ミシュラン三つ星をほぼ食べ尽くした男の忖度のない美食論

上海の三つ星は「秘密基地」風? 実はアバンギャルドなエンターテインメント・レストランだった

第10回 料理は、グローバルな映像と音の演出が加わり、いっそうおいしくなる?

文/特記なき写真:藤山 純二郎 03.18.2019

世界中のミシュラン三つ星レストランを追い求め、旅を続ける藤山純二郎さん。2019年1月には、中国・上海と台湾・台北の三つ星レストラン2軒を新たに訪問し、これで2018年版ミシュランに掲載されている三つ星レストラン全126軒のうち123軒を制覇しました。第10回は「エンターテインメント・レストランの頂点」ともいえる上海の三つ星レストラン「ULTRAVIOLET by Paul Pairet」をご紹介します。

結論から言うと、「ぜひ再訪したい三つ星レストランの一つ」である。

「料理は、それに合った風景と音の中で食べると、さらに美味しくなる」というのがフランス出身のオーナーシェフ、ポール・ペレ(Paul Pairet)氏の主張だ。これを実現するため、世界各地の映像と音を流しながら、4時間弱にわたって22皿の料理を堪能できるよう、様々な仕掛けや演出を凝らす。まさに「アバンギャルド(前衛)」なレストランなのである。

厨房でシェフとゲスト全員で記念撮影

フジヤマはここが「エンターテインメント・レストランの頂点」だと感じ、これ以上のエンターテインメント性のある三つ星レストランは知らない。

「ULTRAVIOLET by Paul Pairet」はミシュランガイド上海の2017年版(初の上海版)で二つ星を獲得(当時の店名は「ULTRAVIOLET」)、2018年版で三つ星に昇格して2019年版でも三つ星を維持している。「料理、映像、音などの総合評価で三つ星を獲得した店」という印象を抱いた。

「覆面バス」でレストランに連れて行かれるというウワサ

この店はアバンギャルドでもあるし、ミステリアスでもある。ミシュランガイドを見ても店のホームページを見ても、どこにも店の住所は書いてないのだ。予約はホームページからのみ。電話予約も受け付けていない。ホームページから予約を入れると、以下のようなことがわずかに分かってくる。

・メニューはホームページからPDF形式で事前に入手できる。
・料理はコースのみ。4000元(約6万6000円)、6000元(約9万9000円)、8888元(約14万6600円)、そして一番高い1万元(約16万円)のコースの4種類だけ。日によって違う。
・事前に料金の半額をカードで払い、当日に残りを支払う。
・当日は「Mr&Mrs Bund」という同経営のレストランに18時30分に集合。19時にバスで、三ツ星へ出発。
※夕食のみの営業。1回転。昼食の営業はない。日曜、月曜定休。

おおまかにいえばこれだけなのだが、では一体なぜ「Mr&Mrs Bund」に集合しなければいけないのか? 人づてに情報を入手してみると、どうやらそのレストランから覆面されたバスに乗って連れて行かれるらしいのだ。客に所在地を知れないように内緒で連れて行く? いやがうえにも期待が高まるではないか。

ポール・ペレ氏のカジュアルなレストラン「Mr&Mrs Bund」(ミシュランでは、いわゆる無印で掲載)はこの建物の6階にある

さて当日。指定された「Mr&Mrs Bund」に向かった。バンドと呼ばれる上海随一の観光エリア兼ビジネス街に面したところに立つビルの6階にその店はあった。驚いたことに、1階にレストラン「ジョエル・ロブション」の売店があり、3階に二つ星レストラン「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」が入っているではないか。そんなビルの6階のカジュアルなレストラン「Mr&Mrs Bund」で、のどの渇きを潤しながら時間を待った。


19時。ホスト役のスコットランド人、デビット・スティール氏と中国人、コリン・カオ氏の案内で私たちはバスに乗り込んだ。しかし、前もって聞いていた「覆面バス」ではなく、車窓から外を見えるバスだった。

このクルマに乗り込んで「秘密」の場所に連れて行かれる

到着した場所はまるで「秘密基地」

とはいえ、フジヤマは上海が2回目で、上海の道路事情に詳しいわけではないので、どの道を通ってどこに連れて行かれたかわからない。ただ上海市内ではあったようだ。そして、20分ほどして「秘密基地」めいた場所に到着した。

一見して、廃墟のような場所だ。薄暗い中で目を凝らすと、灰色の壁に「創意倉庫」らしき中国語が書かれている。どうやら倉庫を改装した建物らしい。壁の向こうには上海の赤いネオンに照らされた闇夜が浮かび、ミステリアスな印象がより濃くなっている。


何だかよくわからない場所を通ってから入り口ドアを開け、建物内のスペースに入った。高級レストランの雰囲気などこれっぽっちもなく、逆にそのことがアバンギャルドなこの店の個性を際出せている。その場から左へ入るとメインダイニングがあった。白い部屋に長テーブル一つ。席は10人分。

「秘密基地」の最初の入り口を入ったスペース。左の白い壁の向こうがダイニング

お客は日本人1人(フジヤマ)、遅れてやってきたフランス人夫婦1組(タクシーで駆けつけたのだろうか)、地元の人と思われる30代の女子会3人、同じく地元の人と思われるカップル2組の合計10人である。

長テーブルの席は決まっていた。私は手前の左端。天井に取り付けられた映像機器によって名前がテーブルに映し出させる。ワゴンサービスが始まってから気がついたのだが、この左端の席はワゴンが左横に着くため、とても便利なよい席だった。ひじ掛け付きの椅子は白い革張り(たぶん!)の上質なもので長く座っていても疲れなかった。

長テーブル一つに白い上質な椅子。フジヤマは一番手前右のよい席だった。名前が英文で投影されている

伊東食堂