ビジネス書では語られない「職場人間学」

【職場人間学24】詰め込み教育が、想像力・創造力を高める理由

第24回:経験の引き出しの数が大事、最後のポイントは「偶然力」

文:田代 真人 / 写真:石塚 龍彦 09.10.2015

職場の問題は酒場で解決できると信じるコンサルタント・田代真人氏。今回も引き続き想像力と創造力の話。田代氏は「詰め込み教育は悪いことじゃない」と語る。その根拠は……?

数多くのインプットがあるから、アウトプットできる

「どこまで話したっけ? あーそうそう。インプットね。

僕はここに想像力のポイントがあると思っているんだよね。アウトプットするためにはインプットが必要だからね。しかも数多くのインプットが複合的に組み合わされて、個性的なアウトプットやいままでにないものができあがる。

ここ数年、ずっと日本の詰め込み教育の弊害が言われてきているじゃない。それに『インターネットの普及で、記憶しなくてもネットを“外脳”として使えば、能力は無限大だ』なんてことを言っている人もいる。

でも考えてみてよ。

そりゃネットで検索すればなんでも出てくるよ。ほとんどのことは調べられる。最近は、文字を入力しなくてもスマホに語りかければ検索してくれる。でもいくら音声検索の精度が上がったところで、検索して調べて、やっとわかるってことと、『知っている』ことはまったく違うでしょ」

「たしかに。ネットで検索するのにもスマホは必要だし、いまだに携帯電波が入らないところもありますし、いつも速度が速いともかぎらないので、そんなまどろっこしいことできないですよね」

頭の中にあるいろいろな記憶がスパークする、それがひらめき

「電池切れたらタダの箱だしねぇ。

それにね。『知っていること』、つまりアタマの中にいろんな情報を記憶として持っていると、ときにそれら情報がスパークすることがあると思うんだ。それを僕らは『ひらめき』と呼んでるにすぎない。

バチッと情報と情報がスパークして、ひらめくんだよ。その瞬間が発明が生まれる瞬間。世の中で偉人と呼ばれた人々は、ほとんどがそれらのひらめきをものにしているんじゃないかな」

焼酎の水割りを飲んでいるとまたもや良い香りが漂ってくる。今度は、フライパンで作るアスパラベーコンのようだ。この店は炭火焼きにこだわるわけでもなく、柔軟に若い客が好むような料理も出してくれる。僕はもう若いというわけではないが、揚げ物以外は出されれば食べてしまう。

「田代さんは詰め込み教育賛成派なんですね?」

過度ではない「詰め込み教育」はプラスに働く

「そうだね。個人的には大賛成。ただ大量に詰め込んだ人がすべて情報をスパークさせるわけでもないわけだから、まぁ、身体を壊さない程度に詰め込めばいいんじゃないかと思うよ。詰め込みを否定する風潮、ネット万歳! って流れに乗りたくないという……天邪鬼なんだね」

「知識が多いにこしたことはないですからね。でも発明には運も必要なんじゃないですかね」

「もちろんそうだね。いまや食品のみならず化粧品や医薬品にも利用されているトレハロースという添加物があるけど、これなんか岡山の林原というバイオメーカーの研究員がある日出社したらビーカーが倒れていて、そこから流れていた内容物を検査したらトレハロースだったんだって。そうして安価にトレハロースを作る方法を発明して特許を取って会社が大きくなったと。当時の社長が笑いながら僕に話してくれたんだけどね。

まぁ、林原という会社自体はその後、会社再生法適用でほかの会社に買われちゃったんだけど、トレハロースなどの発明があったから、買う会社も出てきたってわけだ。

だからすべての発明が情報のスパークによるものではない。そういえば、さっき話したノーベル賞を受賞した中村修二さんなんか、実用的な明るさで光るLEDは、どうして光るのかわからなかったらしいからね。できちゃったけどどういう原理で明るく光るのかわからなかったと。

普通に考えると欠陥だらけの窒化インジウムガリウムという材料を使用すると高輝度に光るわけがないのに光った。でも光ったからいいやと商品化したそうなんだよね。21世紀になってようやく原理が解明できたそうなんだけどね」

「おもしろいですね。そう考えると理論だけ情報だけ、ひらめきだけでもないんですねぇ。偶然も創造の源になるってことは、いわゆるセレンディピティってやつですかね。必要なのは」

「偶然力とも言えるよねぇ。となると、発明や発見はこうなるね」