ミシュラン三つ星をほぼ食べ尽くした男の忖度のない美食論

スウェーデン初の三つ星「フランツェン」、北欧シェフの感性で日本料理をアレンジ

第8回 フジヤマの「ミシュラン新三つ星を追い求める欧州の旅」その2

文/特記なき写真:藤山 純二郎 12.05.2018

世界中のミシュラン三つ星レストランを追い求め、旅を続ける藤山純二郎さん。2018年9月には、新たに三つ星を獲得した3軒のレストランを訪問し、累計121軒の三つ星を制覇しました。藤山さんに美食論を語っていただく本連載の第8回は、2018年版のミシュランで新たに三つ星を獲得した、スウェーデンの首都ストックホルムの中央駅のすぐ近くにある「フランツェン」の魅力を語っていただきます。

2018年9月に、2018年版のミシュランで新たに三つ星を獲得した3軒のレストランを訪問する旅に出かけた。2軒目に訪問したのは、スウェーデン史上初の三つ星レストラン「フランツェン」。さっそく紹介していこう。店名は、オーナーシェフのビョルン・フランツェン氏の姓に由来する。

「フランツェン」は、ストックホルム中央駅のすぐ近くにある。2008年に現在とは別の場所で開業し、09年に一つ星、翌10年に二つ星を獲得したが、16年7月にいったん閉店してしまった。17年8月に現在の19世紀に建てられた大きな建物に移転して再開したところ、18年版のミシュランでみごと三つ星獲得となったわけである。

19世紀に建てられた大きな建物の中に「フランツェン」は入っている。予約したのはディナーだが、昼間のうちにファサードを撮影した
「フランツェン」の入り口。ドアの横にある「PRESS」ボタンを押して中に入る。メニューなどが出ているわけでもなく、一見してここがレストランとは思えない

入り口ドアの横にある「PRESS」ボタンを押して中に入ると、ちょっとしたウェイティングサロンと受付がある。反対側はショーウインドウになっていて、豚肉や熟成ハム、仔羊肉などが吊るしてある。あまり日本の高級レストランでは見かけない趣のディスプレイである。

エントランスにあるショーウインドウ。豚肉や仔羊肉などが吊るしてある

くつろげるラウンジで5種類のアミューズを味わう

この日、ストックホルム生まれのオーナーシェフ、ビョルン・フランツェン氏(41歳)は、残念ながらニューヨークに行っていて不在だった。フランツェン氏はロンドンにあった三つ星「シェ・ニコ」や、パリの三つ星「アルページュ」で勤めたことがあるという。シェフは不在だったが、支配人ソムリエのカール(Carl Frosterud)さんがとても親切に対応してくれた。

受付を済ませると、女性がエレベーターへ案内してくれた。店内は、1階がエントランス、2階がメインダイニングカウンターとキッチン、3階がラウンジになっていて、初めに3階に案内された。

ラウンジは、上品でモダンなスウェーデンのリビングルームといった趣で、とてもくつろげる。2カ所にゆったりとしたソファーが置かれ、ほかに北欧モダンのイスがいくつか置かれていた。低めのテーブルには卓上ライトと、翡翠(ヒスイ)のおしゃれなコップを載せるプレート、ナプキンがセットされている。ここでアミューズを食べてから、2階のメインダイニングカウンターに降りてコース料理を食べるという趣向になっている。コース料理は1種類のみ。選択の余地はない。アラカルトはない。

3階が北欧の家庭のリビングルームのようなラウンジ。卓上ライトの優しい光が心地よく、とてもくつろげる

提供されたアミューズは5種類。まずは、豆のタルトレット。薄いタルトの上に緑豆を複雑にのせたもの。豆のうまみとタルトの香ばしさがマッチして快適なすべり出し。一口で食べるように指示があった。

アミューズの1品目。豆のタルトレット

続いて登場したのはフォアグラのマカロン。サクッとしたマカロンの食感、フォアグラのコクのあるクリーミーさ、ポートワインのさっぱりとしたストロベリー味が一度に楽しめた。

フォアグラのマカロン

次は、ビジュアルも美しいクリスピーオニオンタルト。ミルフィーユ状に揚げた温かいオニオンタルトの上に、冷たい果物のタルトがのせてあり、温度のコントラストと食感がすばらしかった。

クリスピーオニオンタルト

湯葉のタルトレットも紹介しておこう。総支配人でソムリエのカールさんによれば、「フランツェン」の料理は、ヨーロピアン(フレンチ、イタリアンを含む)とノルディック(北欧)、それにアジアン(日本料理を含む)をミックスしたものという。この「湯葉のタルトレット」はまさにアジアンの代表的な料理。タルトレットの上にカリフラワーのピュレ、うなぎの燻製(くんせい)、湯葉を素揚げしたものをのせ、海苔を散らしている。上質なうなぎの香り高さとコクの上に、湯葉の素揚げでさっぱり感を出しており、うまくバランスがとれていてとてもうまかった。

日本料理の素材と風味を生かした湯葉のタルトレット

ノンアルコール飲料のペアリングは北欧スタイル

アミューズを食べ終わると、本日のコースメニューと飲み物ペアリングリストを見せてくれる。コースメニューは後でお見せするとして、ここでぜひ言っておきたいのは、飲み物ペアリングリスト。ワインペアリング、ノンアルコール、それから両方のミックスという3種類のペアリングを用意している。

ノンアルコールのペアリングとは、いわゆるジュースペアリングのこと。お茶やジュースなどの清涼飲料5種類くらいを順番に提供してくれる。正式名称は、ノンアルコール・ビバレージ・ペアリング。北欧の三つ星は、ここのほかに、デンマークに1軒、ノルウェーに1軒あるが、共通しているのは、どの店もコース1種類のみの提供でアラカルトがないこと、それにジュースペアリングがあることだ。あの世界のベスト50ランキングで、何回も世界1位に輝いたデンマーク・コペンハーゲンの「ノマ」も同様だった。

ワインペアリング、ノンアルコール、両方のミックスという3種類のペアリングを用意している

詳細なワインリストは、日々入れ替わるためか、iPadで見せてくれる。8000円くらいのものから40万円ほどする高価なワインまで実に豊富な品揃え。驚いたのは、日本酒も純米大吟醸2種類、純米吟醸3種類、純米古酒1種類と合計6種類もリストに入っていたことだ。日本料理にインスパイアされた料理も提供する「フランツェン」の心意気のようなものを感じた。

いよいよ2階のメインダイニングカウンターに行くのかと思ったら、その前に「本日のコース料理で使用する食材」のディスプレイコーナーに案内された。実際に食材を見ながら、その特徴などについて説明を受けるというステップがあるのだ。素材にいかにこだわっているかを客に訴求するための趣向だろう。さすがスウェーデン初の三つ星を獲得するだけのことはあると思った。ヨーロッパやアメリカの三つ星店も数多く訪れたが、このようなプレゼンテーションは初めてだった。

コース料理で使用する食材のディスプレイ。この日は18種類の食材を並べ、じっくりと説明してくれた
こだわりの食材が並ぶ。ミョウガの酢漬け(左上)、デンマークのロッシーニ社のキャビア。「フランツェン」のロゴ入り缶に入っている(右上)、マツタケやシャントレルなどのキノコ(左下)、季節の新鮮な野菜(右下)
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