ビジネス書では語られない「職場人間学」

【職場人間学22】 「好きにやっていい」という上司の言葉には注意しなさい

第22回:上司におもねるようだが、実は奥が深い仕事のコツ

文:田代 真人 / 写真:石塚 龍彦 08.06.2015

職場の問題は酒場で解決できると信じるコンサルタント・田代真人氏。今回の相談は、スカウトされてきた「できる上司」との付き合い方。田代氏は「上司になりきり、上司の望みを想像してみよう」と助言する。その真意は……?

あらゆる問題は酒場で解決できる。30年以上のビジネス生活で得た実感だ。別に酒に強いわけでもない。ただ酒場のあの雰囲気は人を楽観的にする。一人で飲んでもいいが、二人酒もまたいい。

僕の仕事はコンサルティング。ありがたいことに営業することなく、さまざまな業種からお仕事の依頼をいただく。しかし悩みの種は、というほどの悩みでもないが、産業カウンセラーの資格を持っているので、経営者や部課長はもとより新入社員からも相談されることが多い。実は本業よりもこちらに取られる時間が多いのだ。

仕事中の午後、僕のiPhoneにフェイスブック(Facebook)メッセージが届いた。友人の梅上(うめかみ)だ。

「田代さん、今夜空いてませんか?」

「ん! 大丈夫だよ。なに?」僕は即座に返信する。

「実は、接待のお客さんからドタキャンされちゃって、お店を予約しているので、キャンセルも申し訳ないじゃないですか。なので田代さんどうかなと?」

「もちろん行く! 場所は?」

「銀座です! では、18時に銀座の三越前でどうですか?」

「了解!」

接待というからには高級店なのだろう。普段自腹では行けない店だろうから行かない理由はない。

最近は、飲食店で予約していても簡単にキャンセルする人が多く問題になっている。席だけの予約ならまだしも、コース料理を予約してのドタキャンは、お店にとって最も避けたい事態だ。

キャンセル料が取れるのならいいが、電話で予約してきただけの相手から取れる方法はない。また逆にお得意さんであれば、それはそれでキャンセル料など取れない。なんとも悩ましい問題なのだ。

「ご無沙汰してます。すみません。突然で」

「いやいや、ちょうど空いていたし、接待で選んだお店なら美味しいだろうしね」

笑いながら僕がそう言うと、

「もちろん。そんなに高くはないのですが、こぢんまりとした品が良いお店なんですよ」

「でも僕みたいなオヤジでよかったの? ステキな女性でも誘ったほうがよかったんじゃないの?」

「小さなお店で、女将さんが一人で切り盛りしているので、逆に女性は誘いにくいんですよ。田代さんに相談したいこともあったし」

「相談?」

どうもまた相談に乗らなきゃならない夜になりそうだ。

スカウトされてやってきた「できる人」が上司に

店は銀座の裏通り。古びたビルの1階にあった。表に「会員制」と記された札がかかっている。和風の引き戸を開けるとカウンターだけの小さな空間が現れた。若い女将さんが「いらっしゃい」と迎えてくれる。

「梅上さん、お久しぶりですね」と若女将。

僕らはまずビールで乾杯する。

「この店って会員制なの?」小さな声で梅上に尋ねる。

「そういうわけじゃないですよ。でも、そう書いてないと一見さんが入ってきちゃうでしょ。通りに面しているし。かといって『一見さんお断り』と書くのも無粋じゃないですか」

「たしかにね。特に小さな店だと一見さんに騒がれても困るし、ドタキャンもね。常連だと今日のように気を遣ってキャンセルしないし。よく来るの?」

「たまにですね。お客さんの中でも親しくなった人だけ連れてきています」

「そうなんだ。ところで相談ってなに?」

と聞いたところで、突き出しが出てくる。枝豆とイクラだ。枝豆はビールのつまみでスムーズに受け入れられるのだが、イクラかぁ。イクラが出てくると、いきなり気分は日本酒モードに突入してしまう。まぁ、とはいえ急ぐことはない……。

「何カ月か前に新しい部長が来たんですよ。他社から社長がスカウトしてきたみたいで、バリバリにできる人だといううわさなんですよね」

梅上はおもちゃ会社で企画を担当している44歳。社長は3代目だが、どうも会社の業績に危機感を覚えているようで、最近、上層部に「できる人」をスカウトしてきているらしい。

「どんな人なの?」

「人当たりはいいですよ。確かにできるって感じですかね」

「じゃあ、心強いね」

「それがなんかここに来て、いろいろあって……」

「どうしたの?」

「彼は、部下に対して指示しないんですね。だいたい『君の好きなようにやっていいよ』って言うんです」

「いいじゃない。好きにやらせてくれるなんて理想の上司じゃない」

「最初はそう思っていたんですが、どうもそうじゃない感じなんですよ。自分の思うようにやると、ほとんどの場合、機嫌が悪くなるんですよね。『そうじゃないんだよなぁ』とか言って。

これは僕だけじゃないんですよ。だからみんなもどう対処していいかわからなくて……」

「あーそういうことね。いるんだよね~たまに」

「えっ。どういうことですか」

伊東食堂