ビジネス書では語られない「職場人間学」

【職場人間学24】詰め込み教育が、想像力・創造力を高める理由

第24回:経験の引き出しの数が大事、最後のポイントは「偶然力」

文:田代 真人 / 写真:石塚 龍彦 09.10.2015

職場の問題は酒場で解決できると信じるコンサルタント・田代真人氏。今回も引き続き想像力と創造力の話。田代氏は「詰め込み教育は悪いことじゃない」と語る。その根拠は……?

あらゆる問題は酒場で解決できる。30年以上のビジネス生活で得た実感だ。別に酒に強いわけでもない。ただ酒場のあの雰囲気は人を楽観的にする。一人で飲んでもいいが、二人酒もまたいい。

僕の仕事はコンサルティング。ありがたいことに営業することなく、さまざまな業種からお仕事の依頼をいただく。しかし悩みの種は、というほどの悩みでもないが、産業カウンセラーの資格を持っているので、経営者や部課長はもとより新入社員からも相談されることが多い。実は本業よりもこちらに取られる時間が多いのだ。

おもちゃ会社で企画を担当している梅上(うめかみ)との話は、酒を呑み、つまみをいただきながらも続いている(前回はこちら)。それにしてもこの店では、厨房というものすらないのに、七輪ひとつでさまざまな料理が供されることに驚く。

次に出てきたのは備長炭で炙(あぶ)られた柳カレイの塩焼きだ。柳カレイは北海道産なども多く出回っているが今夜の逸品は、新潟の越後柳カレイ。最近、新潟ではブランド魚として絶賛売り出し中という。この柳カレイも七輪と備長炭の組み合わせで、遠赤外線の効果か、中まで身がしっとりと焼き上がって美味としか言いようがない。

さて、僕らの想像力の話は続いている。梅上が言う。

「そう考えると結局、イマジンとクリエーティブの関係は、世の中が発展していくのに必須のルールなんですね」

「そうだね。でも発展に限らず、平和な社会、平和な世界を作るのにも必要なことだよね。さっきのミュージシャンに限らず、僕らを楽しませてくれるアートや芸術もすべてそうだよね」

「僕は小説を読むのが好きなんですが、小説も言ってみれば想像力の賜(たまもの)ですね。さっきの作詞と同じでアタマで想像したことがもっとも重要で……」

「あとは文字にするだけ?」

「文字にするのも大変なんですよね」

「だよね。どのような言葉を使ってカタチにするか。歌詞には曲のリズムを考えなければいけないことはわかると思うけど、普通の文章でもリズムはあるんだよね。だから文筆家はリズムを考えて文章を書いていく。

だから同じ情景を伝えるのでも言葉を選んで構築していかないと自分の思う世界が描けないんだよね。それこそ今度は創造の苦しみになるんだろうけど」

「そう考えると絵描きさんも同じなんでしょうね」

「どんな画材を選ぶかでも違うだろうしね。単に写実的なものを描くのも描き手によって結果はまったく違うからね。でも結局、想像力も創造力も自らの経験によるところが大きいよね」

「どれだけ多くの経験をしたかってことですかね?」

「いろいろな経験をすればするほど、経験の“引き出し”は増えていくからね。いろんなことを想像するのにもそれは有用だし、つくっていくのにも必要なこと……」

「おなかの具合はどうですか? もっと食べられます?」

女将が僕らに話しかける。話に夢中ではあるが、目の前に出されたものは二人ともぺろっと平らげていた。

「なに食べても美味しいですね。小さなお店だと乾き物ばかりで呑みが中心になりそうですが、ここは違いますよね。まだまだ食べられますよ」

そう僕が応えるとしばらくして出てきたのは今度は昆布で和(あ)えたマダイのお刺身。訊くと昆布は築地・吹田商店で仕入れた一級品だとのこと。繊細な旨味は刺身の甘さと相まって上品な味に仕上がっている。