「舌平目のフェルナン・ポワン風」を味わう

僕が何度も「ポール・ボキューズ」に通ったのには理由がある。この店にはスペシャリテ(シェフ自慢の特別料理)が多いので、一度の訪問では食べきれないからだ。「舌平目のフェルナン・ポワン風」、「スズキのパイ包み焼き ショロンソース」、「V.G.E.に捧げるトリュフのスープ」などは、まさに後世に永遠に残るポール・ボキューズ氏のスペシャリテだ。

「V.G.E.に捧げるトリュフのスープ」のV.G.Eとは、ヴァレリー・ジスカール・デスタンという、1975年当時のフランス大統領のこと。同年、フランスの料理人としてはじめて「レジオン・ド・ヌール勲章(シュバリエ)」を受賞したポール・ボキューズ氏が、フランス大統領官邸であるエリゼ宮にて、時のデスタン大統領に捧げたスープが素晴らしく、伝説のスープとして受け継がれているもの。もちろん僕も2回食べている。

このほか、僕にとって忘れられない味が、「舌平目のフェルナン・ポワン風」。フェルナン・ポワンとは人名で、「現代フランス料理の生みの親」といわれる人物だ(1897年〜1955年)。もちろん、三つ星シェフである。実に多くの三つ星シェフたちがポワン氏に弟子入りしており、ポール・ボキューズ氏もそのひとり。他に、1966年開業の銀座ソニービルの地下にあった「マキシム・ド・パリ・銀座」の初代シェフでもあったピエール・トロワグロ氏や、神戸ポートピアホテル内に支店があった故・アラン・シャペル氏、パリにあった三つ星「ヴィヴァロワ」のシェフのクロード・ペロー氏など、枚挙にいとまがない。

「舌平目のフェルナン・ポワン風」は、ポール・ボキューズ氏が自分の師匠に敬意を表した、いわばフランス料理の古典中の古典といえる。どのような料理かというと、白ワインと出汁(だし)で加熱した舌平目にデュクセルソース(タマネギやマッシュルームなどのみじん切りを炒め、ソースをかけたもの)、最初の煮汁、生クリーム、バターをかけてオーブンで焼いたもの。いわゆるグラタン料理である。最後にバジリコ風味のクリームをかけて出来上がり。

出来たてを口に入れた瞬間の味の素晴らしさは、到底忘れることができない。一瞬にして、生クリームやバターの味と絡まりながら、舌平目独特の濃厚な風味が広がっていく。素材を見事に生かした最高級の魚料理である。詳しくは、拙著『世界のミシュラン三ツ星レストランをほぼほぼ食べ尽くした男の過剰なグルメ紀行』(KKベストセラーズ)に書いたので、よろしければご一読いただきたい。

伝統的なフランス料理に敬意を表しながらも、食材本来の持ち味を生かした斬新な料理を生み出すことで50年以上も三つ星を保持したポール・ボキューズ氏。心よりご冥福をお祈りします。

※なお、「ポール・ボキューズ本店」は、ボキューズ氏が逝去された後、この2月5日に発表された2018年版のミシュラン・フランス版においても三つ星を維持した。1965年版からなんと53年間連続三つ星である。これは師匠の故フェルナン・ポワン氏のピラミッド(1933~1986年、ただし、戦争中の1940~1950年は評価を実施せず)と同じ三つ星在位期間。これもなにかの縁だろうか……。

フランスのリヨン郊外、コロンジュ・オーモン・ドール村にある「ポール・ボキューズ本店」(写真提供:藤山純二郎氏)