ミッドナイト・インタビュー

「これから登る山について1年かけて考えた」 Retty 武田和也 代表取締役・前編

聞き手:カンパネラ編集部/文:西本 美沙 /写真:的野 弘路 07.28.2017

  • ギャラリー1
  • ギャラリー2
  • ギャラリー3
  • ギャラリー4
  • ギャラリー5
  • ギャラリー6
  • ギャラリー7
  • ギャラリー8
  • ギャラリー9
  • ギャラリー10

おいしいお酒を酌み交わしながら、注目企業の社長の本音に迫る「ミッドナイト・インタビュー」。今夜はRetty株式会社代表取締役の武田和也氏です。「Retty」は、2011年に実名制の飲食店口コミサービスとしてスタート。投稿者の多くは実名で登録していることが特徴で、20代から40代の男女を中心に月間利用者数は3000万人を超えるまでに伸びています。

武田氏は大学卒業後、インターネット事業を手掛けるネットエイジ(現ユナイテッド)に入社。3年で会社を退社し米国へ。1年後の2010年にRettyを設立しました。

先行する同種のサイトは、言わずと知れた「食べログ」と「ぐるなび」。先行者が占める“レッドオーシャン”で食い込むために、どんな着眼点で取り組んだのか。「最初からこの事業が伸びる確信があったんです」と堂々と語る武田氏が、起業に至るまでの道程を明かします。

──まずは乾杯。

武田 乾杯。

──今日のこのお店、東京・高輪台「壇太」は武田さんのオススメなんですよね。

武田 ここは、本当にめちゃくちゃ美味しいんですよ。見た目は中華居酒屋みたいな感じですけど、何を食べても美味しいし安い。せっかくお店を選ぶなら、連れてきた人たちの行きつけになりそうなところにしたいと思って、日経BPの近くでお店を選びました。

僕は焼き肉担当、社員はみんなエンゲル係数が上昇

──Rettyの社長が選ぶお店というだけで、なんだか凄そうですよね。どう考えても普通の人よりお店に詳しそうですものね。毎日お店巡りなんですか。

武田 そうですね。お店巡りは仕事でもあるんですけど趣味でもあるんです。でも、Rettyを始める前はそこまで食べ歩きはしていませんでした。焼き肉は好きだったので巡っていましたけど、食べ歩きというほどでもなく。休日は食べ歩きのために旅行に行ったり、お昼にお寿司を食べて、そのままラーメン食べて、飲んでみたいなのは会社を始めてからですね。

自分でRettyを見てても、行きたいお店がどんどん溜まっていくんですよ。登録している行きたいお店リストが5000軒になっているので、いくら食べ歩いても全然追いつきませんね。どうせ食事に行くなら今まで行ったことがないお店や自分が大好きなお店に行きたいんです。

社員も僕と同じように、もともと食べ歩きはそれほど好きではなかった人もいますが、Rettyに入社すると「行きたいお店」が見つかる頻度が格段に上がるので、気がつけばどんどんグルメになって、どんどんエンゲル係数も上がっていくようですね(笑)。

うちの会社には担当制があって、そのジャンルに精通している社員には正式に「担当」がつきます。ちなみに僕は焼き肉担当です。でも今は社員が増え、なかなか希望の担当になれない人もいます。担当と名乗るからには、それなりに食べ歩いていないといけないので社内の審査メンバーが基準を満たしているかどうかを審査して、合格すれば担当になれる仕組みです。

──審査があるんですね。その食べ歩きの費用は会社が払っているのですか。

武田 いや、払っていないです。ただグルメ調査費という制度があるので、月に1度はどんなお店に行ってもいいようにしています。社員には好評みたいで、みんなで少し高めの寿司屋に行ったりしています。次はあそこ行こうよと盛り上がるのでコミュニケーション活性化にもなっていますね。今のところ1人1万円くらいが相場ですね。

“登る山”が低いと多くの人をハッピーにできない

──Rettyを設立した2010年には、「ぐるなび」や「食べログ」といった飲食店情報サイトが既にありましたよね。“レッドオーシャン”とも言える市場だったと思います。なぜそのマーケットに挑戦したのですか。

武田 無謀だよねとよく言われます。でも最初からこの事業が伸びる確信があったんです。

ちょうど2010年頃、スマートフォンやソーシャルメディア(SNS)が普及するタイミングを迎えました。あらゆるジャンルがスマホやSNSのつながりによって、形を変えていくだろうという確信がありました。またそれに伴って、個人の情報発信量が増えていく確信もありました。いわゆるCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)の形が刷新されると思ったんですよね。

──2010年はちょうど「ソーシャルコマース」の可能性が言われ始めた時期でもあります。しかしそこから7年が経過した今でも、ソーシャルコマースで成功している事例は見当たりません。一方で実名制を敷くRettyの口コミが支持され、うまく立ち上がった。その理由は何だったのでしょうか(注:ソーシャルコマースとはネットユーザー同士における商品やサービスの情報交換を促すことで実際の購買行動につなげるマーケティング手法)。

武田 発信者が爆発的に増えることがポイントだと思っています。メルカリも出品する人が爆発的に増えたから、あのモデルが成り立っていますよね。

やはり発信しやすいカテゴリーとそうではないカテゴリーがある。例えばFacebookでは「今日ここに行った」と発信する人が多いですよね。そもそも一般的な生活行動の中に、「あのお店美味しかったよ」と報告するコミュニケーションは存在していました。スマホやSNSはこうしたコミュニケーションを加速させた格好になるのだと思います。

一方、ショッピング分野では出品する人はいても、そこまで発信をする人はいない。例えば、ショッピングサイトに数百、数万の商品があったとして、その一つひとつに対してユーザーの口コミが多いかというと、そんなに多くはならないと思うんです。でも、食は1軒のお店に対して、美味しかった、どうだったという情報が集まりやすい領域なんですよね。

──口コミの発信量が圧倒的に多い領域だったから事業化したということでしょうか。

武田 事業として成り立つかどうかという点ではそうです。あとは自分が本当にやりたいかどうかですよね。起業する前、事業を考えるために1年間アメリカに行ったんです。学生ビザでサンフランシスコに行き、人に会ったり図書館にこもったりしていました。

その時に、食やゲーム、アニメなど、日本が世界に誇れる領域で仕事をしたいなと思ったんです。そういう領域で新しい価値を先に作り、海外に展開できる会社になろうと。あとは自分の事業を通じて人を幸せにしているという確信を持ちたかった。そう考えると、やっぱり美味しいものって何だかんだ言って、人を幸せにする力を持っているんですよね。

起業することは決まってましたが、事業アイデア自体はアメリカに行く前には何も形になっていませんでした。日本にいるだけでは考えられないこともあると思い、アイデアを考えるためにアメリカに行きました。ソフトバンクグループの孫正義さんがこういう言葉を過去に発言されています。「登りたい山を決めることで、人生の半分が決まる」。この言葉が僕は好きなんです。やることを決めたら、その領域で当然一番になりたい。でもその領域を決めるまでが重要なんだと。

登る山の大きさによって、登った後の達成感も当然異なります。結局、山が低いと多くの人をハッピーにできない。だからこそ、登る山を決めるためにアメリカで1年間の時間をかけました。

1年は長いと思う人がいるかもしれない。でも、その後、何十年もその領域でやるんです。それを決める時間に1年間を使うのは、決して間違ってはいなかったと思っています。

ピルゼンアレイ