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脱サラして「イチゴの神様」になった男

トップパティシエが絶賛する、野口圭吾さんの“ストロベリー・ドリーム”

文/写真:須田 泰成 06.16.2016

栃木県宇都宮市にあるユニークなイチゴ農園「ハート&ベリー苺」。オーナーの野口圭吾さんは、国内のトップパティシエに「イチゴの神様」と呼ばれるほど。その栽培法とビジネスに迫る。

カツオから抽出したアミノ酸などを肥料に美味を追求

野口さんのイチゴは、帝国ホテル東京以外に、ホテルオークラ東京、ホテルニューオータニなどの有名ホテル、そして、前述のアピシウスなどの高級レストランに納入され、高い評価を得ている。甘さ・酸味・香り・水分の量(みずみずしさ)の4要素が、それぞれに極上で、しかもバランスが良いのが特徴だ。日本を代表するパティシエの一人、帝国ホテル東京の望月完次郎シェフパティシエは、野口さんのことを「イチゴの神様」とまで呼ぶ。

帝国ホテル東京の望月シェフパティシエと。「美食の饗宴苺尽くしツアー」にて

栽培方法は、研究を重ねて工夫した独自のもの。水は、電気分解して酸性とアルカリ性に分けた地下水を生育状況に応じてタイミングを計りながら与える。肥料には、カツオなどから抽出したアミノ酸を加えるなどする。

農場経営の夢を諦めきれずキャリアチェンジ

そんな野口さんの農業への情熱は、子供の頃の夢にさかのぼる。

「小さいころからアフリカの大自然で生きる動物の映画とか、動物と人間が触れ合うドラマとかが好きで、大人になったら牧場を経営してみたいと思っていたんです」

大学は、東京農業大学の畜産学科に進んだ。しかし、非農家出身者の就農は難しく、卒業後、臨床検査の受託事業を行う相互生物医学研究所を経て、母校・東京農大の職員となった。しかし、10年勤務した後、夢を諦めきれない自分に気づいた。奥さんの実家がある栃木県へ移住。園芸などの会社に勤め経験を積んだ後、イチゴ農園を始めた。

栃木県でイチゴの生産を開始して間もなく、現実というカベにぶつかった。それは「農家にはいかに美味しいイチゴをつくるかよりも、いかに大量に出荷するかが要求される」というものだった。

「美味しいものをつくりたいと思って移住してきたので、悩みましたね。栽培方法を工夫するのと並行して、東京のイベントや勉強会にも積極的に参加して、時間をかけて、分かってくれる人に直接販売するネットワークをつくりました」

人生を変えたのは、前述した帝国ホテル東京の望月氏との出会い。野口さんのイチゴに出会った望月氏は、自分だけの食材と独占することなく、むしろ、同じイチゴでライバルたちと競い合いたいと考え、口コミで同業者に伝えた。

結果、都内の有名ホテルや高級レストランの間に、野口さんのイチゴの評判が広まった。相場の3割ほど高い値段だが、野口さんのイチゴには、それだけの価値があると判断されたのだ。

カンパネラナイト