インタビュー 情熱と挑戦の先に

【妙義龍】角界随一「アスリート型相撲取り」の原点

カベと向き合い挑戦する:妙義龍(関取/力士)第1回

文:十代目 萬屋五兵衛/写真:陶山 勉 07.14.2016

その筋肉質な体から、「アスリート型相撲取り」と呼ばれる力士・妙義龍。独特なアプローチで角界の頂点を目指す現役力士・妙義龍の姿を通じて、カベと向き合いながら挑戦する生き方を読み解く。(全3回)

日本の国技、相撲。その歴史は非常に古く、日本最古の歴史書である古事記(712年に編さん)に書かれている「国ゆずり」という神話が最初の記録とされている。神ではなく人間が行った記述は「日本書紀」(720年に成立)が最初である。

相撲は元々、神にささげるための神事であった。裸に廻し(まわし)を付け、髪型もサムライを彷彿(ほうふつ)させる大銀杏(オオイチョウ)を結い、土とわらで造られた土俵の上で行われる。その伝統と歴史は脈々と受け継がれ、今は日本を代表するスポーツとして人気を集めている。海外における注目度も年々高まっており、大相撲の会場には多くの外国人観光客の姿が見られる。

大相撲の会場で、平均体重が150kgを優に超えている力士同士が立ち会いでぶつかり合う姿には圧倒される。その衝撃は、2トンのトラックにぶつかる衝撃とほぼ同じだと言われている。力士たちはその衝撃を互いに受け止め、たたき合い、投げ合う。力士の肉体は表面上は柔らかい脂肪で覆われているものの、その下には極めて強じんな筋肉が隠れている。

ここで注目すべき力士が1人いる。妙義龍である。

2016年7月現在、妙義龍は29歳。5月上旬における体脂肪率は24%とされ、中肉中背の一般男性並みか、それ以上に低い。体重のことも併せて考えると、並ならぬ筋肉量の持ち主であることが分かる。彼は大学で学んだ理論に基づき日々のトレーニングや栄養摂取の方法を組み立てており、その結果つくられた肉体を指して「角界一の筋肉質」あるいは「アスリート型相撲取り」とも言われている。

実際に筆者はインタビューで妙義龍を目の前にしたが、妙義龍の「アスリート体形」にあらためて驚いた。いわゆる力士らしくない鍛えられた体だと感じたのは、第58代横綱・千代の富士以来である。

「僕の場合は、力強くなりたいという考えももちろんありましたが、どちらかと言えば、ケガをしたことによって、筋力トレーニングの重要性を感じました。今では、ケガした部分のパワーを補うため、それから、ケガを避けるために鍛えています。そういう意味では、大学で身体のトレーニング方法を学べたことは大きかったです。

トレーニングのノウハウは常に進歩しています。それを取り入れることで、身体の大きさやパワーだけでなく、スピードや技の貢献につながっています。そもそも、相撲そのものも、見た目以上の進化をしていると思います」

写真:時事

彼は学生時代から「相撲のエリート」として活躍し、そして大学卒業後にプロの世界に入った。ここだけ切り取ってとらえると順風満帆な相撲人生のように思えるが、彼は人一倍、“階段”の途中で転げ落ちた経験を持つ。

その1つが、先に妙義龍本人も触れていたケガである。トラックにぶつかる衝撃とも例えられる相撲の試合には、ケガはつきものと言われる。実際、妙義龍も大相撲というプロの世界でデビューして以来、膝十字靭帯(じんたい)断絶、血腫、左目網膜はく離など、ケガの経験は数知れない。

しかし妙義龍はこうも語る。

「力士の世界では、ケガは当たり前です。だから、ここからなんです。大切なのは考えすぎないこと。人は考えすぎると決まって悩みに入ってしまいますから」

人はカベに突き当たると、得てもするとカベばかりに注意力がそがれ、次第に気力も失われて歩みを止めてしまう。しかし本来挑戦すべきは、カベではなくその向こう側にあるゴールである。ゴールを見定めていれば、カベとの付き合い方、向き合い方が見えてくる。

アスリート型相撲取りとして角界の頂点を目指す現役力士・妙義龍の姿を通じて、「カベと向き合いながら挑戦する生き方」を読み解く。

(本文敬称略)

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