ミシュラン三つ星をほぼ食べ尽くした男の忖度のない美食論

仏伊独 新三つ星4軒の旅、アドリア海沿いの「ウリアッシ」で逸品料理を堪能!

第12回 仏アルプスの麓から南仏、イタリア、独ミュンヘンへと駆け巡る

文/特記なき写真:藤山 純二郎 06.13.2019

ドイツ・ミュンヘン「アトリエ」
最高級ホテルが威信をかけて三つ星を獲得?

さて、最後に紹介するのはドイツ・ミュンヘンにある三つ星レストラン「アトリエ(ATELIER)」である。

かつてミュンヘンに三つ星が2店あった。1980年版にドイツでの三つ星として初めて登場した「オーベルジーヌ」、そしてその後の「タントリス」である。だが、オーベルジーヌは閉店し、タントリスは二つ星になるなど、三つ星店はしばらくゼロの状態が続いた。だから、2018年版でアトリエがミュンヘンで久しぶりに三つ星を取り返したということになる。

ところがこのアトリエ、ちょっと変わっている。どこに入り口があるのか分からないのだ。

フジヤマは事前に朝食がてら下見をした。向かった先はミュンヘンで最高級ホテルの一つとされる「バイエリッシャーホフ」のレストラン「ガーデン」だ。そこで朝食を提供している。ホテルに入って右手に進むと「ガーデン」と「アトリエ」の表記はある。ところが、アトリエの入り口がどこにあるか分からない。

最高級ホテル「バイエリッシャーホフ」には、三つ星「アトリエ」とレストラン「ガーデン」の表示があるものの……

ホテルスタッフに「アトリエはどこ?」と聞くと、「このドアの奥」だと言い、何の表記もないドアを指した。ガーデンというレストランの一角に、三つ星アトリエの“入り口”があった。まさに隠れ家的なのである。

ワインセラー、バーカウンターがあるスペースに三つ星「アトリエ」の入り口はあった。それが写真の右手奥の扉だ

フジヤマはこの一風変わった状況について、こう想像を巡らす。バイエリッシャーホフは一族経営で知られるが、その経営者が他のドイツの三つ星店の副シェフだったドイツ人のヤン・ハートウィグさんを呼び寄せ、三つ星の獲得を狙った。ガーデンの一部をアトリエに改造し、わずか3年強で三つ星を獲得してしまう。狙いはこのホテルのプレステージをさらに高めるということにあり、それがわずかの期間で実現した……。

ハートウィグさんが2014年5月、アトリエ開店と当時に初代シェフに就任して以来、15年版で一つ星、16年版で二つ星、3年強という短期間で三つ星を獲得したのは異例の早さと言えるだろう。

ちなみにヨーロッパの大都市の最高級ホテル内の三つ星レストランは、このアトリエを除いて、5軒ある。パリ3軒、ロンドン1軒、ローマ1軒である。

今回、もっとも予約が難しかった三つ星レストラン

アトリエには10テーブルのみ。お客さんの数は最大40人。スタッフに聞くと、「40人とることはあまりありません」とのこと。テープルの間隔はゆったりしている。そして何より、受け入れる人数が少ないため、予約を取るのが難しい。2018年版で三つ星に昇格したときは予約は取れず、その2018年末になってようやく今回の予約が取れた。今回訪れた三つ星4軒のうち、もっとも予約困難な店と言えるだろう。


アトリエは夜しか営業していないので、店に行ったのは開店の19時。20時前にはお客のほとんどが集まっていて、フランスやイタリアではありえない「早い時間」からの入店だった。

ドイツながらフランス料理の店である。コース2種類のみで、アラカルトはなし。4皿185ユーロ(約2万4000円)、7皿235ユーロ(約3万円)で、7皿コースを注文した。フジヤマはお酒は飲まないが、ワインリストをチェックすると、最高級ホテルながら値段は比較的良心的で、フランスワイン、イタリアワインのほかに100ユーロ以下の地元ドイツワインも多くそろえていた。

おもしろかったのはパンボックス。冷たいバケット、温かいオニオン・ベーコンパン、そして温かいサワーブレッドが2つずつの合計6個。ここに無塩バター、海塩、クリームチーズ、クレス(カラシナ類の植物)チーズの4種類が添えられていて、パンに付けて食べればまったく飽きずに食べ続けられると思うほどおいしかった。


料理全般の印象を言えば、十分においしいけれど、素材を盛り込みすぎて凝りすぎるうえに、料理の提供される時間がかかりすぎるのがマイナスポイント。料理と料理の間が1時間以上空いてしまうということもあったので。

シェフのハートウィグさんは36歳と若く才能豊か。今後、どんなスタイルと個性を発揮していくかが楽しみだ。




藤山 純二郎(ふじやま・じゅんじろう)
会社員、料理評論家
東京都出身。幼稚舎、普通部、高校、大学と慶應義塾で学ぶ。祖父は日本商工会議所会頭や初代日本航空会長も務め、岸信介内閣の外相で大活躍した藤山愛一郎氏。1989年から『ミシュランガイド』(ミシュラン社)を片手に世界の三つ星レストランを食べ歩き、2018年9月までに累計121軒を制覇した。共著作に『東京ポケット・グルメ〈1992-93年版〉』(文藝春秋)、『ダイブル----山本益博の東京横浜近郊たべあるき』(昭文社)などがある。松下奈緒と米倉涼子の大ファン。