ミシュラン三つ星をほぼ食べ尽くした男の忖度のない美食論

仏伊独 新三つ星4軒の旅、アドリア海沿いの「ウリアッシ」で逸品料理を堪能!

第12回 仏アルプスの麓から南仏、イタリア、独ミュンヘンへと駆け巡る

文/特記なき写真:藤山 純二郎 06.13.2019

南仏マントン「ミラズール」
「フランス三大海の眺望三つ星レストラン」の一つ

フランスの2軒目は南仏マントンにある三つ星「ミラズール(Mirazur)」。マントン(Menton)はモナコの東、イタリアとの国境に近く、地中海に面した美しい町として知られる。レモンやオレンジなどが豊かなマントンでは毎年2月から3月にかけてレモン祭りが開催され、多くの観光客を集める。

宿泊したマントン市内の海沿いのホテルからタクシーで16分。岩山の中腹のような場所にある。3階建てで1階が非公開、2階が受付とサロンと厨房、3階がメインダイニングとテラス席がある。第一印象は、山の中の景色のいい一軒家という感じだ。海の眺めのすばらしさは、マルセイユ、サントロペにある店と並んで「三大海の眺望フランス三つ星レストラン」の一つではないかとフジヤマは思っている。


ミラズールは、フランスのミシュランガイドが始まって以来、おそらく初めてフランス人以外のシェフがフランス国内で三つ星をとったレストランだと思われる。シェフのマウロ・コラグレコさんはアルゼンチン人である。

残念ながらそのコラグレコさんには会えなかった。店のスタッフの話では「いることもあります」とのことなので、結構不在のことが多いようだ。

イギリスの雑誌「レストラン」が主催する「世界のベストレストラン50」というランキングがあるが、ミラズールはその最新2018年版で世界第3位を獲得していた。フランスのレストランとしては1位。ところが、ミシュラン2018年版では二つ星のまま。フジヤマは正直なところ、「世界のベストレストランフランス最上位店ですら、三つ星になれずに終わってしまうかもしない1軒」と思っていたが、2019年版で見事に三つ星に昇格した。満を持しての三つ星獲得である。

師のパッサールさんに「君は名人だ」と抱きしめられる

ここもメニューの事前開示はない。しかも訪れた日曜は260ユーロ(約3万4000円)のコース1種類のみ。アラカルトはいっさいない。

シェフの祖母直伝のパンに対する人生哲学を日本語で書いた紙をくれた。その一部を引けば、「人生も同じ。パンのように単純かつ奥深く、数限りなく、純粋だ。」(パブロ・ネルーダ)とあった。


祖母パブロ・ネルーダさん直伝のパン

「ビーツの塩釜包み焼きキャビア・オセトラソース」はこの店のスペシャリテ。パリの三つ星「アルページュ」のシェフ、アラン・パッサールさんから学んだ一品で、この南仏の店にわざわざ食べに来てくれたパッサールさんが、この料理を食べて「君は名人だ」と言ってコラグレコさんを抱きしめたとか。自家菜園でとれた大きなビーツを焼いてから薄くスライスし、花のよう並べてキャビアソースを贅沢にかけてある。この店でもっとすばらしい一品である。


キャビアソースを贅沢にかけてからいただく

今ヨーロッパの料理の最先端は何らかの形で日本の影響を受けていると実感したのが「Nanakusa-No-Sekku(七草の節句)」。ごく薄いタルトの上に12種類の野菜と花をのせた料理で、適度に茹でられており、彩りも鮮やかなうえにおいしかった。もっともフランス人をはじめ外国人に「Nanakusa-No-Sekku」と説明してどれだけ理解されるだろう。


「ヤリイカのバーニャカウダーソース」もよかった。ヤリイカに細かく包丁を入れ、とろけるようなバーニャカウダーソースをかけてある。歩いて行けるぐらいの距離にイタリアがあるので、イタリアの市場で野菜を仕入れるなどその影響も見られる。


唯一の肉料理だったのが鳩のフィレ肉。中央に鳩の胸肉を配し、その周りに鳩脚、真っ赤なワイルドストロベリーなどを置く。肉のソフトな焼き方を黒ごまソースが引き立て、大粒の塩を肉の上にのせている。


デザートはオレンジシャーベット、サフランのアーモンド風味のエスブーマ、薄いチュイルの3層構造のものをいただいた。ミシュラン2019年版掲載のスペシャリテだ。3つの要素を一緒に味わうことにより、前皿の鳩肉の余韻を断ち切るようなさっぱりさが感じられておいしかった。


ちなみにエスプーマとは、液体窒素を使って食材をムースよりもっと軽い泡状にしたもので、ミシュラン・スペイン2019年版で三つ星に昇格したダニ・ガルシア氏が考え出した料理法である。