インタビュー 情熱と挑戦の先に

【小比類巻貴之】ストイックな元K-1格闘家、再びリングを目指す

闘いの原点に迫る:小比類巻貴之(格闘家) 第1回

文:十代目 萬屋五兵衛 / 写真:陶山 勉 04.14.2016

K-1 WORLD MAXの日本代表決定トーナメントで、史上最多となる3度のチャンピオンベルトを獲得した格闘家・小比類巻貴之。今は道場を各地に展開し後進の指導に力を入れる。だが選手として再びリングに上がる気持ちも消えていない。3回の連載を通じて闘いの原点を探る。

頂点を逃した男が伝えたい「教訓」

K-1の世界選手権・K-1 WORLD MAXに出場するには、特別推薦枠を得るか、日本代表決定トーナメントで王者になる必要があった。

前述したように小比類巻はそのK-1・日本チャンピオンの座を3度手に入れた。しかし、世界の頂上には登れなかった。

越えられなかった「世界の壁」。小比類巻に、何が自身に足りなかったのかを聞いた。

「世界大会の準決勝までは行けました。あと一歩だったかもしれませんが、その差はとても大きかったです。

特に、頂点に立つ選手は、頭が良くなければ無理です。僕のように、本能的に戦っていたのでは駄目です。

勝利の80%は戦略だと思います。考え抜かれた戦略が必要です。対戦相手に有効で必要な攻略方法と、絶対にやってはいけないことを徹底して練習し、体に覚えさせないと。僕はそのことをせずに、ただがむしゃらに練習をしていたことの方が多かった。

結局、本番になると(相手に)あれ? 俺のことが全部分かられていると感じさせられました。これでは、試合には勝てません。

試合が終わると、まだ体力は余っているのに、理由もわからず負けていた自分がそこに立っていました」

現役時代は、不安があると、夜中でも起きて走りに行っていた。無計画にひたすら鍛練をしていた。

「僕はミスター・ストイックと言われていましたが、実はそのストイックというのは不安の裏返しだったんです。自分を安心させるためにどんどん追い込んでいた。そして、やり過ぎて身体を壊し、本番で良い結果を残せなかった。だから、無駄も多かったと思います」

人は失敗の中から多くのことを学ぶ。小比類巻が格闘技K-1から体得したことは何か。それはどんな時でも、熱く燃える闘争心を維持しつつも、冷静さを失わずにいることだ。

それを小比類巻は「平熱を保つ」という短い言葉に集約している。インタビュー中、小比類巻はこの言葉を何度となく口にしている。

格闘技は一歩間違えば命に関わる競技である。だからこそ、「平熱」を保持することは難しかったはずだ。

頂点に立てなかった悔しさの中から見いだした教訓。その悔しさと教訓を胸に、小比類巻はリングサイドというセカンドキャリアで大輪の花を咲かせようとしているのだと筆者は感じた。小比類巻の教えを受け取った若者が世界チャンピオンとして頂点に立つ日が来るのは、そう遠くないかもしれない。

次回からは小比類巻の歩んできた道を、その生誕の時からたどり直してみよう。

≪次回に続く≫

小比類巻貴之(こひるいまき・たかゆき)

K-1 WORLD MAX~日本代表決定トーナメント~において、2004、2005、2009と史上最多3度の優勝。ISKAオリエンタル世界スーパーウェルター級王者。
13歳で格闘技に目覚め、極真空手を始める。その後、極真ジュニア大会、県大会、東北大会と優勝し、日本3位となる。
極真全日本ウェイト制大会、最年少出場後、キックボクシングに転向。デビュー以来、5連続KO勝利で全日本王者を倒し、K-1 WORLD MAXの看板選手となり、2004年、2005年、2009年の3度、史上初となる、K-1 WORLD MAX 日本トーナメント3度優勝を飾る。
「ミスター・ストイック」の愛称で親しまれ、長身を生かした得意の鋭い蹴り技で日本の格闘技界を盛り上げた。
一般への指導のほか、解説業、企業への講演活動も行う。著書に『あきらめない 迷わない 逃げない』(サンマーク出版)がある。

十代目 萬屋五兵衛(じゅうだいめ・よろずやごへい)
フリーライター
本名:高橋久晴。株式会社更竹代表取締役。大学卒業後、音楽業界から職業人歴をスタートさせる。制作、宣伝を中心に独自のマーケティング戦略で有名ミュージシャンやアーティストたちと多くのプロジェクトを成功させる。その後、飲食店開発の企業に転職し、飲食店をリアルメディアとしたマーケィング部門や、他業種のリアル店舗をつなげた新BGMサービス事業、フィットネスコミュニティ事業など、ライフスタイル事業を幅広くプロデュース。数社の役員を歴任後の2013年、家業の会社を軸に自身の経験を活かした企画コンサルティング事業を開始。「現代版よ・ろ・ず・や」というコンセプトを掲げ、多くの企業のプロジェクトに携わっている。

※萬屋五兵衛:1700年代から家系伝承されてきた職業名
カンパネラナイト